「所有」から「利用へ」―、拡大続けるカーシェアサービス、参入相次ぎ多様化の時代へ
所有から利用へ
近年、若者を中心にかつての「所有」から「利用」に消費スタイルがシフトしている。内閣官房が主催する「シェアリングエコノミー検討会議」では、シェアリングの対象は「モノ」「空間」「スキル」「移動」「お金」の大きく5つに分類されている。このうちの一つ、「移動」の分野では今、自動車業界がシェアリングサービス時代の到来に危機感を強めている。将来的には、自動運転技術を組み合わせた統合型移動サービス(MaaS)の普及も予測されるなか、PwCコンサルティング(東京・千代田)は、2030年にMaaSなどのサービスによるビジネスが、自動車や部品販売ビジネスよりも利益面で上回ると試算している。
また、消費税増税の影響もあり、日本自動車販売協会連合会などによると、2020年1月の登録車と軽自動車を合わせた新車販売台数は、前年同月比11.7%減の36万103台で、4カ月連続のマイナスとなっている。前述の新成人カーライフ意識調査においても、63.4%が『車を所有する経済的な余裕がない』としており、多くの新成人が車を所有するための費用を負担に感じているようだ。
一方、個人の自動車消費が低迷傾向にあるなかで、市場が拡大している自動車サービスもある。その一つが、レンタカーやカーシェアリングといったモビリティサービスだ。
自動車賃貸業
近年、自家用車の保有から定額サービスやカーリース、カーシェアリングなど時間ごとに細切れに利用する動きが広がっている。自動車賃貸業にはレンタカー、リース、カーシェアリングがある。それぞれの違いを簡単に説明すると、レンタカーが不特定多数の顧客に対して短時間自動車を貸し渡すのに対し、リースは1台の自動車を長期間にわたり特定の顧客に貸し出す。従来、レンタカーは個人客が多く、リースはビジネスユーザーが多かったが、近年はレンタカーがビジネスユーザーを開拓すると同時に、個人客がリースを利用するケースも増えている。また、カーシェアリングはあらかじめサイト等に登録した会員だけに、自動車を貸し渡す。自動車を貸すという点ではレンタカーと近いが、より短時間、最短15分というごく短い時間からの利用を想定している。10代および20代の若年層は自動車シェアリングの利用傾向が高く、今後も若年層を中心にさらに普及していくことが予想される。
意識の変化を追い風に
帝国データバンクが保有する企業概要データベース「COSMOS2」から、「自動車賃貸」を主業とし、かつ過去10年間の業績比較が可能な708社の収入高合計をみると、2009年度の1兆7558億3200万円から、2011年度には一旦伸び悩んだものの、それ以降は持ち直し、2014年度には2兆円台を突破、その後も伸び続け2018年度は2兆5765億8600万円に達した。車は「所有」するものから、必要に応じて「利用」するものへと変わりつつあり、この意識の変化が自動車賃貸業界にとっては追い風となっている。また、自動車メーカー各社にとっても、レンタカーやカーシェアリングの普及を逆手に取った戦略を取る。シェアリングサービスの台頭は、新車販売台数の減少にもつながるおそれもある。しかし、トヨタ自動車は19年2月から高級車ブランド「レクサス」をはじめ、を対象に3年間で6車種を使用できる月別の定額サービス(サブスクリプション)「キントセレクト」を試験的に始めた。
激しい競争環境
レンタカー・カーシェアリング事業については今後も市場の拡大余地があり、駐車場大手など異業種からの参入も増えてきている。駐車場業者はすでに土地を確保しており、カーシェアリング事業を展開するにあたって、車両を設置する駐車場確保のため、土地所有者に対して一から交渉する必要等が無く、追加のコストを削減できるのが大きな強みと言える。加えて自動車メーカーによるカーシェア事業への参入も本格化し、競争激化は必至と言える。同業他社との差別化を図るため、社会のトレンドに応じた装備、高齢化社会の本格化に応じた福祉車両への対応など、顧客の多様なニーズをふまえ、ラインアップを整えることが重要となってくるだろう。例えば、カーシェア会員がワンタッチでレンタカーを利用できたり、東京で展開している嗜好性の強い高級車やスポーツカーをシェアできるサービスであったりと、各社次々と新たな顧客の獲得策を打ち出している。用途や目的にあわせてサービスを選択できるという多様性の時代。これまでにないカーシェア関連の新たなサービスは、これからも増えていくだろう。