【新聞チェック】江田法相ら、「取り調べ可視化」をめぐって法務省と政治主導バトル？ - BLOGOS編集部

2022年3月30日 0時0分

※この記事は2011年08月09日にBLOGOSで公開されたものです

江田五月法務大臣は８日、「取調べの可視化に関する省内勉強会の取りまとめ結果等の公表について」という資料を公表し、検察や警察による取り調べについて、「冤罪（えんざい）を防ぐためにも可視化はぜひ必要」とし、可視化制度の法制化を実現していく方針を示した。

現在は法制化するための試行段階である取調べの可視化だが、江田法相は「法制審議会での議論に十分な素材が必要」とし、録音・録画により取り調べを試行的に可視化させる捜査の範囲拡大を求めたことを明らかにしている。

既に限られた事案で試行的に可視化が実施されているが、今回の省内勉強会による検討結果は、「無理な取り調べで作成された虚偽の自白調書による冤罪（えんざい）を防ぐことが重要」とし、裁判員裁判対象の否認事件も新たに可視化試行の対象とすべきだとしている。

また、今回の可視化対象範囲の拡大は、逮捕直後や供述調書作成前の取り調べも、その対象とするよう求めており、今後は１年間の試行結果を検証・公表し、それを受けた「法制審議会」が制度化のための議論を行う予定だ。

読売新聞が１面トップで取り上げるなど、９日の各紙朝刊はこの可視化問題を大きく取り上げている。（BLOGOS編集部・野村）

「取り調べ可視化」とは

鹿児島県議選をめぐる買収事件（「志布志事件」／無罪確定）や、障害者団体向け割引郵便制度悪用事件などで「冤罪」がクローズアップされるようになる中、昨年秋にも大阪地検特捜部による証拠改ざん・隠蔽事件が発覚。

容疑者にウソの証言をさせるような強引・暴力的な取り調べや、調書を捏造（ねつぞう）する行為などを防ぐため、犯罪捜査において警察や検察が行う取り調べを録音・録画し、その記録を公判等で公開すべきだとの意見が強まった。

現在は裁判員裁判対象の自白事件や知的障がい者の事件などで試行的に可視化が行われており、「可視化」ルール作りのための第一歩を踏み出している状況。

今後はその１年間の試行結果を検証・公表し、「法制審議会」が制度にするための議論を行う予定だが、毎日新聞は実際の法制化は「２～３年先となる見通し」と伝えている。

検察官の９１％「可視化で真の供述獲得が困難に」

今回の資料の中で、法務省は検察官１１００名（１０４２名が有効）に対して行ったアンケート結果を公表している。結果の概要は以下の通り。

取調べの可視化（一部を含む。）について，取調べの適正確保の効果があると考える検事が７７．１％，自白の任意性の立証・判断を容易にすると考える検事が８５．４％，信用性の立証・判断を容易にすると考える検事が７０．７％であるなど，取調べの可視化に関して一定の有用性を肯定する検事が多数であった。

他方で，近時，被疑者から真実の供述の獲得が困難になったと考えている検事が７４．５％であり，取調べの可視化によって，被疑者から真実の供述を獲得することが困難になると考える検事は９１．０％であった。
また，８６．４％の検事が，真相解明を図るためには現在取り得る捜査手法では十分でないと考えていることも明らかとなった。

可視化については一定の支持がある一方、捜査現場からはそれ以上に、可視化されると「被疑者から真実の供述を受けるのが難しくなる」との意見が相次いだ。

実際の現場の声としては、可視化のメリットとして「公判における検察・弁護双方の水掛け論のかなりの部分が解消され，また，そもそも任意性や信用性が争われる事例が減るのでは」との意見がある一方、

特捜事件では，「絶対に名前を出さないでくれ。」と言って情報を提供する被疑者や参考人は相当程度存在し，そのような情報を端緒として贈収賄事件を立件することがあるが，可視化された場合には，そのような捜査手法をとれなくなる。

との意見や、

経済事件では，カネの流れの全体像を明らかにする必要がある場合，グレーなカネの流れだけでなく，白いカネの流れについても取り調べるが，その中で有名人を含め，様々な人の名前が出てくる。たとえ白いカネの流れ先として名前が出されたとしても，これが公になった場合には，世間的には何か事件に関係がありそうだと疑われて不利益を被ることになる。取調べの対象者も関係者に迷惑を掛けることを気にして，供述を渋るおそれがある。

との声などが紹介された。

今回のアンケートでは取り調べ可視化についてのみならず、「新たに導入すべき刑事手続上の制度」という項目も用意され、「被疑者の供述をより容易に獲得するための制度」として、「司法取引」を求めた検事が５１５名、捜査への協力と引き換えに参考人などへ刑事責任を問うことを免除する「刑事免責」制度を求める検事が９８名の他、「黙秘権の廃止」や「通信傍受の拡大」を求める現場の声があったことも紹介されている。

日弁連会長「全過程の可視化が原則」

今回の法務省内勉強会の最終報告は、可視化の制度化の必要性を認めつつも、「全事件で一律に可視化を義務付ける制度は適当でない」と意見をまとめている（東京新聞）。

だが、この「全事件可視化は反対」との法務省側の見方について、東京新聞は宇都宮健児・日本弁護士連合会会長の声明を以下のように伝える。

法務省の勉強会の最終報告は、取り調べ過程の一部の録音・録画を想定しており、到底容認できない。

一部のみの録音・録画は、裁判官や裁判員の判断を誤らせる危険が極めて大きい。

可視化は取り調べの全過程の録音・録画を原則とすべきであり、法制審議会で速やかに制度化されることを切望する。

と、今回の検討資料が出てきた後も、あくまでも全過程の録画を原則とするものでなければならないとの姿勢を崩していない。

産経「海外の大半は重大事件限定」

産経新聞は、今回の勉強会が日本で可視化を法制化する場合の参考とするために作成された資料から、国際間の可視化ルールを比較した図表を作成。

資料の内容から「対象事件を絞っている国が多く、大半は重大事件などに限定。フランスでは一定の組織犯罪、テロ犯罪なども除外対象としており、共犯者の存在が疑われる事件も組織犯罪とするなど広く定義されている。」と紹介している。

また、今回の資料で明らかとなった、取り調べ試行対象である裁判員裁判対象事件の平均取り調べ時間が約４３時間であったことを踏まえ、

取り調べを数回、数時間しか行わない国が多く、裁判員裁判対象事件の平均取り調べ時間が約４３時間となっている日本とは対照的。取り調べで事件の真相解明を行おうとする国は少なく、この点でも日本との違いが浮き彫りとなった。

としている。

朝日「『政治主導』が実態」

朝日新聞は「取り調べの可視化に消極的だった法務省が、法制化を容認する姿勢に転じた」としながらも、これが江田法相らによる「政治主導」で加えたのが実態であると報じる。

また、政務三役には特捜部が手がける事件の法制化こそ先行させたいとの思いが強かったものの、捜査現場の抵抗が強く、また、可視化の試行がすでに今春から進んでいることを理由に、報告に盛り込まれなかったと伝える。

一方、先ほどの「司法取引」や「通信傍受の拡大」といった、検事が考える「新たに導入すべき刑事手続上の制度」は同資料内で述べられたことを指摘し、