ビル・ゲイツが「もし次の疫病大流行が来たら」を語る2015年公開のムービー
2014年にエボラ出血熱が流行したことを受けて、ビル・ゲイツ氏は「もし次の数十年で1000万人以上が亡くなる災害があるとしたら、それは戦争よりもむしろ『感染性の高いウイルス』の可能性が高い」と警鐘を鳴らしてきました。ゲイツ氏が2015年に講演した「もし次の疫病大流行(アウトブレイク)が来たら?私たちの準備はまだ出来ていない」ムービーは、まさに今見るべき内容となっています。
バレルを持って登場したビル・ゲイツ氏。
「私が子どもだったとき、最も恐れていたのは核戦争でした」
「家の地下にはこのようなバレルがあり、中には缶詰めや水が蓄えられていました。核兵器が飛んできたら私たちは地下へ降りて、うずくまり、バレルの食料を食べるのです」
「しかし、もし次の数十年で1000万人以上が亡くなる災害があるとしたら、それは戦争よりもむしろ『感染性の高いウイルス』の可能性が高いのです」とゲイツ氏。
この理由について、人類が核の抑制に巨額の費用をつぎ込んだにも関わらず、疫病の抑制システムについては創出すらしていないこと、つまり疫病大流行の準備ができていないことをゲイツ氏は述べました。
2014年、致死率50%以上というエボラ出血熱が西アフリカで猛威をふるいましたが、ゲイツ氏らが当時の状況を分析したところ、「システムが不十分で対処しきれていなかった」のではなく「そもそもシステム自体が存在しなかった」ことが明らかになったとのこと。
明暗を分けたのは以下の要素。まず、急な召集に応じ出動できる、そして出動すべきだった疫学者たちの集団がいなかったこと。症例レポートは紙で送られ、電子化に時間がかかったことや、内容に間違いが多かったことが指摘されています。
召集に応じ出動する医療従事者のチームが存在せず、人的な準備や体制を整える手立てもありませんでした。国境なき医師団はボランティアたちを指揮しましたが、「支援者を送り込むこと」自体に無駄な時間を要したそうです。
「規模の大きな伝染病が起こると何十万という支援スタッフが必要となりますが、現地では治療が適切に行われているかを確認する人員が一人もおらず、診断方法や、使うべきツールを判断する人もいませんでした。スタッフがいれば、生存者の血液を採取し、そこから作った血清を人々に注射し、免疫を作ることもできたでしょう」
「見逃されたことが非常に多かったのです」とゲイツ氏は語ります。
「これらはグローバルな規模の失敗です」「WHOには疫病をモニタリングするための研究費がありますが、こうしたことを行うための資金がありません」
「映画において、美男美女の疫学者たちは常に出動準備万全で、現場に駆けつけ、救援に成功します。でもそれはハリウッドの架空の世界においてです」
「あらかじめ準備ができていないだけで、次の疫病が、エボラよりも大きな危機をもたらす可能性があります」とゲイツ氏。
2014年のエボラ出血熱流行によって1万人が亡くなりましたが、そのほぼ全員が西アフリカの3カ国の住民でした。
エボラ出血熱がこれ以上に感染拡大しなかったのは「ヘルスワーカーたちの英雄的努力」「空気感染しないというウイルスの性質」「感染が都市に行きつかなかったこと」が理由です。
感染が都市に行きつかなかったのは、単なる幸運に過ぎません。もしウイルスが都市に行きついていたら、症例数はさらに増えていたと考えられます。しかし、ウイルスの中には感染していても症状がなく、感染者が飛行機に乗ったり市場に行ったりするケースも考えられます。ウイルスの感染源はエボラ出血熱のような自然由来の場合もあれば、バイオテロの可能性もあります。
空気感染によって広がったケースには、「スペイン風邪」の通称で知られる「1918年インフルエンザ」が挙げられます。当時、インフルエンザウイルスはまたたく間に世界中に広がり、3000万人以上が死亡しました。
しかし、このような事態を防ぐために、私たちは科学技術を利用し、優れた対策システムを作ることができます。
「私たちは携帯電話で、公開された情報を得て、また逆にこちらから情報を発信することができます。衛星画像により人々の居場所や移動する様子を知ることができます。生物学の発展のおかげで、病原体に応じて薬やワクチンを作る時間を劇的に短縮できます」
「私たちにはツールがありますが、これらは世界規模のヘルスシステムの中に組み込まなければなりません」
この方法は「戦争への準備」から学べるとのこと。兵士たちは常時召集に備えており、対策部隊の規模をスケールアップするための人員や資源は潤沢にあります。NATOは頻繁に戦争ゲームを行い、「人員が十分に訓練されているか」「燃料や物流の状況が理解できているか」を確認し、常に人員を出動可能な状態に保っています。
このような準備が疫病に対しても必要なのだとゲイツ氏は語ります。
この鍵となる1つめの要素が、「貧しい国々にしっかりとした病院・健康保障システムがあること」。母親が安全に出産できて、子どもたちが必要なワクチンを受けられる仕組みが必要であり、アウトブレイクの初期の兆候はこのような場所で把握可能です。
2つ目の要素は、医療従事者の待機部隊。医療に携わるように訓練され、いつでも召集に応じられる経験と専門知識を持った人々が必要です。
3つ目の要素は、上記の医療従事者を軍隊と連携させること。軍隊の機動力を利用し、物流を確保し、感染地の隔離などを素早く行えるようにします。
4つ目は戦争ではなく、細菌やウイルスの拡大シミュレーションをして、対策のために欠けている要素をあぶり出すこと。2001年にアメリカでこのシミュレーションが行われたところ、結果はよくなく、細菌との戦いでは人類が負けることが示されています。
そして、5つ目の要素として、ワクチンや診断といった分野での研究開発がさらに必要ということ。
ゲイツ氏は「これらに必要な予算はわかりません」としつつも、「予期される被害に比べれば大したことのない額だと確信しています」と述べています。エボラ出血熱の流行についてゲイツ氏は「私たちが準備を始めるための警鐘になりました。今始めれば、次の疫病の対策は間に合います」と語りました。
なお、ゲイツ氏は2015年5月にもインタビューで、疫病大流行に対する懸念を示しています。1918年インフルエンザでは特に都市部から感染が拡大していったことかから、次の感染症が都市で起こるリスクについて警鐘を鳴らしています。
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