2030年に向けて成長する業界はどこなのか?(写真;adam121/PIXTA)

日本がコロナ禍という“新常態”に入って早くも1年半が過ぎた。インバウンド需要を背景に好況を謳歌していた空運やホテルといった業界が危機に瀕する一方で、フードデリバリーに代表される、新しい生活スタイルも広がっている。

こうしたトレンドの変化がコロナ禍の収束とともに終わるのか、持続力を持ったものなのかを見通すことは簡単ではない。

投資家や就活生、ビジネスパーソンなど、将来にかけての選択をする人にとって必要なのは、そうした未来の見取り図であるといえるだろう。

四季報記者が大予測「2030年の業界天気図」

東洋経済新報社が毎年刊行している『会社四季報 業界地図』の2022年版が8月26日に発売された。業界地図は2000年代前半の発売開始以後、毎年更新を重ね、昨年刊行の2021年版でついに累計販売部数が200万部を超えた。


最新版の『業界地図 2022年版』も自動車、電機、IT、小売りなどの主要業界のほか、注目が集まる脱炭素やDX(デジタルトランスフォーメーション)など、ビッグトレンドを新規に加えた全174業界の最新情勢を、会社四季報記者が徹底解説している。

業界地図で毎年掲載する内容の1つに、各業界の景況感を、大雨から快晴までの6段階で評価する「天気予想」がある。

従来は今年度後半と来年度の2期を予想しているが、最新の2022年版の巻頭特集ではもっと先の「2030年の業界天気図」を特別予測した。

以下にピックアップしたのはその一部である。ポストコロナの、2030年の世界で勝ち抜く業界・企業はどこか。ぜひ最新版の業界地図を手に取って、じっくり見定めてもらいたい。

2030年に伸びる業界として第1に注目が集まるのは、リチウムイオン電池や全固体電池など、蓄電池関連の業界。

世界の脱炭素へのシフトを受けて、自動車の電動化は確実に進む。日本政府は2035年までに新車販売に占める電動車比率を100%にする目標を打ち出している。ヨーロッパやアメリカ、中国でも電動車の普及目標を掲げており、2035年には世界市場の5割近くが電気自動車(EV)に移行するという予測もある。


『業界地図 2022年版』の巻頭では、「2030年の業界天気図」を特集。主要業種の2030年を記者が大予測しています

電動車で欠かせない部品が蓄電池だ。日本はリチウムイオン電池の開発・実用化で先鞭をつけた。車載用リチウムイオン電池の実用化でも先行したが、現在は積極投資を進める中国、韓国勢が世界トップのシェアを誇るなど躍進が著しい。

日本勢は2030年にかけても海外勢との差を縮めるのは困難だろうが、それでも電動車の台数増に従って一定のポジションを確保するだろう。

電池の安全性と高容量を両立させるための技術革新は現在も進行中で、全固体電池のような新型電池の実用化にも注目が集まっている。

こうした電池を構成する正極材、負極材、セパレータなどの化学部材については、技術力、市場シェアともに日本の化学メーカーの独壇場だ。今後も技術革新が見込まれる電池に関しては、技術力に秀でる日本企業にとってプラスになる。

ITではDXとクラウドが注目

次に注目なのが、IT業界のクラウドDXだ。

脱炭素と並んで、DXはコロナ収束後も間違いなく進む世界的トレンドだ。実店舗を運営する小売り企業がECを開始したり、不動産業者や民間保険会社が紙や対面で行っていた仕事をIT経由に置き替えたりする。職場のテレワークが一般化するなど世界はますます非接触、非対面によるものへ移り変わっていくだろう。

並行して進むのが、ITインフラの整備だ。とりわけクラウドは初期投資を抑えてスピーディーに導入・縮小ができ、サービス拡張の柔軟性が高いという点がDXと相性がよい。

実際、ITシステムの中で、社内にサーバーなどIT設備を設置するオンプレミス型に替わって、クラウド導入することが増えている。インターネットセキュリティーもクラウド化されたサービスが中心となっていく。

こうしたクラウドのプラットフォームはこれまでアメリカのアマゾンが展開する「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」の一強状態だったが、ここにきてマイクロソフトが持ち前の法人向けチャネルの強みを生かし、「Azure(アジュール)」で猛追している。

日本のITベンダーである富士通やNECなどは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)を中心とするクラウドのエコシステムの中で、導入パートナー企業として生存し、共存関係を築いていくだろう。

好調が予測される3つ目の業界が工作機械だ。「機械を作るための機械」である工作機械は、世界的にも日本企業の競争力が強い分野だ。2020年末からはエレクトロニクス機器や、電動車を含む自動車の生産回復によって、ファナックやDMG森精機など、上場する工作機械大手の業績も急回復している。

2030年にかけては、先進国での省人化ニーズと新興国での市場拡大が追い風になる。現在の世界最大の工業国である中国に続き、将来的にはインドやアフリカが生産・消費の地域として、存在感を高めていくことが予想され、工作機械を売り込む需要地が増える。

さらに先進国である欧米や日本などでも商機がある。熟練労働者の高齢化の流れは止まらず、ますます人手不足が深刻化する。AI(人工知能)やセンサーを通じてさまざまな情報を計測・数値化するセンシング技術を活用して、高精度の加工を誰でも行えるようにする機能や、加工工程間の人手作業を自動化する機能など、工作機械の高機能化が進んでいくだろう。

最大顧客である自動車産業の変革もチャンスだ。当面はハイブリッド車などへ向けエンジン部品の生産が継続される一方、EV向けのバッテリーやモーター関連など新しい部品加工の需要が生まれる。

雨が降り続く製薬、証券業界

一方で、2030年までに厳しい状況が続く「雨の業界」もある。その筆頭が医薬品を生産・販売する製薬業界だ。

高齢化社会が進み、医薬品の利用がさらに増えるものの、医薬品の価格は政府が決める公定価格という点に問題がある。政府は膨張する医療費負担を抑えるために、これまでは2年に一度だった医薬品価格の改定を2021年から毎年行うようになった。今後も、医薬品の価格下落はますます加速していくだろう。

こうした中、経営体力に乏しい中堅以下は単独での生き残りが難しい状況になる。新薬を発売してから20年が経つと特許が切れ、より価格の安いジェネリック(後発薬)医薬品が市場を席巻してしまう。それまでに儲けを生む、次の新薬を生み出さなければならないが、生活習慣病のような市場の大きい薬は開発され尽くしたともいわれる。

残っているのは、がんなど巨額の開発資金が必要になる分野や開発が難しく患者数の少ない希少疾患などだ。市場拡大の恩恵に浴してきたジェネリック医薬品メーカーも、政府が目標に据えてきたジェネリック薬の使用比率が80%に達し、これからは市場拡大ではなく、奪い合いの競争に突入する。

製薬業界と同じように厳しい状況が予測されるのが証券だ。

金融分野で2030年に「雨」となる業種の代表格は地方銀行で、人口減による経済縮小にさらされ、再編淘汰の圧力がかかっている。が、苦境に立つのは地銀だけではない。

証券業界では、対面営業を中軸に据えてきた従来型の証券会社の経営環境はさらに厳しくなることが予想される。中心顧客層がすでに高齢で、若い世代ではネット証券の利用が一般化しているからだ。

そのネット証券では現在の収益柱である手数料の完全無料化に向けたカウントダウンが進んでおり、LINE証券やCONNECTなどのスマホ専業証券、AIが最適な投資戦略を提案するロボアドバイザーとの競争も控えている。

日本の個人株主数は年々増加しており、2020年度は前年度比308万人増加して5981万人となった。だが、競争環境はますます厳しくなるばかりで、2030年の業界勢力図は様変わりしている可能性が高い。