※この記事は2013年06月15日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第276回

　政界で暴言が相次いでいる。
　かつて東京都知事だった石原慎太郎が「三国人」「女性が生殖能力を失っても生きているのは無駄で罪」「同性愛の人間はかわいそう」などという暴言を繰り返していた。

　それを見て大阪では橋下徹という人間が、従軍慰安婦問題に関して女性並びに男性軽視の発言を行ったり、自分の意に沿わない報道に片っ端から「誤報」というレッテルを貼るなど、その暴走はとどまることを知らない。

　こうした「暴言政治家クラスタ」を、僕は恥ずべき存在だと感じているが、中にはこれを「毅然とした態度」として支持してしまう人たちが一定程度いるようだ。彼らはそうした人たちに支持されて、選挙に勝ち続けている。

　そして今度は、国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会による対日審査のなかで、人権人道担当大使として出席した上田秀明がやらかした。

　日本の警察制度が中世然としていると批判されたのに対して、上田が「日本は人権において最も進んだ国である」と答えると、会場の一部から笑いが起きた。それに対して上田は事もあろうに「シャラップ！」などと声を荒げたという。(*1)(*2)

　なんだろう。僕には彼らがチキンレースを楽しんでいるようにしか思えない。ギリギリまで暴言を吐いて、それがセーフゾーンなら称賛され、崖から落ちれば真っ逆さま。そんなスリルを求めて、暴言クラスタが日本の未来を質草に遊んでいるようにしか思えないのだ。

　チキンレースというのは、崖からはみ出れば必ず落ちるという公平性があるが、もはや日本のチキンレースはとうの昔に崖の端を飛び出し、行く先も見えないまま空中を飛行し続けている。そして無理が通れば道理が引っ込むの言葉の通り、もはや空中がセーフ。むしろ空中に出れば支持を得られるという認識が、行政界を中心に広まってしまっているのだろう。

　しかし、その魔法はいつかは溶ける。崖を飛び出した車は、どこかで必ず地面に激突するものだ。
　ひょっとしたら、上田はこれが日本では「毅然とした対応」として称賛されると思ったのかもしれない。しかし残念ながら、彼が対峙していたのは日本ではなく、世界であった。その発言は世界のセーフゾーンをいとも簡単に飛び越えてしまった。

　そもそも、シャラップ上田の発言が飛び出した国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会による対日審査は警察や国家権力による拷問や非人道的な扱いに対する審査の場であった。先進国の中でも、日本はいまだ警察による取調の可視化や、弁護士の立会いを認めておらず、大きな問題となっている。つまり、中世然とした拷問チキンレースの末に、大きくアウトラインをはみ出したままの日本の姿勢が批判されたのである。

　そして、この場では橋下徹による従軍慰安婦に関する発言も取り沙汰されていた。(*3)

　つまり、空中を飛ぶ橋下徹の暴言に対して、セーフと見過ごし、なんら見解を示そうとしない日本の大きくズレた人権軽視の姿勢そのものが批判されているのである。そんな場で発生したシャラップ発言は、アウトラインを遥か遠く飛び越しながら、いつまでも駄々をこねる幼稚な「人権転進国」日本の逆ギレとして、世界に受け取られる。

　これだけ馬鹿げた失態を世界に晒しながら、いまだに空を飛び続けられると信じる政治家に、僕は日本を託す気になどなれない。空も飛べるはずだと思い込むのは、スピッツの歌の歌詞だけで十分である。

*1：「シャラップ！」国連委で日本代表大暴言　人権問題追及にブチギレた「お粗末やりとり」（J-CASTニュース）http://www.j-cast.com/2013/06/10176956.html?p=all
*2：国連拷問禁止委員会における上田人権人道大使の発言「シャラップ！」 / Japan's Human rights Ambassador Ueda yells "Shut Up!"（YouTube）http://www.youtube.com/watch?v=hkoQjIBA_3U
*3：橋下発言で日本政府の見解要求　国連拷問禁止委、近く対日勧告（MSN産経ニュース）http://sankei.jp.msn.com/world/news/130523/erp13052308090002-n1.htm


プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

・@T_akagi - Twitter