約半世紀前にアイデアが提唱されたものの実現不可能だとされていたブラックホールを利用した発電方式「ペンローズ過程」につながる理論を、グラスゴー大学の研究チームが実証しました。

Amplification of waves from a rotating body | Nature Physics

https://www.nature.com/articles/s41567-020-0944-3

University of Glasgow - University news - ‘Twisted’ sound experiment helps confirm 50-year-old science theory

https://www.gla.ac.uk/news/headline_727690_en.html

Experiment confirms 50-year-old theory describing how an alien civilization could exploit a black hole

https://phys.org/news/2020-06-year-old-theory-alien-civilization-exploit.html

ペンローズ過程とは、「ブラックホールからエネルギーを取り出す」という仮想的方法です。この方法ではゴミをブラックホールに投入することによってエネルギーが得られると考えられており、ゴミ問題とエネルギー問題を一挙に解決できると目されていましたが、さまざまな技術的課題から「エイリアンにしか実現不可能」とまでいわれていました。

グラスゴー大学の研究チームが実証したのは、このペンローズ過程に関連した「ねじれた波を増幅する」というアイデアです。研究チームは、ペンローズ過程や今回行った実験についてわかりやすく解説したムービーを公開しています。

Amplification of twisted sound waves - YouTube

イギリスの科学者ロジャー・ペンローズは1969年に「自転するブラックホールからエネルギーを得る方法」を提唱しました。



この説では、負のエネルギーを持っているとされるブラックホールの外に位置する領域「エルゴ球」に容器に入れたゴミを投下するというもの。投下中にゴミだけをシュバルツシルト面(事象の地平面)に捨てて容器を回収した場合には、質量とエネルギーの等価性によってゴミの質量に応じたエネルギーを得られるとペンローズは考えました。しかしこの方法は光すらも吸い込むブラックホールから容器を取り出す方法が存在しないなどの技術的課題から、あくまで思考実験にとどまりました。



1971年、ペンローズのアイデアを引き継いだのがソビエト連邦の科学者ヤーコフ・ゼルドビッチです。ゼルドビッチはブラックホールではなく、高速で回転する金属柱に「ねじれた光波」をぶつければ、ねじれた光波は増幅されうるという説を発表しました。



この増幅効果は、救急車が近づく時にはサイレンの音が高く聞こえ、遠ざかる時には低く聞こえる「ドップラー効果」の回転版といえる現象によって生じます。



ゼルドビッチの思考実験では、回転する金属柱とねじれた光波が衝突した際に、通常はドップラー効果によってねじれた光波の周波数が低くなるところが、金属柱が十分な回転速度を持った場合にはねじれた光波の周波数が高くなると考えられました。



この発想は、ペンローズの「ブラックホールからエネルギーを取り出す」という考えに近いものです。



ゼルドビッチのアイデアは、「金属柱の回転数が秒間10億回転以上に達しなければならない」という問題点があったため、思考実験にとどまりました。しかし、今回研究チームは光波の代わりに音波を使ってゼルドビッチのアイデアを実証しました。



実験では、まずリング上にスピーカーを配置し、「ねじれた音波」を生成。



生成されたねじれた音波を、回転する吸音材に照射しました。この回転する吸音材が、ゼルドビッチの提唱した高速で回転する金属柱に相当します。



吸音材の回転速度を上げたところ、回転速度の上昇に応じてねじれた音波の周波数と振幅が高くなることが確認され、ゼルドビッチのアイデアが実証されました。振幅については、吸音材の回転数次第で元の波の30%も大きくなったとのこと。この増幅に使われたエネルギーは、回転する吸音材から得られたものだと研究チームは説明しています。



なお、実際の実験機材はこんな感じ。以下の画像では、画像中央部に吸音材、その後ろにスピーカーがリング上に配置されています。



論文の共著者であるグラスゴー大学のダニエル・ファッチョ教授は「理論が最初に提唱されてから半世紀後に、実験的な検証を達成できたことに感動しています。半世紀前の宇宙起源に関する理論を確認できたというのは奇妙な気がしますが、今回の実験は科学的探求に関して新たな可能性を切り開くものだと考えています」とコメントしています。