一般道で後席シートベルト非着用は約6割!? 罰則がなくても必ず着用すべき理由

写真拡大 (全2枚)

10年前より死亡事故は減少したけどシートベルト非着用率はほぼ同じ!?

 2008年の道路交通法の改正により、走行中のクルマに乗車する場合、全席でのシートベルト着用が義務化されました。

 しかし実情は、前席の着用率は高いのですが後部座席ではまだ徹底されていないこともあり、とくに子供や高齢者ではシートベルト非着用というケースも見受けられます。

一般道で着用率が低い後席シートベルト

【画像】衝撃! シートベルト非着用で事故ったら致死率12倍!? NGな使い方とは(10枚)

 シートベルトの装着義務について、道路交通法の第71条の3「普通自動車等の運転者の遵守事項」には「自動車の運転者は備えられたシートベルト(※実際の表記は「座席ベルト」)を装着しないで運転してはならない」とともに「自動車の運転者は、シートベルトを装着しない者を乗車させてはならない(ただし小さい幼児や病気などで装着できない乗員は除く)」と表記されています。

 2008年の道路交通法改正によって全席シートベルト着用が義務化されても後部座席の人の着用率が低いのは、一般道と高速道路では違反点数の有無や後席シートベルトリマインダー(警報装置)があるクルマが少ないことも影響しているでしょう。

 運転席や助手席でシートベルトを着用しないまま運転していると、まずシートベルトリマインダーによってインパネに警報マークが点灯するとともに警告音が発せられます。

 それも無視して走行して取り締まられると、一般道・高速道路どちらでも違反点数1点が科せられるのに対し、後部座席のシートベルト非着用は、高速道路では違反点数1点ですが、一般道では「口頭注意」のみで違反点数がつきません。

 現状では後部座席の人が着用していなくても、一般道では違反切符が切られないのです。

 またシートベルトリマインダーに関しては、2020年9月以降の新車では前席だけでなく後席も含む全席に対象を拡大したものを装着することが義務化されました。

 ただ、実際に街を走るクルマには2020年以前の車両も多く、後席でシートベルト非着用のまま乗車しても警報が作動しない(ついていない)というのも、着用率が上がらない理由のひとつだと考えられます。

 ではシートベルトの有無で事故の被害はどれくらい変わるのでしょうか。

 警察庁のウェブサイトに掲載されている「シートベルト着用関連統計」を見ると、2010年の交通事故による死亡者数1637名のうち、シートベルト非着用率は759名で46.4%。2020年では死亡者数自体882名、シートベルト非着用が368名で41.7%となっています。

 さらに警察庁とJAFが2020年に全国887か所で調査した「シートベルト着用状況全国調査」によると、後部座席のシートベルト着用率は一般道で40.3%、高速道路では75.8%となっています。

 2002年の合同調査開始以来、一般道でも高速道路でも過去最高の着用率となったものの、別の見方をすれば、一般道では後部座席乗員の約6割がシートベルトを着用していないとも捉えられます。

 前出のように、道路交通法改定から10年以上が経過しても死亡事故における後席シートベルト非着用の比率も5ポイントしか減っておらず、シートベルト着用の重要性がさほど認知されていないのが現状といえそうです。

 ちなみに警察庁によると、事故の際に後部座席でシートベルト非着用だったときの致死率は、一般道路で約3.3倍、高速道路では約11.7倍まで上昇するといわれています。

※ ※ ※

 後部座席でシートベルト着用が免除されるケースがありますが、その状況は限られています。

「ケガや障害によって着用すると具合が悪くなる場合」や「妊娠中で着用すると具合が悪くなる場合」、「座高が高すぎたり低すぎる、または肥満により着用できない場合」、「車内で乳児への授乳やオムツの交換」「急病で幼児を病院まで搬送する場合」といった、着用によって不具合が生じる場合のみとなっています。

衝突実験でわかる、着用/非着用における衝撃の違い

 後部座席の乗員がシートベルト非着用の状態でクルマが衝突した場合、どれくらいの衝撃があるのでしょうか。

 JAFが2017年に実施した「後部座席でのシートベルト着用の有無による衝突実験」の結果で比べてみましょう。

衝突時、シートベルト非着用の後席乗員は前方に投げ出される(画像:JAF)

 この実験は、前席と後席に2体ずつのダミー人形を乗せたクルマを時速55kmで前面から障壁に衝突させる「フルラップ前面衝突実験」で、運転席側の後席をシートベルト非着用として、衝突時のダミー人形の挙動と頭部障害基準値を計測したものです。

 ここで用いられる評価基準が、衝突や落下などの衝撃による脳や頭蓋骨への損傷程度を表す「HIC値(頭部障害基準値)」。

 一般的にHIC値が1000を超えると頭部に重大な損傷が発生する可能性があるといわれ、2000を超えると重傷や死亡に至るほどの致命的な頭部損傷を負う可能性があるとされています。

 衝突実験の結果、シートベルト非着用で後席にいたダミーは前方に投げ出され、運転席のヘッドレストに頭部を打ちつけて運転席のダミーを押しつぶしてしまいました。運転席のダミーは後方から押しつぶされ、作動したエアバッグとの間に挟まれるという結果になっています。

 この衝突時の後席に置いたダミーのHIC値は驚愕の2192。良くて重傷、当たりどころによっては死亡してもおかしくない数値を記録しています。

 また押しつぶされた運転席のダミーが受けたHIC値は1171。こちらも頭部に重大なダメージが残るほどの衝撃を記録しました。

 その一方で、助手席と助手席側の後席はシートベルトによって衝撃時も体が投げ出されずに済んだと報告されています。

 以上の結果を踏まえると、事故発生時に後席でシートベルト非着用状態の乗員がいた場合、本人が重大な損傷を負うだけでなく、運転手などほかの乗員にも二次的被害を与える危険性があるということになります。

 一般道でも幹線道路などの制限速度は時速50kmや60kmに設定されているところもあり、前方不注意などでノーブレーキのまま前車に突っ込んでしまったら、大きな事故になる可能性があります。

 しかしシートベルト非着用時の衝撃の大きさを考えると、一般道においても後席もシートベルト着用を徹底したほうが良いでしょう。

 それでも、後席のシートベルト着用を嫌がる人はいるものです。たとえば子供や高齢者のなかには、シートベルトの締め付けをきつく感じたり、体格によってはシートベルトの位置が合わなかったりする人もいるでしょう。

 乳児や幼児などはチャイルドシートを使用しますが、チャイルドシートは卒業したけれど大人ほどのサイズはない、いわゆる「児童」と呼ばれる子供は、体格不適合によってシートベルトのミスユース(正しく着用していない状態)が38.9%もいるというデータがあります。

 そんなときには、シートベルトの位置を変更できるアイテムを利用するのがお勧めです。最近人気なのが、両側にクリップがついた補助用ベルト。補助ベルトのクリップでシートベルト数か所を留めて角度を変えることで、子供のサイズに適合させるタイプのものがあります。

 また、シートベルトの上から装着する補助パッド自体に角度を変える効果があるものもあり、食い込みを抑える商品が販売されています。

 ただし注意したいのが、シートベルトを伸ばしクリップで留めることでテンションを緩めるタイプです。

 現在、ほとんどのクルマには「シートベルトプリテンショナー」が装着されています。これは衝撃を受けたときに瞬時にシートベルトを巻き取ってシートに体を拘束させる機構なのですが、テンションを緩めるクリップを使うとシートベルトプリテンショナーが正常に作動しない可能性も考えられます。

 このようなアイテムを使用する場合、安全性や作動性をクリアしたものを選ぶようにしましょう。

※ ※ ※

 一般道では後部座席のシートベルト非着用でも違反とはならないとはいえ、最大限の対策として全席シートベルト着用を徹底することが大切です。

 また、シートベルトができない事情がある人を除き、後部座席の人にも着用を促すのもドライバーのマナーとなりそうです。