2018年度、東京圏主要路線の1カ月当たりの遅延日数は平均11.7日だった(撮影:大澤誠)

1分1秒を争う朝のラッシュ時、通勤客を悩ます「電車の遅れ」。国土交通省は2月10日、2018年度の東京圏主要鉄道路線の遅延発生状況について公表した。

国交省は2017年度から、遅延の状況を数値化するなどして公表する「見える化」の取り組みを進めており、鉄道各社が出す「遅延証明書」の発行日数に基づく遅れの状況や、要因の分析などを調査・公表している。

今回のデータによると、2018年度の東京圏主要45路線の1カ月(平日20日)当たり遅延証明書発行日数は平均11.7日。2日に1回以上の頻度で朝ラッシュ時の電車が遅れている計算だ。調査対象の45路線のうち、遅延証明書の発行日数が10日を上回ったのは実に7割近い31路線。2016年度・2017年度は29路線だったため、全体的に悪化した。

ワースト1位は千代田線

路線別に見ると、遅延の日数が最も多かったのは東京メトロ千代田線の19.2日。同線は2017年度の18.4日からさらに悪化してワースト1位になった。平日はほぼ毎日遅れが発生していることになる。

2位は中央快速線と中央・総武線各駅停車の19日、4位は小田急線の18.8日、5位は埼京線・川越線の18.3日だった。

前年度比で最も悪化したのは小田急線。2017年度は14.8日で45路線中13位だったが、2018年度は18.8日と一気に4日増えた。2018年3月に複々線化が完成して混雑率は大幅に低下した同線だが、遅延については逆の結果となった。

小田急は公式サイトで「複々線によって線路の数が増えたことで列車の遅延時間も減少」とPRしており、平均遅延時間は2017年の2分04秒から2018年度は48秒に、2分04秒以上遅延した回数も21回から4回に減ったとしている。今回の国交省の公表と食い違うデータだ。

小田急によると、同社が示しているのは「平日の朝、上り列車の下北沢駅到着時の遅延時間と回数を調査した結果」(同社CSR・広報部)。ほかの区間で発生した遅延は含んでいないという。

小田急線の利用者なら、下北沢駅付近までは順調に走っていた電車が、2つ先の代々木上原駅の手前で先に進まなくなってしまったという経験はよくあるだろう。同駅は複々線区間の終端で、相互直通する東京メトロ千代田線との接続駅。下北沢駅から同駅までの間で電車が詰まりやすいものの、この区間での遅れはカウントしていないのだ。

遅延が増えた理由について小田急は「複々線化完成で直通運転が増え、他社線の影響を受けやすくなったのが1つの要因と考えている」と説明する。複々線化に伴う2018年のダイヤ改正の際、同社は「直通列車が増えることで遅延回復の対応の幅が広がる」との考えを示していたが、残念ながら実際にはそうはなっていないようだ。

同社は1つの対策として、現在は8両編成が多い各駅停車の10両編成化による混雑の緩和を挙げる。今年3月のダイヤ改正では、新宿駅に朝7時55分〜8時35分に到着する各駅停車をすべて10両化する。混雑が緩和されれば乗り降りにかかる時間の短縮が見込めるが、実際にどの程度遅延対策に結びつくかは未知数だ。

悪化は25路線、改善は18路線

今回の公表データを集計すると、前年度より遅延証明書の発行日数が減ったのは45路線中18路線、増えたのが25路線。変わらなかったのは中央・総武線各駅停車(19日)と東武野田線(1.1日)の2路線だった。

最も改善されたのは東急大井町線。2017年度に5.5日だった遅延日数が2018年度は2.0日まで減り、前年度の36位から42位まで下がった。

同線は2018年3月のダイヤ改正で、それまで6両編成と7両編成があった急行列車を7両に統一し、さらに急行の増発を図るなど輸送力を増強。列車ダイヤも混雑の平準化を狙ってパターンを変更した。これらの施策によって、2017年度に166%だった混雑率は155%へと11ポイント低下。混雑の緩和と合わせて遅延の発生日数も減った。

遅延を引き起こしている要因は何だろうか。国交省の調査結果によると、10分未満の遅れの最大の要因は「乗降時間の超過」で48%。ドアを何度も開け閉めする「ドアの再開閉」も6%あり、乗客の乗り降りに関する要因が54%を占める。

混雑率との関連で見ると、遅延日数が10日未満の14路線のうち、混雑率が160%を上回る路線は3路線のみ。一方、ワースト10に入る路線のうち7路線は180%を超えている。混雑率が157%と比較的低い小田急線も、最混雑区間の輸送人員は1時間当たり7万5000人を上回り、45路線中でトップクラスだ。ラッシュ時の激しい混雑や乗降の多さが遅延の要因になっていることがうかがえる。

また、30分以上の遅れについては「自殺」が52.4%を占めるという深刻な事態も明らかになった。遅延の「見える化」は、「人身事故」による電車の遅れが当たり前になってしまっている社会の異常さも浮き彫りにしている。

直通運転の影響は?

遅延が広がる要因としては、相互直通運転の拡大もよく指摘される。今年度以降、遅延日数の増加が懸念されるのが、2019年11月末からJR線と相互直通運転を開始した相鉄線だ。

2018年度の同線の遅延証明書発行日数は月平均4.3日で、45路線中38位。これまでは遅延の少ない路線だったが、直通運転を開始した2019年12月以降、JR線内でのトラブルなどによる遅れが目立つようになっている。

ただ、相互直通運転を行っていても、遅延日数が少ない路線もある。東京メトロ半蔵門線・日比谷線と直通する東武伊勢崎線の遅延日数は4日、都営地下鉄浅草線を通じて京成線などと直通する京急線も5.7日と比較的少ない。一方で、東京メトロ丸ノ内線(15.2日)、銀座線(12.5日)など、他線と直通していなくても遅れが発生しやすい路線があるのも事実だ。

現在は、鉄道各社がスマートフォンのアプリなどで列車の遅延情報などを配信しており、利用客がリアルタイムで分単位の遅れを把握できるようになっている。今回の結果を見て、通勤時の「体感」との違いを感じた人も少なくないのではないだろうか。

遅延対策を本格的に進めていくには、証明書の発行日数による状況把握からさらに一歩踏み込んで、より細かいデータに基づいた遅れの分析が必要だろう。