2022年4月より、ANAの新社長に井上慎一氏が就任します。どのような人物で、同氏の就任でANAはどのように変わるのでしょうか。就任会見では、今後の舵取りの方法に関するヒントが次々に出てきました。

平子現社長「井上氏は実行力がすごい」

 2022年4月1日付けで、ANA(全日空)の新社長に、現代表取締役専務執行役員・ANAX社長を務める井上慎一氏が就任します。現代表取締役社長の平子裕志氏は同日付でANAホールディングス取締役副会長に就任予定です。この体制変更で、ANAはどのように変わるのでしょうか。


ANAのA380での遊覧チャーター。井上新社長も同企画に携わった一人だった(2020年8月、乗りものニュース編集部撮影)。

 2017年4月にANAの社長に就任し、約5年間社長を務めた平子氏。本来は東京五輪や国際線の大幅拡充などが予定されていた2020年度をもって社長職にひと区切りする予定だったそうですが、コロナ禍により状況が一変。その対応のため任期を1年伸ばすことになったそうです。

 今回のバトンタッチは「航空事業のサービスモデルを作成し、アクションプランとして落とし込む目処がついたため」(平子氏)とのこと。「5年間いろんなことがあり、息つく暇もありませんでした。会社のなかの課題はプライオリティ(優先順位)含め共有できているので、やり残したことはありません」と話します。

 平子氏が「実に経歴が多様でこれからのタイバーシティの時代にふさわしい」と話す井上新社長。同氏はかつてANA傘下のLCC(格安航空会社)のピーチを、CEO(最高経営責任者)として大きく育て上げた実績をもちます。

 平子氏は井上氏のことを「実行力はすごいと思います。(ピーチ時代に)大阪のおばちゃんたちに超人気になった人間なので、明るい面がフィーチャーされがちですが、ウラで歯を食いしばる根性のある男です」といいます。

 では、井上新社長は、ANAをどのように経営していくのでしょうか。

井上流ANA、どうなる?

「(社長就任は)大命に身の引き締まる思い」と話すANAの井上慎一新社長が「1丁目1番地で、お客様との最大のお約束」とするのは「安全、定時性」。「妥協なく愚直なまでに取り組んでいきたい」といいます。そのうえで「一日も早い黒字化を目指す」とし、「お客様に常に選ばれるエアラインであることが重要です。お客様の本質的な欲求を把握し、サービスに反映していきたいと思います」と話します。

 なお、もうひとつの黒字化のキーとして井上氏は「社員が頑張ってこそ会社。社員とのエンゲージメントでモチベーションを上げ、優れた社員を活かす場をつくっていければ」とも。「社員、その家族を幸せにする責務を負っています」と強調します。


左が井上慎一新社長。右が平子裕志現社長(2022年2月14日、乗りものニュース編集部撮影)。

 その井上氏がピーチCEO時代から実施していたのが、空港や現場での利用者とのインタビュー(対話)。

「いまの時代はお客様のインサイト(意向)がすぐ変わるので、コールドデータが通用しなくなってきています。だからこそ、直接インタビューでご意見を伺うと、何がお客様に刺さっているのか――といったことが、意外なところも含めて分かることがあるのです。それを活かしながら、先手先手で打ち手を繰り出していければと考えています。まずは直接、空港へ行って聞いてみようじゃないか!といった思いですし、これからもインタビューは継続していければと考えています」(井上氏)

 同社の名物企画である、総2階建ての超大型旅客機エアバスA380を用いた遊覧チャーターなどは、「誰も考えたことがなかった」(井上氏)ものの、こういった活動を経て利用者からの意見を反映したことがきっかけです。「この2年間、ファンはありがたいとあらためて認識しました。ピンチにお助けいただいているファンの方々をもっと大事に、もっとコミュニケーションをとっていきたい」(同氏)と話します。

「――ANAは、努力と挑戦をする集団として、かつて”野武士集団”と呼ばれたことがあります。いまこそ原点にかえって、努力と挑戦をする集団として、一丸となり困難に立ち向かっていくことが重要です」(井上社長)。