長年にわたり事故死者数ワーストだった愛知県、2020年にこれを返上、2021年はさらなる抑え込みに成功しました。要因は何なのでしょうか。

事故死者数ワースト脱却後の改善が目覚ましい愛知県

 長きにわたり、交通事故死者数が全国ワーストだった愛知県が、その抑え込みに成功しています。2022年1月1日に同県が公表した2021年中の交通事故死者数は117人、統計開始以来、最も低い数値でした。また、2020年比較の年間減少数は37人で、過去5年間をみる限りで最も少ない数字です。毎年度設定される交通安全計画「2025年までに年間の死者数125人以下」の目標も、前倒しで達成しました。


名古屋市内の交差点での街頭活動。10年前から行われていたが、目に見えた効果が現れたのは最近だった。2011年(中島みなみ撮影)。

 愛知県交通事故死者数は2018年まで16年連続で最悪でしたが、2019年にこれを脱却。3年連続となる2021年は死者数の減少率は驚くものがあります。愛知県は前年比で24.0%(2021年12月31日)でした。2021年の死者数は全国的にも減少傾向ですが、47都道府県全体の減少率は3.8%(2021年12月27日現在)ですから、愛知県の減少率が突出して高いことがわかります。

 さらに、発生状況からも改善の兆しがみられます。注目すべきは月別の死者数です。2021年の愛知県は12月の死亡事故を前年同月比で少なく抑え込むことに成功しました。死亡事故対策の効果は2020年から顕著です。

 2020年の愛知県は11月までは全国で最悪でした。しかし、12月の発生件数を抑え込むことで、年間の全国ワーストを回避。逆に12月に前年を上回る上積みをしたのは東京都で、愛知県を追い抜き、最悪の結果をもたらしたのです。ちなみに愛知県が“脱ワースト”となる前年の2018年は、12月に県内で前年同月を上回る事故が発生しています。

 死亡事故が多発する都道府県には、共通した傾向があります。通年で事故が多いだけでなく、12月にさらに事故件数を上積みして最悪の結果をもたらすのです。2021年の死者数で全国最悪を競った神奈川県や大阪府も、ともに12月は前年同月を上回っています。

事故の多い場所、時間帯、シチュエーションに集中対策

 2021年の7月、愛知県警察本部の後藤里志交通総務課長は愛知県が主催した交通安全対策会議でこう発言していました。

「下半期は交通死亡事故が多発する傾向にあることなどを踏まえると、けして楽観視できる状況ではなく、連続減少させるためには関係機関が緊密に連携して、諸対策をより強力に推進していかなければならない」

 2021年中の死者数を抑えられた要因は、これからの分析を待たなければなりませんが、愛知県警が「抑止の柱」に掲げたのは高齢者、歩行者、自転車、交差点の4項目でした。重点項目を提示するだけでなく、さらに深掘りして対策を講じることが、死者数減少の好循環を生む原動力でした。


愛知県警察本部(中島みなみ撮影)。

 愛知県における高齢者の死亡事故は、横断中の事故が最も多く大半を占めています。一方、県内で9月〜12月に発生した過去5年間の交通死亡事故を分析すると、午後5時から午後7時の時間帯に交通死亡事故が多発していました。県警は「夕方の5〜7(ゴーナナ)は“魔の時間”」と警告すると同時に、こうした時間帯に集中して街頭活動に力を入れました。

 街頭活動には警察官だけでなく、地域の企業や自治体も参加。歩行者保護活動や横断歩行者等妨害等違反の取締りを強化して、交差点の安全を人が見守ることで、運転者の緊張や歩行者の注意を高めました。これにより2021年の愛知県内では、横断中、ならびにゴーナナ時間帯の死亡事故が減少しています。

 県警はさらにデータ分析を重視し、携帯電話事業者の人口動態データを利用して、高齢者の利用の多い施設など通行実態を把握。交通街頭活動を展開する予定です。

 なお、記事中の2021年の数値は暫定値です。今後の確定値で修正されることがあります。