【新聞チェック】敗戦と震災、各紙の個性が出た社説 - BLOGOS編集部

2022年3月30日 0時0分

※この記事は2011年08月15日にBLOGOSで公開されたものです

1945年8月15日、日本の無条件降伏を知って皇居で悲しむ女学生ら（AP/アフロ）

　玉音放送が全国民に衝撃を与えた夏から66年目。主要紙のうち3紙の社説が、3月に起きた東日本大震災と太平洋戦争を比較検討する論調で足並みを揃えた。だが、比較するポイントが新聞ごとに全く違う。

「未熟な民主主義」が戦争を招いたとする朝日、「エネルギー政策が原因」とする読売。そして産経は「想定外」を重ねて原発事故に至った経緯を太平洋戦争に重ね合わせた。各紙の個性が如実に出た格好だ。8月15日は休刊日で朝刊が発行されていないため、前日の14日付けの紙面から抜粋しよう。（BLOGOS編集部・安藤）

終戦に思う　今、民主主義を鍛え直す（朝日）

　朝日新聞は、太平洋戦争と福島第一原発の事故の共通性を指摘している。「国を守る力もエネルギーも必要な機能だ。しかし国民が自らの生命や財産まで官僚や専門家集団に委ね、ある時は傍観、ある時は狂奔した。この人任せと無責任が、度重なる失敗の根底にあるのではないか」と、民主主義の未熟さが失敗を産んだと指摘している。

既に日中戦争の泥沼にはまっていたのに新たな敵を求めた。石油など資源の供給元だった米国相手の太平洋戦争への突入はあり得べからざることだった。

それを自存自衛と都合よく言い換え、追い立てたのは軍人たちだった。国民も当初の勝利に浮かれ、軍人をもり立てた。

そして福島第一原発の事故。原子力村の自己過信が招いた物語でなかったか。

世界有数の地震国。大津波も襲う大地に５４基もの原発を造った。さらに２０３０年までに１４基以上増やし、総電力中の原子力を５割以上にする計画を立てていた。原発依存の過剰さが放置、容認されてきた。

経済産業省や電力会社は、地震国の真実に目を塞いだ。都合のいい情報は伝えるが不利なデータは隠す。さらにやらせ質問で世論を誘導。ウソを重ねた軍部の「大本営発表」顔負けだ。

戦後６６年　政治の「脱貧困」をめざせ（読売）

　一方、戦前と現在の共通点を「政治の貧困」としたのは読売新聞。一見すると、朝日と同じことを言ってるようだが、その内容は大きく異なる。石油を依存していたアメリカが禁輸措置に踏み切ったことで、日米開戦の火蓋が切られたとして、菅首相の「脱原発依存」に警鐘を鳴らす記事になっている。

民主党政権でとりわけ懸念されるのは、国家の基本となる政策の軸が大きく揺れることだ。菅首相は、唐突に「脱原発依存」を提唱し、混乱を招いた。

戦前・戦後を通じて、資源エネルギー戦略が、国家の浮沈に大きく関わっていたことを忘れてはならない。

　こう書いた上で、太平洋戦争のきっかけもエネルギー問題が大きいとして以下のように指摘した。

４１年７月、旧日本軍は蘭印（オランダ領東インド、今のインドネシア）の石油資源などを狙って南部仏印（フランス領インドシナ）に進駐した。反発した米国は対日石油禁輸の制裁措置をとった。

日本は当時、石油輸入の９０％を米国に依存していた。禁輸措置は日本にとって大きな誤算で、日米開戦の伏線ともなった。

　脱原発に対して慎重な姿勢を取る読売ならではの社説だった。

非常時克服できる国家を　「戦後の悪弊」今こそ正そう（産経）

　
　産経新聞は、「想定外」を連発した東日本大震災への対応を批判。日本が敗戦に至った経緯を次のように比較している。

２万人もの犠牲者数は、国家が最大の責務である国民の生命と財産を守り抜けなかった事実を示している。津波の規模を想定し、避難場所やルートを精査する措置がとられていたら、犠牲者はもっと少なかったはずだ。

東京電力福島原発事故にしても、非常用電源が津波で水没する事態を考え、リスク分散すれば、この惨状には至らなかった。

問題は、非常事態を想定外として考えてこなかった戦後日本の国のかたちとリスク感覚なのである。

これらは、６６年前の日本と奇妙に符合する。国策遂行指導の誤りにより重大な失敗を重ね、無残な破局に至った時代である。

今年７０年を迎える日米開戦に関し、昭和１６年８月末、日本の国力は耐えられず、ソ連参戦も予想され、戦争は不可能という結論を政府の総力戦研究所が提議した。

これに対し、第３次近衛文麿内閣の一員だった東条英機陸相（のち首相）は日露戦争の勝利を引き合いに「意外裡（いがいり）の要素を考慮していない」と一蹴した。見たくない現実から目をそむけただけだ。

　「右寄り」と言われることが多い産経新聞だが、ここでは無残な敗戦に至った過程を冷静に分析しているのが興味深かった。

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原爆投下から一ヵ月後の広島市内、1945年9月8日に撮影（AP/アフロ）