「政治家」という職業は、ハードルが高いものであってはならない～杉村太蔵×宇佐美典也対談～ - BLOGOS編集部
※この記事は2013年01月15日にBLOGOSで公開されたものです
自民党の圧勝で幕を閉じた昨年の衆議院総選挙。今回の選挙では180人以上の新人議員が当選を果たしたが、彼らは国会でどのような役割を果たすことができるのだろうか。「国会議員」という職業の在り方について、26歳の若さで国会議員という職業を経験した杉村太蔵氏と先日経産省を退官したばかりの元官僚・宇佐美典也氏の2人による対談を行った。【取材・構成：BLOGOS編集部】感覚的に議員というのが”特別”なんでしょうね
宇佐美：杉村さんって20代半ばで突然議員になられましたけど、視聴者のひとりとして政治を見ていた時と、実際に議員をやられていた時、そして議員を辞めたあとと、報道や政治に対して見方が変わったとか、実態とは随分違うと感じたとか、そういうことはありますか。
杉村：んー、そんな質問から入るの。その話、面白いのかなあ（笑）。まあいいや。なんて言うんだろう。僕からすると、そういう話ははっきり言って「くだらない」んです。たとえば、「元々出版社に勤めていました、今は小売に転職しています」という人に、「あの時、出版会社に入ってどうでしたか、3年間どうでしたか、辞められたけど今どうですか」と尋ねるのと同じなんですよね。ただそれだけみなさんにとって、感覚的に議員というのが”特別”なんでしょうね。
だけど僕自身の感覚だと、あんまり前の仕事のことは考えないんですよ。普通、相手が前に何の仕事やってたか、そんなこと気にしないじゃない。宇佐美さんはそれを僕に聞いているわけですよ。
僕の中では、議員の約4年間も確かに一生懸命やった。でも、大学卒業後の清掃員の仕事も一生懸命やった。ドイツ証券勤務時代も一生懸命やった。さらに言えば、学生時代の僕は、キャバクラで副店長になって、店の仕切りとか女の子の送迎なんかもやってたんだけど、それも一生懸命やった。今出演している「ナニコレ珍百景」（テレビ朝日系列）も、めちゃくちゃ一生懸命やってるわけ。だから、自分の中でばーっとフラットに並べてみて、これが特別な時期で、これがそうじゃなくて、っていうのも別にないわけだよね。
議員には、”日本を豊かな国にしたい”という目的があって挑戦しましたけど、衆議院議員480人のうちの1人と、今みたいにテレビに出てしゃべったりするのと、どっちが影響力があるかも分からないですよね、はっきり言って。
よくね、「（議員に）戻りたいんですか」と、戻りたい前提で世間は質問するでしょ。でも、あの仕事は結構窮屈で大変なんですよ。経済的な面で言うと、今のほうが何倍もいいですし、時間の使い方も今の方がはるかに自由。例えば明日メキシコ行くって言ったって、行けるわけだし。衆議院議員だと、韓国行くのでもいちいち議長の許可がいるでしょう。大変ですよ、あの仕事は。うまみのある仕事でもなんでもないですからね。ただ、世の中を本気で変えようとか、国を本当に良くしようとか、そう思うんだったら、それが出来る仕事ですよね。そうじゃなくて、ただ女房と子どもを食わしていくとか、好きなところ行ったりするというのなら、今の方が遥かにいいんですよ。
宇佐美：なるほど。そうですよね。確かに政治家って家業のように代々受け継がれたり、一度議員になったら選挙に出続けたり、と継続するのが当たり前と思い込んでいるところがありました。でも職業のひとつと考えれば、出たり入ったりがあって当たり前ですよね。
杉村：僕もそれでいいと思うのよ。例えばね、郵政解散っていうのは金融解散でしたよね。そういう時には金融に関する知識をたくさん持った人が国会にいればいい。時期によって大事な政治テーマは変わっていくんですからそれを議論する政治家も変わって当たり前ですよね。逆に連続当選5回にもなれば、その人の持っているノウハウとかアイデアは、もう十分に出し切っちゃってるはずなんですよ。
最近、総理大臣になる人の当選回数が減ってきましたよね。昔なんか、5回程度だったら初入閣くらいですよ。でも野田さんは5回でしょ。安倍さんも5回、福田さんも6回だった。何回も当選して、大臣もやってもさ、それでも絶対に総理にはなれない人っているじゃない。そういう人は辞めたほうがいいよね。
宇佐美：その人には他で生きる場所があるし、もっと新陳代謝して入れ替わるべきだと。
杉村：そんな気がするけどね。石原（慎太郎）さんも、悪口を言うわけじゃないけどさ、20年以上国会議員やって、13年都知事やって、それでも「やり残したことがある」と言われても辛いところがあるよね。
とにかく、みんな”覚悟”とか何とか言ってるけど、本当はいろんな知識を持った人が政治の世界に入ってくるべきだし、そのためには政治というものはハードルが高いものであってはいけないと思うんだよね。
だから、政治ってものを特別に考えて議員になるためにどっかの政経塾に通っちゃうような人は大嫌い（笑）。それからね、選挙になったら自転車乗る奴。あれも信用出来ないなあ。
それから、選挙期間中にコロッケ食べてうまいっていう奴。これ、普段からコロッケ食べてないから、美味いっていうんだよ。この3つは有権者に見抜いてほしい。第一、国会議事堂に駐輪場ってないじゃん？議員の駐輪場って。普段からチャリンコ乗っていくならいいよ。見たことないですもん。選挙期間中だけ旗立ててさ、嫌だね、ああいう候補者は。
宇佐美：（笑）。
政治家になることが目的化してはならない
杉村：官僚は、1度やめたら2度と官僚にはなれないでしょう？
宇佐美：滅多なことがないと無理ですね。
杉村：これは気の毒なんですよ。落ちたらまた戻ってきていいっていう制度にしたらいいと思う。”自分が本当にやりたいのはこれだ、これやったらよくなるのにな”って思うのであれば、官僚も立候補していいと思うんですよ。官僚20年やって、「よし、国政出よう」と。でも、落ちた場合、”元官僚で無職”は本当に気の毒です。バッジを失った議員以上に、立場を失った官僚っていうのは本当に大変。
だから、宇佐美さんみたいに官僚を辞めて会社起こすのもまだ若いからできるけど、40歳で子どもが2人いてっていう人がいたら、なかなか立候補なんてできないよ。それがまた損でね。
もっと言えば、会社員でもそう。本気で選挙やろうと思ったら、1年間くらいは休まなきゃいけないから。僕の最初の選挙は、有給休暇でやったのよ。開票翌日の9月12日からは普通に出社する予定だったんですよ（笑）。
宇佐美：有給って、1ヶ月くらいですか。
杉村：まあ、立候補が正式に決まったのが、8月の27～29日くらい。で、公示が31日。投票が9月11日かな。12日間。そういう感じでした。
そもそも僕は大学を中退しているんですよ。で、2004年の1月くらいに、当時就職氷河期だったし、仕事がないから派遣社員になって、たまたま派遣された先が、山王パークタワービルの清掃員だったの。で、担当フロアがドイツ銀行グループの入っているテナントのエリア。朝6時からおばちゃん達に混じって便器掃除していたら、グレンっていうドイツ銀行のお偉いさんが「なんで君はまだ若いのにこんなことやってるんだ」と。それで俺を見て、「君は将来必ず出世する」って言うわけよ。ひいては、証券外務員の試験とうちの社内の英語試験があるから受けなさいと。そう言われて受けて合格して。最初は勉強だからと言って、調査部にいろと。で、業界の名だたるアナリストさんに奴隷のように扱われて鍛えられましたよ。人権なんてなかったです（笑）
宇佐美：めちゃくちゃ楽しいところいたのに、なんで辞めちゃったんですか。
杉村：調査部で、選挙の動向を調べろって言われて、新聞とか雑誌の切り抜きをやっているうちに、自民党の議員の公募のホームページにぶち当たってさ。で、社内のアナリストが言っていたことを、ばーっと論文に書いて、小泉さんへのファンレターの気持ちで、がんばって下さい応援していますよ、という気持ちで送ったら、次の日に自民党から「杉村さん今すぐ来てください」と。だから運がいいのよ。今すぐいける距離にいたから。かかってきたのも15時半くらいでちょうど良くて。証券会社って、場中はめちゃくちゃ忙しいからさ。
宇佐美：官僚から見ると、議員の人って、表と裏の顔を使い分ける人が多かったので、杉村さん見てて、ある意味これだけ純粋な人が、議員の世界にいるのはとてもいいことだなと思っていたんです。本当に、もう政治家になる気はないんですか。
杉村：さっきも言いましたが、それは分からないですよね。政治家になることが目的化してはいけないですからね。
ただ次に出るときは、せめて自分で、所信表明演説くらいは書けないと出るべきじゃないなと思っています。「こういう改革をしたら日本は良くなるんだ」と。今の消費税とか、原発とか、TPPとか、そういう大きな論点に関して自分の考えを持つのはあたり前だけど、それ以外に「こういうところを変えれば、日本は良くなるんだ。オレはこれがしたいんだ！」という自分からの提言がないと、やっぱり立候補したって、20代でやった時と変わらないんじゃないかなって思っています。今回の選挙には立候補しませんでしたけど、まだまだそのへんは未熟ですよ。間違いなく。
宇佐美：議員を辞めてからもそういうことはいろいろと考えていたんですか。
杉村：そうでもないです（笑）議員を失職した後は元の証券業界に戻るつもりでいたんですけど、すぐにサンジャポ（TBS系列）からお声がかかって、ご縁があってこうしていろいろと出させてもらって、今はいただいている仕事を精一杯やっています。
まあ、政治家の仕事っていうのは、さっきも言ったように、いつでもまたチャレンジできるもんだと思うんですよ。いつかまた「これを変えたら日本めちゃくちゃ良くなるのにな」っていう、「これ」が見つかって、「よし、もう全て失っても、家族の時間を犠牲にしてでも、せっかく生きてるんだからお国のためにもう1回頑張ろうか」と思うかもしれない。
今の生活のほうが金儲けもできるし、海外旅行もできるし、好きなブランド品も買えるし、車も乗れる。けれども、朝から晩まで地元と、国会を行き来して、あんな苦しいことだけど、でも、やろうかっていう気になればまた行くんだろうけどね。その「これ」っていうのが今では見つかってないなっていう気もするし。そういうような感覚ですよ。僕の生き方というか、考え方としてね。
宇佐美：今日はどうもありがとうございました。
杉村：こちらこそありがとうございました。
プロフィール
宇佐美典也（うさみ のりや）：1981年、東京生まれ。東京大学法学部を経て経済産業省へ入省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制の見直しなどを担当。新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）への出向を経て退官。・本人のブログ：うさみのりやのブログZ～三十路の元官僚のブログZ～
・BLOGOS:seinantaroの記事一覧
・Twitter:@zettonu
杉村 太蔵（すぎむら たいぞう）：1979年生まれ。北海道出身。筑波大中退、証券会社勤務などを経て2005年衆院選で自民党の比例代表候補として当選。09年衆院選は出馬せず、10年参院選にたちあがれ日本から立候補したが、比例で落選。その後は、「薄口政治評論家」として活躍中。
・公式サイト
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