※この記事は2013年09月14日にBLOGOSで公開されたものです

　

赤木智弘の眼光紙背：第289回


　2020年のオリンピックが東京に決定した。
　招致成功おめでとう！　やったぞ東京！　おめでとう東京！
　東京ワッショイ！　ワッショイ！　ワッショイ！
　あ、東京ワッショイはJOCによる、商業利用NGワード(*1)じゃなくて、遠藤賢司の歌だった。
　とりあえず、これだけ東京オリンピック招致を喜んでおけば「喜ばない奴は在日だ」などという、妄想にもほどがある、品のない非難を受けないで済むだろう。もう一回、北朝鮮で自由民主主義を謳歌する国民たちのように「おめでとう東京！」と叫んでおこう。
　さて、去年サッカー日本代表の腕を４本にした合成写真を「福島の影響ではないか」などとして、日本の原発事故を揶揄したフランスが、またやらかした。今度はオリンピックが東京に決まった受けて、汚染水の問題を揶揄し、オリンピックのプールが放射線を出しているような風刺画を描いたようだ。(*2)

　確かに、今の日本の汚染水漏れの問題は、揶揄されても仕方ないのかもしれない。 　もちろん現状、健康に問題が発生するような状況には程遠いことは言うまでもないが、一方で、とてもではないが汚染水のコントロールができているとは言えない状況にある。
　安倍総理はIOC総会でのプレゼンテーションで「汚染水は完全にブロックされている」と明言したが、それに対してネットで「ブロックではなくフロッグ（まぐれ）だろ」と、誰かが言っていたのに同意する。
　少なくとも、一連の原発事故に関しては、すべて「運良く、大半の地域は問題がなかった」のであり、事故に対する事前の備えは完全に破綻していたし、今もなお十分ではない。
　そうした意味で安倍総理は、問題の現状を把握せずにこの軽率な発言をしたのは間違いないし、彼が叩かれるのであれば、それは当然である。

　とはいえ、日本のそうした現状をフランスに揶揄する権利があるだろうか？
　かつてフランスは数々の核実験を繰り返してきた。1962年には大きな事故が発生し、実験に立ち会った当時の国防相や科学研究・核担当相を始めとした、2000人が被曝した。
　そして今もなお、フランスは核兵器保有国である。
　核兵器に守られた自らの足元を見つめられず、他国の困難のみを揶揄する態度のどこがユーモアなものか。
　確かに、フランスでは目立った原発事故は起きていない。日本を揶揄するフランス人たちは「我が国は原発をコントロールできている」そういいたいのだろうか？
　しかし、原発が有する問題は、決して核だけの問題ではないはずだ。しかしこの風刺画にはそんな多角的な視点はなく、ただ「日本の水＝放射能汚染」などという視野狭窄があるだけだ。

　僕は、風刺画もまた、報道の１つの形であると考える。
　僕は、風刺画にも報道と同じように、原発や核にまつわる問題を多面的に報じる役目を求める。
　視野狭窄に陥った風刺など、単なる悪趣味に過ぎない。このような短絡的な風刺画を「ユーモア」などと評することは、すべての風刺画に対する侮蔑にすぎない。

*1：「おめでとう東京」もアウト　五輪商戦、言葉にご注意（朝日新聞）http://www.asahi.com/national/update/0910/OSK201309100014.html
*2：汚染水風刺画の仏紙「謝罪しない」　日本大使館は抗議（MSN産経ニュース）http://sankei.jp.msn.com/world/news/130912/erp13091221460005-n1.htm