「絶対してはいけないのは、鼻が詰まることと目を充血させること」～元フジテレビアナウンサー・長谷川豊氏インタビュー～ - BLOGOS編集部
※この記事は2013年06月10日にBLOGOSで公開されたものです
「とくダネ！」のプレゼンターして知られる元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏（撮影：野原誠治） 写真一覧
先日、自身が退社に至るまでの経緯をブログで公開し、大反響をよんだ元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏。そんな長谷川氏に、「アナウンサー」「テレビ局社員」という仕事の実態や今後の活動について語ってもらった。【取材・執筆：永田正行（BLOGOS編集部）】 ブラック企業のような”アナウンサーという仕事”
――「テレビ局のアナウンサー」というと、華やかなイメージがありますが、その具体的な仕事の内容というのは知られていない部分が多いと思います。最初に普段アナウンサーとして、どのような仕事をしていたのかを教えてください。
長谷川豊（以下：長谷川）：アナウンサーと一口に言っても局によって違いますし、色んなタイプがいます。
僕が担当していたのは情報番組ですが、その中でもスタジオ回しなのか、それともプレゼンテーションをするのか、でまったく仕事が違います。スポーツ実況担当のアナウンサーなどもまた仕事内容が違います。
また、バラエティ担当のアナウンサーもいます。バラエティ番組をどのように盛り上げるのか。一リポーターとして関わるのか、メディア担当として参加するのか、司会進行としてやるのか。これらによって、また業務内容が違うんです。スポーツ番組のキャスターは、基本的にはスタジオ回しもするし、現場の取材もする、という人が多いですね。それぞれかなり違いがあります。ナレーション担当の人間はもうナレーションブースに入りっぱなし、という人もいますし、アナウンサーはそれぞれ本当に仕事が随分違います。
僕の場合、平日は情報番組のプレゼンター、かつ取材者という立場で関わっていました。大体毎朝４時半起きで、５時半には出社していました。なので、５時ぐらいに家にタクシーあるいはハイヤーといった、その時一番安い交通手段が迎えにきます。出社すると、前日の夜に打ち合わせた内容を最終確認します。その時には、朝の“早刷り”という新聞が届いているので、その新聞の論調と照らし合わせながら自分たちが、視聴者にお伝えするニュースの中身を精査します。
さらに、６時からスタッフたちとの打ち合わせ、画面に出すマルチ画面の打ち合わせ、最終確認とチェックを行い、朝７時ぐらいからはＭＣ打ち合わせ、と打ち合わせが続きます。僕の場合は朝の「とくダネ」という番組をやっていましたから、小倉さんなどと打ち合わせをするわけです。こうした流れを経て、朝８時からは生放送です。生放送には原稿などが一切ありませんので完全にニュースの中身、スタジオの流れを頭に入れた状態でフリートークをしていました。
――番組は2時間ですよね。放送が終わった後は何をしているのでしょうか？
長谷川：番組終了後、もしくはプレゼンが終わった直後に「飛び出し」といって次の取材に向かいます。そして、車、新幹線、飛行機などで移動する最中に厚さ２～５センチほどの資料を読み込んで、頭の中に全部叩き込みます。そして、現場で取材するわけです。
こうした取材も事件現場なのか事故現場なのか、それとも政治の現場なのかで取材の方法が全部変わります。こうした取材は基本的に他局さんがいる間はずっと続きます。「とくダネ」の場合は自分たちが先に帰るということはなかったですね。こちらが帰った後に、事態が動く可能性というのも否定できませんからね。
そして、だいたい20～22時には帰ってきて、そこから翌日のプレゼンテーションの打ち合わせをします。ニュースも「１，２，３，４，５」の順番で伝えるのか、「５，１，２，３，４」の順番で伝えるのか、「１，３，５，２，４」の順番で伝えるのかによって伝わり方や見え方がまったく違いますから、そうした見せ方の打ち合わせをします。
それからマルチ画面の作成に入ります。「マルチ画面もこういう風にした方がプレゼンしやすい、分かりやすい」というものを作ります。こうした作業は、大体０時に終われば随分早い方で、１～２時まで掛かることもあります。そこから数時間の仮眠をして振り出しに戻るわけですね。
――３時間寝られれば良い方といった働き方なわけですね。
長谷川：色んな空き時間に寝られますね。移動の時間に資料を速読して読み切って頭に叩き込めば、後は寝られますしね。
――休みはいつ取っているのでしょうか？
長谷川：月に一日あるかどうかでした。ただ、僕は特殊でしたよ。フジテレビでも働いている日数が飛びぬけて多いアナウンサーでしたからね。普通の人たちは週に一日か二日は最低でも休みますよ。
――「アナウンサー」というとスタジオで喋るのがメインの仕事というイメージがあるのですが、どちらかというと移動時間に資料を読んだり、実際に現場に取材に行ったりという画面に映らない業務も多いわけですね。
長谷川：僕の場合はそういう特殊なリポーター業でしたね。一昔前まではフリーのそういうリポーターの方々、例えば日本テレビの「スッキリ」の阿部さんたちのような方がいました。彼らと同じ仕事をやっていたので僕はやや特殊です。
一般的なアナウンサーの方々は、夕方のニュースを読んだりしますので、朝、電車で通勤して、報道局で打ち合わせをして、原稿が出てくるのを待ちながら新聞を読んで、原稿の下読みをして、スタジオで原稿を読んで、反省会をやっておしまいという流れです。
――朝の情報番組であれば、経済学者や外交の専門家など「識者」と呼ばれるような方もスタジオにいますよね。そういう方と抜き打ちでフリートークするということは、ご自身の知識・見識も問われるわけですから、そこは非常にプレッシャーだと思うのですが。
長谷川：ニュースを伝える以上は、そのニュースについては少なくとも日本で一番詳しい人間でいなければいけない。同率１位はいても良いのですが、自分が2位であってはならない。そういう気構えで臨んでいたので、準備には時間が掛かりましたけどね。
――ですが、視聴者にはそういう努力は余り伝わらないですよね。どちらかというチャラいイメージをもたれていると思うのですが、そうしたストイックな部分がないと生き残っていけない世界なのでしょうか。
長谷川：そうですね。みんな好きでやってますしね。視聴者の皆さんの為にそれぐらいはやりますよね。ただそれを僕がやってしまうと、今度はＭＣが消えるんですよね。なので、「偏った感情の注入」という言い方をするのですが、出来るだけ僕が偏った意見を言ったりして、それを小倉さんが是正するという形にする。
これによって番組というのは美しく見えるんですよね。絵に汚い色がないと美しく見えないのと同じように、そういう演出というのはそれぞれ役割を持ってやってましたね。
――単純に意見・見識だけではなく、番組内におけるご自身の役割みたいなものも意識しながらやっていたわけですね。
長谷川：そうですね。「現場ではこういう温度感なんですよ」というのは小倉さんとのＭＣ打ち合わせの時にちゃんと伝えておいて、その上で僕たちが道化役を引き受けるというのがプレゼンターの役割でした。
他にも、出来るだけ語尾を強めて話すことでキツイ印象を与えることができる、といったことを意識していました。自分がそうすることで、直後に話す笠井信輔アナウンサーが柔らかく見える。そういう演出も考えた上でやっていましたね。
――そういう見えない努力があるわけですね。花粉症の季節でも、テレビでアナウンサーがくしゃみしているところは見たことがありませんしね。
長谷川：僕たちが絶対してはいけないことは、鼻が詰まることと目を充血させることです。熱が38度あろうが39度あろうが、一気にテンションを上げればその瞬間は乗り切れますから。終わった瞬間ぶっ倒れますけどね。
――ブラック企業みたいですね。
長谷川：ええ、ブラック企業ですよ、本当に。
時給換算すると、多分マクドナルドのアルバイトと同じぐらいじゃないですかね。それぐらいの時間は働いていますね。僕は5～6年の間、残業が150時間以下だったことはほとんどないと思いますよ。僕は毎月200時間ぐらい働いてましたから。
――ちなみにネット上においては、「フジテレビは韓流推しがヒドイ」という認識があるのですが、内部にいた人間としてご存知のことはありますか？
長谷川：僕がニューヨークにいた時期と重なるので、まともにわからないんですよね。だから、デモがあったことをYahooニュースで知りましたよ。
――そもそもフジテレビはフジサンケイグループですし、産経新聞の論調は右よりですよね。
長谷川：そうですね。どちらかと言うと、右傾化の傾向はあると思います。でも、ネット見ていると「フジはまるで左」みたいなことが書いてある。だから、Yahooのニュースでそういうデモが行われているというのを見て、本当にピンと来ませんでした。
僕はその時日本にいなかったので確かなことはいえませんが、フジテレビが韓流とか左ってことはないと思いますけどね。僕がアメリカに行っている1年の間に急激に何かが変わったのかもしれませんが。
「スポンサータブーがあるのは事実」
――最近ですとＮＨＫの堀潤さんが退職された後、震災時の報道をめぐって上層部と食い違いがあったというようなお話をされています。同じようなご経験は、長谷川さんにもあるのでしょうか？長谷川：堀君とは、ずっと現場で一緒でした。ＮＨＫのアナウンサーらしくない現場で汗を流す人でしたから、最前線の大きなニュース現場では、ほとんど一緒でしたね。他にもテレビ朝日「報道ステーション」の富川アナウンサー、ＴＢＳの「朝ズバ」の井上アナウンサーなんかもいました。堀君は一つ下で、富川君と僕は同期だったので、この４人は同志みたくなっていましたね。
ご質問いただいたような現場の人間とデスクサイドとの意見の食い違いというのはどこの職場にもあります。現場は、日本で一番そのニュースについて詳しいですからどうしても現場の温度というものに熱せられた状態で帰ってきます。一方で、デスクと呼ばれるニュースを精査する人たちは会社で、冷静かつ非常にドラスティックに様々なニュースを精査しています。ですから、優れたニュースの現場というのは、デスクと現場は常にケンカしていると思います。僕もしょっちゅうケンカしていましたし、それで健全なんだと思います。
――例えば、よくスポンサータブーの問題が指摘されますが。
長谷川：ＮＨＫの場合は基本的に総務省の予算認可を得ないと運営が出来ないですから、その上部は総務省であり、お国ということになります。一方、僕たち民放の場合「公共の電波」という言い方がされるのですが、大前提として株式会社です。つまり、法律上儲けを追及しなくてはならない立場にあることも事実です。
儲けを持ってくれるのは少なくとも国民ではないですし、視聴者ではないわけですし、お金を払ってくれるのはスポンサーです。大きなスポンサーが仮にあったとして、そのスポンサーが大変大きなお金を払ってくれていたとして、そのお金で僕たちが番組作りをしている以上はそのスポンサーが現場に口を出してくることは、残念なことに事実としてあります。
そして、スポンサーの立場に立たなければいけない営業サイドの人間と事実を伝えたい現場の人間との間では、日常的にかなり厳しいやりとりがあるというのは間違いないですね。
――制作サイドの人間からすると「もっと自由にやらせてくれよ」という一方で、営業サイドにしてみると「誰がメシ食わせてやってんだ」というような話ですか？
長谷川：おっしゃる通りです。
営業の売り上げが落ちて、テレビ局の勢いが数年前から弱まってきていると言われて久しいと思います。そうなってから圧倒的に営業の力が強くなっていることも事実です。今までは殿様営業で「向こうからどうせ金持ってくるだろ？」みたいなスタンスでしたが。テレビ局であり、広告代理店関係のコネクション入社が他の企業に比べると残念なことに大変に多いということも事実ですね。そういう立場の関係です。
2009年の政権交代前の自民党叩きは悪乗りしすぎ？
――長谷川さんは、フジテレビを退職されてからブログに書いていたとおり、間違ったご自身のイメージが報道されて、非常に戸惑いがあったと思います。自分が今までニュースを報じる側だったのが、逆の立場になって改めて今までご自身の仕事ぶりなどで気付かれたことなどはありましたか？
長谷川：僕の場合、フジテレビでアナウンサーをやっている時代から、かなり問題児でして（笑）。在職中から報じられる側になってしまうことが多かったんですよ。なので、ある意味予想通りの展開ではあったんですけれども、予想通りの展開だけに裏側に「ある人物がいるな」というのを感じ取ってしまった、というところが１つポイントでした。
例えばオセロの中島さんなどのケースのように、情報が暴力に変わってしまうケース、つまり、ある大きな力、もしくは悪意をもった数人の人間によって情報が歪められる時代ではあると思うんですよね。僕の場合は取材力という自身の力で戦いましたが、そういう悪意によって誤った自分のイメージが広がってしまった人たちを救うような活動が、これから僕ができるんじゃないかなと思っています。これからは出来るだけ事務所にも所属しないで活動しようと考えているので、その分僕も自由に羽ばたけるんじゃないかなと思っています。
――マスメディアの仕組みの中にいると、一人の人間がある種の方向性を持った情報を流そうとすれば、そういう歪んだ情報を流すことが出来るわけですね。
長谷川：可能ですね。
――ただ、そうした状況を是正するようなことを長谷川さんとしてはやっていきたい？
長谷川：出来ればやっていきたいですよね。伝える側には、「おもしろければよい」と思っている部分があるので。僕もそういう仕事をやっていたので、気持ちは分かるんですが。
――どうにかして興味を持ってもらおう、という思いと正確性や中立性というものの間の葛藤というのは、長谷川さんや番組スタッフの間にもあったのでしょうか？
長谷川：番組スタッフにあったかどうかはわかりませんが、僕には常にありましたね。特に僕は原稿を読んでいるアナウンサーではなく、フリートークを中心に闘うアナウンサーでした。一番辛いというか、「これはどうなのかな？」と思ったのは、2009年の衆院選前でしたね。
結果として、民主党が大勝して政権交代が起こったわけですが、それ以前の報道の中で、少々自民党叩きが悪ノリしすぎているのではないか、というのを僕は感じていました。もちろん、フォローできない失政というものも多々ありました。それは間違いないでしょう。閣僚の失言であったり、１年おきに総理を変えたり、さすがに「う～ん」となってしまうような部分があったことは、自民党の支援者の方々もご存じの通りだとは思います。
ただ、一度僕が随分戦ったというかフリートークで、ひと言ズバっと言ったのが麻生さんの件です。麻生さんが総理大臣になった時には、まぁ気持ちいいぐらいにひどい叩き方をしてたんですよね。政策を否定するのは構わないと僕も思います。それは政治家としての責任ですからね。ただ、覚えていらっしゃる方もいると思いますが、漢字が読めないという批判がありましたよね。あれは多分、官庁の人間が振り仮名を振り忘れているだけなんですよ。僕たちアナウンサーでも漢字が読めない時はあるわけですよ。「未曾有」はさすがに読めますけど（笑）。
だから「麻生さんが漢字が読めないと随分言われていますが、僕たちアナウンサーも読めない時がありますから、政策と違う所で非難されるのはどうかと思いますよ」というひと言をフリートークで入れたことはあります。ただ、一方で制作スタッフが「麻生太郎漢字読み間違え列伝」のマルチ画面を用意している以上は、それをプレゼンしなきゃいけない。それはやっぱ葛藤としてありましたね。
――最後に、これからどのような活動をされていくのかを、お聞かせください。
長谷川：有料メールマガジンをやってみないか、と声を掛けていただいたので挑戦してみようと思っています。
元々日本語を使って表現するということが好きですし、ブログを多くの方に見ていただいて、これからの時代のWebメディアの可能性を感じました。僕は他人の誹謗中傷であったり、使ってはいけない言葉を除けば批判コメントも自分のブログに積極的に載せるようにしたんですね。そしたら僕のブログを基に、読者たちが議論し始めるという現象が起きたんです。これはテレビカメラを前にしていた時は感じ取れなかった、まったく新しい現象だと思いました。
つい先日も乙武さんが物議をかもしたかのように言われていますが、結果を考えれば車いすの方々に対する意識というのは間違いなく上がったと思います。恐らくこれから日本を動かすメディアというのはネットのメディアに大きく移行していくはずだとは感じているんですね。凄く可能性も感じますし、自分にとって大きなチャレンジだなと思います。
だから、自分の可能性を縮めないように事務所に所属することは出来るだけせず、執筆だけではなく講演やティーチングということにも精力的に挑戦していきたいなと思っています。
――書籍を執筆されるご予定は？
長谷川：実は書籍に関しては１冊書き終えているんですよね。で、すぐ出版出来るのかなと思っていたら、出版社の方が「ちょっと諸々法務と相談させてほしい」と（笑）。そんな大した内容書いてないんだけどな、と思ったのですが意外と刺激的だったようで。いつ出版になるのかは流動的ですが、２冊目、３冊目も出来るだけ今年中に多く出したいですね。
――今後のご活躍楽しみにしています。本日はありがとうございました。
プロフィール
長谷川 豊フジテレビ出身のフリーアナウンサー １４年間にわたり朝の情報番組「情報プレゼンターとくダネ！」で、現場取材やニュースのリポートを担当。取材現場数は1700を超え、伝えたニュースは2500以上。同番組が2012年まで続けた連続視聴率１位の中心人物の一人。ニュースプレゼンテーションのプロフェッショナル。 趣味と公言する競馬ではＧ１レースの実況も担当。 また、ニューヨーク赴任当時につづったブログは大人気となり、退社後に始めたその続編のブログは19日間で2400万ＰＶと言う記録を樹立。 現在はアナウンサーだけではなく、講演・執筆など、多方面で活躍中。
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