自動車業界に衝撃! 東京都が純ガソリン車禁止を前倒し!? 小池発言の真相とは

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政府より5年前倒しの2030年に東京都が非ガソリン化!?

「2030年までに、(都内で販売される乗用車新車販売の)100%“非ガソリン化”を目指す」

 いきなり飛び出した、小池百合子東京都知事の2020年12月8日の都議会での発言により、自動車産業界で大きな波紋が広がっています。

新車の純ガソリン車が販売できなくなる日も近い!?

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 非ガソリン化とは、パワートレインの電動化を指します。

 2020年12月初めに、政府が「2030年半ばに純ガソリン車販売禁止に向けて最終調整に入った」という報道があったばかりです。

 小池都知事の発言は、政府方針の正式発表を待たず、さらには2030年半ばではなく、はっきり2030年といい切ったことにより、自動車産業界に衝撃を与えました。

 しかも、二輪車については「2035年までに100%非ガソリン化」するとの方針です。

 二輪車とは大型二輪車を含むのか、それともすでに一部でEV化が進んでいる小型バイクだけなのか。

 また、二輪車は四輪車ようにハイブリッド車がほとんど存在しないため、すべてをEV化することになるのでしょうか。

 そして、非ガソリン化という表現で、商用車などで多いディーゼルエンジンについてどう扱うのかも詳細は不明です。

 次世代車としてクリーンディーゼルは良いのか、それとも米・カリフォルニア州が2020年9月に公表したような「2035年までにインターナルコンバッションエンジン(内燃機関)搭載車の禁止」と同様の解釈で、ディーゼルエンジンも禁止条項として含むのでしょうか。

 さまざまな疑問を含む今回の小池発言ですが、そもそも東京都環境局は、2050年のゼロエミッションな世界を目指す施策「ゼロエミッション東京戦略」を2019年12月に公表しています。

 このなかで、自動車からCO2排出実質ゼロを目指す「ZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)普及プログラム」を作成。

 ZEVの定義としては、「走行時にCO2等の排出ガスを出さない電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)をゼロ・エミッション・ヴィークルと呼ぶ」としており、ここではクリーンディーゼルに関する明記はありません。

 そのうえで、「2030年のZEV普及目標」として「都内乗用車新車販売台数に占めるZEV割合50%」を掲げていました。参考として、2018年の同ZEV割合は、1.6%に過ぎません。

 この政策発表から約1年後に出された今回の小池発言では、「100%」と大幅に軌道修正したのですから、自動車産業界が大騒ぎになるのは当然です。

クルマの電動化実現には社会システムの見直しが不可欠

 それにしても、政府も東京都も、なぜこれほどまでにZEV化へ一気に舵を切ったのでしょうか。

 もっとも大きな要因は、ESG投資でしょう。

もっとも売れてる電気自動車 日産「リーフ」

 経済産業省はESG投資について、「従来の財務情報だけではなく、環境(エンバイロンメント)・社会(ソーシャル)・ガバナンス要素も考慮した投資」と定義。

 持続可能な開発目標(SDGs)とともに、企業経営を評価する概念として世界的に注目が集まっています。

 投資マネーが動くなかで、カリフォルニア州や中国政府、欧州委員会などが進めてきたCO2総量規制やZEV数量規制の厳格化が進んでいます。

 こうした投資誘導型ともいえる、昨今の急速な電動化シフトに対して、自動車メーカー幹部らと意見交換していると「想定以上」という言葉をよく聞きます。

 たとえば、先日のスズキ新型「ソリオ」のオンライン記者発表の際、鈴木俊宏社長は筆者(桃田健史)の同社の電動化戦略に関する質問に対して「マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVへとステップを踏むべきだが、昨今のEV化(の潮流)については、スピードが加速気味かと思う」と、ESG投資を念頭に置いた発言をしています。

 そのほか、ESG投資やSDGsの文脈で、いわゆるスマートシティ構想に関する議論が再燃しており、そのなかで活用されるモビリティのZEV化が強調される面があります。

 いずれにしても、本来のクルマの電動化は、充電ステーションや水素ステーションのインフラ整備や、ウェル・トゥ・ホイール(原料の掘削からクルマの駆動まで)という概念、また電池のリサイクルやリユースなど社会システム全体を大きく見直すことが必要不可欠です。

 さらには、人々の環境に対する意識を大きく変え、コロナ禍となり注目されている、ひとりひとりの行動変容をも伴うべきだと考えます。

 それが、足下でのクルマの電動化の議論を見ていると、ガソリン車からZEVへの単なるコンバージョン(買い替え)として、大量生産および大量消費を前提としている印象があります。

 アメリカや中国に負けるな、といった日本の産業力強化やESG投資に対する過度な対応ではなく、地にしっかり足をつけた“人中心”の議論が進むことを願います。