戦国時代、結婚を拒んで壮絶な最期を遂げた悲劇の美女・藤代御前の怨霊伝説【中】

写真拡大 (全5枚)

前回のあらすじ

前回の記事はこちら

陸奥国(現:青森県)の戦国大名・津軽為信(つがる ためのぶ)は、美女として名高い藤代御前(ふじしろごぜん)を側室にしようと、家臣である彼女の夫(藤代の領主・藤代某)に引き渡しを求めます。

しかし、いくら主命でも「妻を引き渡せ」などという理不尽な要求は受け入れられず、藤代某は毅然とこれを断りました。

「いくら主命でもお断り申す(ってか、妻を差し出せとかナメてんのか?)」為信に思いっきりガンをくれる藤代某(イメージ)。

これを逆恨みした為信は、どんな手段を使ってでも藤代御前をゲットするべく、夫の抹殺を企むのでした……。

藤代御前の懸念が的中……謀殺された夫の無念

「あやつさえ亡き者としてしまえば、藤代御前も生活のためにわしを頼らざるを得まいて……くっくっく……」

どこまでもゲスい為信は一計を案じ、家臣を呼んで密かに名刀を与え、これを藤代某に安く譲らせておいてから、素知らぬ顔で言いました。

「藤代の……そちが近ごろ、名刀を求めたと聞いた。わしもかねがね興味があって蒐集しておるので、コレクション鑑賞会を開かぬか?」

そう誘われた藤代某は「先刻の一件を忘れて、仲直りしたいのだな」と好意的に解釈。「これは罠に違いありませぬ」と懸念する藤代御前を笑い飛ばし、意気揚々と名刀を持参します。

策略だなどと露も疑わぬ藤代某は、家臣に案内される内に気づけば奥の間(為信のプライベートエリア)まで入り込んでいました。

「その方、登城の折は入口で刀を預ける法度を知らぬ筈もあるまいに、不敵にも奥の間へ大刀を持ち込むとは……弑逆(※)の意思ありと見た!」

「左様……過日の『お戯れ』を真に受け、お屋形様を逆恨みしての犯行に違いあるまい!」

(※)しいぎゃく。目上の者(=ここでは為信)を弑する=殺そうとすること。

何の事だか判らない藤代某が「そんなバカな、それがしはただ、お屋形様の使いより案内されて……」と周囲を見回しても、家臣の姿はどこにもありません。

「えぇい問答無用!者ども、此奴を引っ立てぃ!」

捕らわれた藤代某(イメージ)。

「おのれ為信……謀ったな!」

悔やんでも時すでに遅く、藤代某はロクに裁判も受けられないまま、あわれ刑場の露と消されてしまったのでした。

夫を喪い、極貧生活の藤代御前を、カネと権力で釣ろうとしたが……

「……あぁ、懸念が現実となってしまった……」

藤代御前は夫の死を悲しむ暇もなく家督を継承、女主人として一家を切り盛りすることになりました。

遺された藤代御前の妹や家来たちもよく彼女に従い、力を合わせて盛り立てましたが、「謀叛人」の遺族ということで所領は没収され、糊口をしのぐ極貧生活を強いられます。

そこへ為信がドヤ顔でやって来て、藤代御前に「そなたが側室になれば、一族に不自由ない暮らしをさせてやる」と持ちかけますが、古来「貞婦は二夫に見(まみ)えず」と言い、また愛する夫の仇である為信に嫁ぐなど、絶対に嫌でした。

「……お断り致します」

女なんて、カネと権力で釣ればチョロいもの……せいぜいステイタスか野心の道具くらいにしか考えていなかった為信は、藤代御前にフラれたことで怒り狂います。

「どんなに暮らしが辛くても、心だけは売れません」しつこく言い寄る為信を拒絶する藤代御前(イメージ)。

「あぁそうかい……こっちが下手に出てやりゃあお高くとまりやがって……覚えておれ、たかが一領主の分際で一国一城の大名を敵に回して、ただで済むと思うなよ!」

完全に悪役っぽい捨て台詞と共に為信が逃げ帰った後、藤代御前は妹や家来たちに謝りました。

「……ごめんなさい。私のワガママで、皆に苦しい思いをさせて……」

「いえ、決してお方様の責にはございませぬ」「そうです。お姉様、あんな方に嫁いではダメ」「これからも共に、どんな艱難辛苦も乗り越えて参りましょうぞ!」

「みんな、ありがとう……」

と言う具合に、ますます結束を固めた藤代一族ですが、このまま引き下がるような為信ではありませんでした。

【続く】

※参考文献:
青森県文化財保護協会『津軽歴代記類』青森県文化財保護協会、昭和三十四1959年
稲葉克夫『青森県百科事典』東奥日報社、昭和五十六1981年