風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

第11回:守田英正(スポルティング/日本)

独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。今回取り上げるのは、今季ポルトガルの名門スポルティングへ移籍し、チャンピオンズリーグでのプレーも楽しみな守田英正。日本代表での活躍も目覚ましい彼の何が優れているのか、分析してもらった。

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パスを受け続けられる選手

 3シーズンにわたって川崎フロンターレの主軸として活躍した守田英正が、ポルトガルのサンタ・クララに移籍したのは昨年の冬のこと。すると、今夏はポルトガル3大クラブのひとつであるスポルティングに移籍。わずか1シーズン半でキャリアアップを果たした。


守田英正は、今季からポルトガルの名門スポルティングでプレーしている

 新天地でも上々の開幕戦デビューを飾った守田は、おそらく現在最も急成長を遂げている日本人選手に挙げられる。しかも、今シーズンのスポルティングはチャンピオンズリーグにも出場するため、さらなる飛躍も期待できそうだ。

 スポルティングではボランチを、日本代表ではインサイドハーフを主戦場とする守田は、どのような持ち味を武器に、これだけの成長を遂げたのか。彼のプレーの特長について、風間八宏氏が解説してくれた。

「まず、彼のプレーを見て最初に確認できるのが、ボールを出して、また受ける作業を続けられる選手だということです。その時に、パスを出した味方と自分の間に敵を入れない。だから受け直しがうまく、パスを受け続けられる。

 ここで大事なポイントになるのは、パスを出す時は常に自分も含めて考える点。たとえば、パスを出そうとしている味方が相手にマークされていたら、その時点でパスを諦める選手が多いかもしれませんが、守田は違います。

 自分が次にパスを受け直すのを前提に考えているので、マークされている味方と合わせて2対1になり、ある種のフリーの状態としてとらえることができる。つまり、フリーの定義が違うわけです」

 風間氏いわく、守田以外にも、主に川崎フロンターレの選手および出身者で同じプレーができる日本人選手はいるが、そのなかでも守田はとくに優れていて、回数も多く質も高い、とのことだ。日本で培ったプレーや考え方をそのままヨーロッパで発揮し、現在はさらにレベルの高い環境のなかでプレーする守田。急成長の背景には、そんな下地があった。

相手を見ながらプレーできる

 では、そんな守田の強みは何か。風間氏が続ける。

「ひとつは、止める技術が正確で、常にボールをコントロールできているところですね。一瞬のタイミングを逃さずに高精度のパスを出せるのは、いつでも蹴れる場所にボールを置けているからです。

 それと、ルカ・モドリッチの時にも話しましたが、守田も無駄にボールを触りません。ボールを動かさずに相手との距離、間合いをつくっているので、相手は簡単には懐に飛び込めなくなりますし、捕まえ難くなります。

 逆に言うと、捕まえ難い選手というのは、ボールを止めて相手も止めることができる、ボールと一緒に動く時は相手に狙いをつけさせない運び方ができる。このふたつができると相手はボールを奪いにいけなくなるので、時間がつくれるのです。よくサッカーでは時間をつくれと言いますが、なぜ時間がつくれるかと言えば、それは相手が近寄れないから。守田は、その技術を持っています。

 しかも彼の場合、先ほど話したようにフリーの定義が違うので、一度ボールを持ったらずっと自分がフリーになり続ける動きをします。だから、ほとんど相手に捕まらずにプレーし続けられる。これも、彼の大きな武器だと思います。

 そして何よりの強みは、相手を見ながらプレーできる点でしょう。いつも話していることですが、味方だけを見るのではなく、しっかり相手を見てプレーしているからこそ、決定的なパスが供給できる。あるいは、相手が見えているからこそ、相手にとって捕まえ難い選手になれるし、相手に触られない選手になれるわけです。

 それは守備にも言えて、しっかり相手が見ているから、要所を消しながら待ち、いざという時に狙いにいける。1対1の局面でも、相手をしっかり捕まえられる。攻守両面で忠実にサッカーの大事なポイントをおさえているという意味で、本当に守田は目覚ましい成長を遂げている選手だと思います」

 大卒選手の守田は、今年でプロ5年目をむかえた27歳。日本代表としても、カタールW杯アジア最終予選のオーストラリア戦(ホーム)から4−3−3のインサイドハーフとして確固たる地位を築き上げ、日本を代表するMFに成長しつつある。

 果たして、守田はこのまま成功の階段を駆け上がることができるのか。より高みを目指すために必要なものは何なのか、敢えて風間氏に聞いてみた。

もっと違いを生み出せる選手になれる

「前回紹介した南野拓実がゴールに関わり続けることで目立てる選手だとすれば、守田の場合はゲームをコントロールすることで際立てる選手。だとすれば、もっとボールを受ける回数を増やして、相手チームにとって捕まえなければいけない選手になれるかどうかですね。そうなった時には、ゲームを動かせる選手になっているはずです。

 守田は狭い場所でも広い場所でも難なくプレーできる技術があり、だからこそ速いチームにも順応できる。つまり、どのチームでやってもゲームメーカーになり得る力は持っているので、より高いレベルに身を置いたほうが伸びる選手だと思います。

 パスの精度で言うと、まだ長距離パスや短距離のラストパスが少し乱れてしまうところがあるので、どんな状況でも味方がコントロールしやすい位置にパスできるようになれば、もっと違いを生み出せる選手になれる。ボールの置きどころ、相手が見えていること、パスのタイミングといった部分は問題ないので、あとはいかにしてピンポイントのパスを供給できるか。わかりやすく言えば、"丸"を"点"に変えられるか、ですね」

 これだけの可能性を秘めた日本人選手は多くない。それだけに、名門スポルティングの一員として、世界最高峰のチャンピオンズリーグの舞台に立つ可能性が高い今シーズンの守田は、これまで以上に大きな期待がかかる。

 よりハイレベルな相手と対峙した時、どのような変化を見せるのか。サッカーファンにとって、今シーズンの守田のプレーぶりは必見だ。

守田英正 
もりた・ひでまさ/1995年5月10日生まれ。大阪府高槻市出身。金光大阪高校、流通経済大学を経て、2018年に川崎フロンターレ入り。1年目からレギュラーとして活躍し、3シーズンプレーした後の2021年1月に、ポルトガルのサンタ・クララに移籍した。2022−23シーズンからは同国の名門スポルティングでプレーしている。日本代表は2018年9月にデビュー。カタールW杯アジア最終予選では、チームの主軸としてプレーしている。

風間八宏 
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。