ゼロエミッションに向け、動力のエネルギー革命が進む船。2022年は電動船からLNG、果ては風力まで、様々な新エネルギー船が続々と竣工します。

2022年は新エネ船のオンパレード

 地球温暖化や気候変動への対策が叫ばれる中、2022年はGHG(温室効果ガス)を排出しないゼロエミッション電気推進(EV)船や、LNG(液化天然ガス)燃料フェリーなど、環境に配慮した船が日本でも続々と竣工します。2022年に登場する注目の船を紹介します。

次世代内航EVタンカー「あさひ」(2022年3月竣工、4月就航)


「あさひ」進水式の様子(画像:旭タンカー)。

「あさひ」は旭タンカーが2020年10月に発注した499総トン型EVタンカーの1番船です。

 容量3480kWhの大容量リチウムイオン電池を動力源とする世界初のピュアバッテリータンカーで、仕様はe5ラボ(東京都千代田区)が企画・デザインした「e5タンカー」を採用しました。GHGを排出しないゼロエミッション運航を実現するとともに、主機の内燃機を電化することにより、エンジンメンテナンスの手間を削減するだけでなく、振動・騒音がゼロとなることで船内の労働環境も従来型船より改善します。

 同船は建造ヤードの興亜産業(香川県丸亀市)で2021年12月に進水しており、2022年4月に舶用燃料供給船として東京湾内に就航します。バッテリーへの給電設備は夜光係留桟橋(川崎市川崎区)付近に設置。自然災害発生時には船内の大容量バッテリーに貯めた電気を非常用として陸上で活用することで、地域のBCP(事業継続計画)やLCP(生活継続計画)の貢献につながる新たな役割を担っていきます。

 なお2番船は井村造船(徳島県小松島市)で建造され、2023年3月の竣工予定です。

自航式SEP船(2022年10月竣工)

 清水建設は12メガワット級の超大型洋上風車の建設に対応できる世界最大級の自航式SEP船(自己昇降式作業船)を、JMU(ジャパンマリンユナイテッド)呉事業所で建造しています。再生可能エネルギーとして大きなポテンシャルを持つ洋上風力発電所の工事で大きな力を発揮するでしょう。

 同船は全長142m、全幅50m、2万8000総トンで、クレーンの最大揚重能力は2500トン、最高揚重高さは158m。8メガワット級の風車なら7基、12メガワット級なら3基分の全部材を一度に搭載できます。

 作業能力も高く、予備日をみても8メガワット級の場合は7基を10日、12メガワット級の場合は3基を5日で据え付けられます。船体のジャッキアップ・ダウンが可能であり、既存のSEP船に比べ5割程度高い稼働率を発揮できるように設計されました。


世界最大級となる自航式SEP船のイメージ。洋上風力の風車据え付けなどに使われる(画像:清水建設)。

 日本は洋上風力を2030年までに1000万kW導入するとの目標を掲げているものの、8メガワット級以上の風車建設に対応できるSEP船がこれまでなかったため、再生可能エネルギー拡大に向けて大きな活躍が期待されます。

 同船は2021年11月に進水しており、2022年10月の竣工が予定されています。

LNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」(2022年12月竣工予定)

「さんふらわあ くれない」は、商船三井の子会社フェリーさんふらわあが大阪〜別府航路に投入する日本初のLNG燃料フェリーです。商船三井が2019年12月に三菱重工業グループの三菱造船に発注。現在、三菱重工下関造船所で建造が進められています。竣工は2022年12月、就航は2番船の「さんふらわあ むらさき」とともに2023年春の予定です。

「さんふらわあ くれない」は長さ約199.9m、幅28m、約1万7300総トンと既存の「さんふらわあ あいぼり/こばると」(9245総トン)に比べて大型化。”カジュアルクルーズ船”として、乗船客にゆったりとした空間を提供しつつ、いわゆるモーダルシフトに対応するためトラックの積載台数を増加させました。

 従来の重油と、LNGを燃料として使用できる2元燃料(DF)エンジンとして、主機関にバルチラの「バルチラ31DF」を、発電用機関にヤンマーパワーテクノロジーの「8EY26LDF」を採用し、CO2の排出量を従来比20%削減、SOx(硫黄酸化物)の排出量がほぼゼロという優れた環境性能を達成します。


旅客フェリーとしては日本初のLNG船となる「さんふらわあ くれない」。ポスターはちょっとレトロに(画像:フェリーさんふらわあ)。

 大阪〜別府航路では1912(明治45)年に投入された初代「紅丸」をはじめ、「くれない」「むらさき」の名を冠した船が活躍してきました。特に1960(昭和35)年に竣工した3代目「くれない丸」(現ロイヤルウィング)は、豪華な内装から瀬戸内海の女王と称されました。「さんふらわあ くれない」の名称はこうした歴史に由来します。

ウインドチャレンジャー搭載石炭船(2022年中)

 伸縮可能な帆(硬翼帆)を設置し、風力を船の推進力に活用する現代の帆船が2022年に竣工します。


ウインドチャレンジャー搭載石炭船(画像:商船三井)。

 商船三井と大島造船所(長崎県西海市)が中心となり開発した、硬翼帆式風力推進装置「ウインドチャレンジャー」を搭載する9万9000重量トン型の石炭船で、大島造船が建造、東北電力の火力発電所向け石炭輸送に投入される予定です。

 商船三井は「ウインドチャレンジャー」を次世代帆船と位置付けています。帆の素材にGFRP(ガラス製繊維強化プラスチック)を採用。軽量化により帆全体の面積を大きくすることが可能となり、推力への利用を最大化しました。また、風の強さや向きをセンサーで感知し、展帆や縮帆、回転といった動きを自動で行うことで、風力を効率的に利用できるようにします。

 東北電力は「ウインドチャレンジャー」搭載船の導入によるGHG削減効果について、従来の同型船と比較し、日本〜豪州航路で約5%、日本〜北米西岸航路で約8%を見込んでいます。

化石燃料由来の新エネ船も!

 化石燃料に由来する新たなエネルギーを使用する船も登場します。

MGO燃料近海船(2022年中)

 尾道造船(神戸市中央区)では2022年の竣工を目途に、ジャパンエンジンコーポレーション(J-ENG、兵庫県明石市)が開発した新型のMGO(マリンガスオイル)専焼エンジンを搭載する、商船三井ドライバルク向け1万7500重量トン型近海船を建造しています。

 MGOは、これまで船舶用ディーゼルエンジンで使用されてきたC重油に比べて、高品質で環境に優しい燃料です。新型エンジンは一つの燃料弁から2種類の異なる液体燃料などを層状に噴射できる層状噴射システムを適用し、MGOと水の組み合せにより、燃費の向上とNOx(窒素酸化物)低減を実現しています。

 CO2排出量は従来型の主機を採用した船舶より約6%の削減効果が見込まれており、国際的なCO2削減指標であるEEDI(エネルギー効率設計指標)フェーズ3もクリアしました。

 J-ENGは層状噴射システムについて、アンモニアやバイオ燃料など、各種カーボンフリー代替燃料混焼への応用も可能としており、さらなるGHG排出削減へ向けたポテンシャルを持つとしています。

LPG燃料VLGC(2022年中)


日本郵船のLPG燃料VLGC(画像:日本郵船)。

 日本郵船は同社初となるLPG(液化石油ガス)燃料VLGC(大型LPG運搬船)2隻を新造します。2隻とも川崎重工業の坂出工場で建造し、2022年の竣工予定です。

 新造VLGCは、上甲板にカーゴタンクから独立したLPG燃料タンクを装備することにより、貨物とは別に燃料用のLPGを積載することを可能にしました。これにより、船の大きさを維持しながらも、LPG燃料による航続距離の伸長を実現。また、積荷と性状の異なるLPGの補給や、揚荷するLPGとの明確な区別が可能だとしています。

 日本郵船グループはSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献する活動を加速させており、LNG(液化天然ガス)を燃料とする自動車船の連続建造や、今回のLPG燃料VLGCの建造もその一環となります。同社は川崎重工にLPG燃料の大型LPG・アンモニア運搬船(VLGC)2隻も発注しており、2024年の竣工予定です。