ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 今週は"北の大地"が最も盛り上がる一週間ですね。夏競馬唯一のGII戦、札幌記念(札幌・芝2000m)が8月21日に行なわれます。

 今年もGI馬5頭が参戦するなど、豪華なメンバーが顔をそろえました。ソダシがラヴズオンリーユーを下した名勝負から1年。今回はどんなレースが繰り広げられるのか、とても楽しみにしています。

 このレースで、僕がとりわけ注目しているのは、初顔合わせとなるパンサラッサ(牡5歳)とジャックドール(牡4歳)の逃げ争いです。

 現役屈指の逃げ馬同士の激突。レースの予想をするうえでも大きなポイントになりますが、ジョッキーの心理面や駆け引きなども含めて、その攻防には興味がそそられます。

 さらに、パンサラッサを管理する矢作芳人厩舎からは、同型の僚馬ユニコーンライオン(牡6歳)もエントリー。この馬の存在もまた、いろんな可能性を膨らませ、面白味が一段と増しています。

 まずは、これら3頭がどういった立ち位置をとるのか、分析してみたいと思います。

 ダッシュ力と二の脚の速さは、やはりパンサラッサが一番でしょう。この馬が意図的に下げることをしなければ、自然とハナに立てるのではないでしょうか。

 札幌記念より1ハロン距離が長かった前走のGI宝塚記念(6月26日/阪神・芝2200m)でも、前半3ハロンを33秒台という積極的なラップを刻みました。この馬としては、あの形で逃げ込むのが最良の乗り方であり、今回もそのスタイルは変えないと思います。

 中距離のレースで前半3ハロンを33秒台で入っていく馬など滅多にいません。「付いていったら、共倒れになる」と相手に思わすことができる点からも、逃げ争いでは一歩リードしています。

 続いてジャックドールですが、この馬は先手を奪ってマイペースに持ち込んだ前走のGI大阪杯(4月3日/阪神・芝2000m)で5着と敗戦。この結果を受けて、陣営の考え方に変化があるかどうか。まだキャリアも浅く、今後に向けて戦法の幅を広げたい、という意識が芽生えているかもしれません。

 実際、陣営からは「控えても競馬ができる」といったコメントが出ていて、必ずしもハナにはこだわっていない様子。そもそも番手からの競馬での勝ち鞍もありますしね。

 このレースが本番ではなく、あくまでも先を見据えての始動戦ということからも、控える競馬をしてくる可能性は高そうです。僕は今回、この馬は2番手につけて、自分のリズムを重視した乗り方をすると見ています。

 ハナに立つという点では、ユニコーンライオンが3頭のなかで最も可能性が低いと思います。というのも、同じ厩舎のパンサラッサがいて、わざわざ共倒れになるような作戦をとるとは考えづらいからです。

 厩舎としては、この馬がジャックドールにスムーズな競馬をさせないよう、適度な圧力をかけてくれる形が理想でしょう。そうして、パンサラッサとワンツーを決めることができれば、最高なのではないでしょうか。

 以上のことから、注目の逃げ争いは、戦法に迷いがないパンサラッサが先手を奪って、2、3番手にジャックドール、ユニコーンライオンが続く隊列と想定されます。

 いずれにしても、パンサラッサが逃げるとなれば、スローになることはなく、前半から息の入りづらい平均ペース以上の流れになるでしょう。

 そうした隊列からすると、その3頭を見ながら4番手付近でレースを運べるソダシ(牝4歳)が最も競馬をしやすいかもしれません。

 ハイペースで引っ張ってくれる馬がいれば、折り合い面の不安もなくなります。道中リズムよく運んで、直線入り口で前の3頭を射程圏内に入れて進出してくる姿が容易に想像できます。

 しかも、札幌コースは2戦2勝と得意の舞台。昨年と比べて斤量が増加するとしても、今年もこの馬が中心となるのではないか、というのが僕の見立てです。

 ソダシに続くのは、同馬の動き出しのタイミング次第。それによって、前が残るのか、後ろから差してくる馬がくるのかが分かれそう。

 ただ、ソダシにしてもパンサラッサを捕まえるのに、小回りコースでは悠長に構えてはいられません。意識は早め、早めに動くはず。そうなると、穴候補となるのは差し馬ではないかと思います。

 そこで白羽の矢を立てたいのが、ユーバーレーベン(牝4歳)です。


札幌記念での大駆けが期待されるユーバーレーベン

 2021年のGIオークス(東京・芝2400m)で勝利を飾ったあと、脚部不安を発症。以降、なかなか順調に使うことができなかったのですが、今春はドバイにも遠征し、状態はだいぶ戻ってきました。

 そこからひと息入れた今回は、十分にリフレッシュ。その臨戦過程からも、そろそろ復活があってもよさそうです。

 もはや古い話かもしれませんが、2歳時のGIII札幌2歳S(札幌・芝1800m)では、ソダシと同タイムの2着と好走しています。あの時は出遅れて最後方からの競馬を強いられましたが、3コーナーから一気に動いて、直線入り口ではソダシに並びかける競馬を見せました。"負けて強し"の内容でした。

 当時の走りから、洋芝の適性もかなり高そう。小回りコースで前崩れの展開になれば、回転の速いピッチ走法で器用に立ち回れるこの馬の決め手が、存分に発揮されるのではないでしょうか。

 ということで、快速馬たちが作る展開に乗じて台頭しそうなこの馬を、今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。