※この記事は2011年08月08日にBLOGOSで公開されたものです

このほど閣議了承された2011年版防衛白書は、日本列島から東南アジアにかけて活発化する中国の海洋活動と加速する軍事力近代化について強い警戒感を示し、南西諸島の防衛態勢強化を謳うと同時に、中国の対外姿勢を「高圧的」と表現して不快感まで表明した。

　これに対して、中国人民解放軍の機関紙『解放軍報』などは、「中国は近年、軍事の透明性を高めようと努力しているのに、日本はどうしてそれをかえりみず、『中国脅威論』を繰り返すのか？中国に対する兵力配備を強化し、平和を求めるのではなく、対抗しようとするのか？」と強い反発を示している。

　韓国側も、白書の地図に竹島が舞鶴の海上自衛隊第３護衛隊群の管轄のように記されたことを批判、「有事に自衛隊を竹島に派遣するという内部方針が確認された」と強い懸念を示した。

　そうした反発は、今後も日本が独立国家としての姿勢を示すほどに強まると予想されるが、それに対して日本政府が明らかにしておかなければならないことがある。

　第１は、もし中国が日本の立場に置かれたら、「中国列島」周辺で活発化する日本の海洋活動に対して、同様の認識を示し、警戒感を抱くのではないのか、当然、中国側の国防白書の記述も日本への警戒感に満ちたものになるはずではないか、という点である。

　専門的に見れば、それでも中国は国際社会に気を使いながら海洋活動をしている面は否めない。しかし、南シナ海でベトナムやフィリピンと小競り合いを繰り返し、海軍の空母建造計画が進んでいるとあれば、隣国が警戒しないほうがおかしいだろう。中国の立場に立った日本が「中国列島」周辺で同じような振る舞いをしたら、中国は口で抗議するだけでなく、手を出してくるのではないか。

　第２は、日本が南西諸島の防衛力を強化し、動的防衛力の整備を進めようとするのは、日本列島の防衛上の空白を可能な限りなくしていこうとする当然の措置で、自国領土での防衛的軍事力の展開に外国が口出しするのは内政干渉的だという点である。

　中国もわかっていることだが、日本の自衛隊は海を渡って外国を攻撃し、占領することが可能な戦力投射能力を構造的に備えていない。その不足部分を日米同盟で補っているのが日本の防衛力の実像である。与那国に沿岸監視隊を置こうとも、攻撃的な性格の部隊でない。文句を言われるほうがどうかしている。

　日本としては、以上の２点について中国が外交部報道官を出せば日本も外務報道官が出て、国防部報道官が出てくれば防衛省報道官が、売り言葉に買い言葉にならぬよう淡々と、しかし世界が耳を傾けるようにわかりやすく、しかも強力なメッセージを発信できなければならない。そのうえで、引っ越しできない地理的関係にある中国、韓国という隣国と良好な関係を築いていく。それができなければ、当たり前の外交とはいえない。

著者プロフィール


小川和久（軍事アナリスト）
1945年12月、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理（防災、テロ対策、重要インフラ防護など）の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化 会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。小渕内閣では野中官房長官とドクター・ヘリを実現させた。電力、電話、金融など重要インフラ産業のセキュリティ（コンピュータ・ネットワーク）でもコンサルタントとして活動。

著書は『もしも日本が戦争に巻き込まれたら！』『この一冊ですべてがわかる普天間問題』『14歳からのリアル防衛論』『陸上自衛隊の素顔』『日本の戦争と 平和』『日本の「戦争力」VS中国、北朝鮮』『日本の「戦争力」』『日本は「国境」を守れるか』『危機と戦うーーテロ・災害・戦争にどう立ち向かうか』ほか多数。