【赤木智弘の眼光紙背】AKB48は決して一般の論理に生きるのではない - 赤木智弘
※この記事は2013年02月02日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第257回アイドルグループ、AKB48の峯岸みなみが、スキャンダルを起こしたとして、自らの意志として動画サイトに髪を切った坊主姿で、泣きながら謝罪をした動画をアップしたことが話題になっている。
まず、目先の「スキャンダル」という事案のみに対する対処としては、今回の坊主は完璧だったと思う。あの映像がマスコミ中で話題になり、これだけ賛否両論叫ばれている以上、いまさら彼女のファンが写真集などを破った画像をネットに載せて「裏切られた」などと憤ったとしても「空気読めよｗｗｗｗ」と笑われて終わりである。もはや問題の本質はスキャンダルそのものではなくなった。 ただし、スキャンダルとは別に、AKB48という集団の異常性が目の当たりになったことは、大きな問題である。
僕がもし今回の問題に何らかの決定権を持つ立場にいたとしたら、彼女の謝罪動画を公式にアップすることは無かったと思う。スキャンダルはスキャンダルとして謝罪するとしても、坊主にして泣いている動画というのは、一部のフェチならまだしも、多くの視聴者にとっては不愉快以外のなにものでもない。
坊主頭はウィッグで隠すこともできるのだから、ああした動画を、もし自ら撮影して事務所に持ち込んだとしても、それを止めるのが周囲の大人の役割ではないかと思う。
そういう意味で、彼女よりはスタッフに不信を感じたし、ましてや、マスコミがこのニュースを報じる際に動画をそのままテレビで流すことは、視聴率を当て込んだ露悪趣味に過ぎない。
今回の動画が不愉快なのは、そこに大阪市立桜宮高等学校のでの自殺問題と同じ、パワハラの構図を見るからである。自殺だろうが、坊主だろうが、それが自主的であるかなしかに関係なく、普通の精神状態であれば行わないであろう異常な行為に、部活やAKB48というシステムが追い込んだ。そのこと自体が問題をはらんでいる。
その文脈で考えれば、AKB48の関係者は批判されるべきだということになる。しかし僕は、この２例を単純にイコールで結びつけることはできないと考える。
部活での体罰による育成というものは、桜宮高校だけではなく、他の多くの教育機関で行われている。少し運動ができる子供であれば、同じ問題に直面する可能性が高い。桜宮高校という特殊な環境下の問題ではなく、一般的な社会問題として考えられるからこそ、批判しているのである。
その一方で、AKB48はアイドルという特殊な集団である。「一般の女性が恋愛するのは当然なのに、アイドルが恋愛をして責められるのはなぜか？」と問われれば「アイドルというのはそういう職業であるからだ」と答えるほかはない。
彼女たちがアイドルであることを、誰かが強要しているのであれば問題ではある。しかし、自らの意志でアイドルであろうとする以上は、彼女たちは「AKB48としてのルール」を受け入れる他はない。ルールを受け入れているからこそ、彼女たちは注目されるし、一般の女の子たちが手にすることができない様々なものを手にすることができるのだ。
いうなれば、歌舞伎役者の子供が小学校に入る前から歌舞伎を行うことを、児童福祉法違反だとして罰することがナンセンスなのと同じ。特殊な環境下における問題をむりやり一般化して考えるべきではないだろう。
昨年に話題を集めた『AKB48白熱論争』の著者として名前を連ねる、漫画家の小林よしのりは、今回の件を全面的に絶賛している。(*1)
小林はAKB48が極めて厳しいルールを守っていることに触れ、そこに「ファンを惹きつける聖性が生まれる」があると論じている。小林はAKB48のファンとして、AKB48の異常性もそのままに受けいれ、そこに一貫した潔さを感じているのだろう。僕にはその気持そのものは理解できないが、そこに矛盾がないことは理解できる。
AKB48が世間に提供するのは、徹底したリアリティ・ショーである。握手会や総選挙といった、同じグループ内でありながら人気の上下、いわばアイドルとしての優劣をくっきりと見せつける手法は、これまでのアイドル同士で噂されていた水面下での争いをテレビに映し出し、エンターテイメントとして昇華した。総選挙なんてヘタすれば国政選挙よりも注目度が高いのではないかと思うくらいだ。
しかし、それは一方で彼女たちに、誰かがコントロールする作り物の人生を、作り物でない本物の人生であるかのように受け入れることを宿命付けることになる。作り物のルールと自身の欲求に齟齬が発生すれば、今回のような形で自ら罰を受け入れることになる。 それをAKB48のファンでない一般の人が怪訝に感じるのは当たり前のことで、特に今回の件を好意的に受け入れる必要はない。しかし、一方でこうしたアイドルの世界は一般から離れた異色に過ぎず、一般の論理をもってこれを批判することも無理筋である。
彼女たちの生き方が理解できないにしても、私たちはそれを見過ごすことであればできる。異質で違和感があるから批判するのではなく、異質で違和感がある他者の論理であっても、それを受け流すことができるのであれば、できる限り受け流すべきではないか。
だから僕は不愉快であっても、峯岸みなみによる坊主姿での謝罪を、AKB48的なリアリティー・ショーの一貫として受け入れる。けれど、別にAKB48のファンではないし、多分ファンになることも無いと思う。日本にだって、いろんな価値観があるのだ。それでいいのだ。
*1：AKB48 峯岸みなみの丸坊主について（ゴー宣ネット道場）https://www.gosen-dojo.com/index.php?key=joalma0am-13#_13
プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。
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