保育園の倒産件数推移。2019年は過去最多を記録した

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 子どもの安全を守り、子育て世代保護者のライフラインを支える保育園。女性の就労支援と少子化対策として「待機児童問題」の解消が叫ばれ、近年その需要が高まるなか、保育定員は国による整備効果に加えて28万人分の受け皿が追加で必要との試算もある。

 加えて、2019年10月からは幼保無償化もスタート、保育園の利用希望者はさらに増えると見込まれている。拡大する保育需要の獲得を狙って、近年保育ビジネスに参入する企業が相次いでいるのはこのためだ。

 こうした保育ビジネスの盛り上がりの裏で、経営を維持できずに倒産する保育園が近年増加傾向にある。帝国データバンクの調べでは、2019年における保育園の倒産が8件発生。件数こそ少ないものの2018年(7件)を上回り、2年連続で過去最多を更新。保育園業界で異変が見られている。

 折しも、2019年は保育園を巡り様々なトラブルが露呈した年だった。経営難を理由に突如閉鎖する保育園が各地で発生。世田谷区の保育園では、経営陣による突然の倒産通知に対し、保育士が自主的に運営する異例の対応が注目を浴びた。子どもを預ける保護者の立場では、保育行政に対する困惑と不安に視線が向いた1年になった。

 成長過程にある保育ビジネスで相次ぐトラブル。背景には、営利企業として課される「経営の安定」という課題と、「子どもの安全を守る」という福祉的な使命の双方を保つ舵取りの難しさがある。

保育士不足で急速に難しくなった安定運営

 保育園の倒産に多く共通するのは、設立から倒産までに至る業歴が非常に短期間である点だ。2000年以降の保育園の倒産のほとんどが、業歴5年未満の新規参入企業によるもの。また、過去5年に判明した保育園の倒産のうち、5割超が認可外保育園の運営事業者だった。

 早期に事業継続を断念せざるを得ない要因の一つは、保育施設の急増に伴って深刻化した「保育士不足」だ。厚生労働省によれば、2019年時点の保育園等数は3万6345カ所、12年4月から1.5倍と急増した。深刻化する待機児童解消に向け、受け皿となる保育施設の拡充が急ピッチで進められているためだ。

 一方で、中央福祉人材センターによれば、19年11月までの保育士の有効求人倍率は既に3倍を超える水準。12年からは2ポイント超も上昇しており、保育士不足が依然として高水準であることを示している。保育施設というハード面の充実に対して、保育士などソフト面の供給が追いついていない状態だ。
 保育士の不足は、各園での人件費負担上昇にもつながっている。保育士不足が深刻化するのに伴い、保育園間での採用競争も激化。そのため、配置基準を満たすために保育士の給与を引き上げる運営業者も多く、保育士の時給は上昇傾向が続いている。実際にジョブズリサーチセンターが行った調査では、3大都市圏における保育士の平均時給は2019年11月時点で1106円、5年前から5%超も上昇した。

 人件費負担の上昇は、既に保育園全体の安定的な経営を脅かしている。2019年1月に内閣府が実施した調査では、保育園や認可こども園における、収入に占める人件費の割合が上昇している。他方で、認可保育園などでは各自治体によって支払われる運営費が予め定められており、保育園側で保育料などに価格転嫁することはできない。必然的に、限られた運営費のなかでコストの上昇分を負担しなければならず、結果的に収益力の低下を招いてしまう。

 実際に、認可外で一時預かりを専門としていた託児所では、保育士を十分に確保できなかったことで経営破綻した。小規模で託児業務を行っていた保育施設では、助成金がなく資金的に余裕がなかったことで運営が行き詰まり、倒産を余儀なくされている。

「子どもの安全」守るために求められる、保育園の健全運営

 ただ、経営破綻した保育園のなかには、当初想定したほど園児が集まらず、閉園せざるを得ないなど、甘い事業見通しに基づく運営が原因となったケースも多い。なかには、国や自治体の給付金支給条件への違反などずさんな運営が露呈したことで、最終的に運営停止へ追い込まれた保育園も散見される。

 保育事業は子どもの安全を預かる責任の重い仕事であると同時に、保護者の生活を支える大事なライフラインの役目も果たしており、永続的な運営が大前提となる。それだけに、適切な事業計画に基づいた保育ビジネスの発展が今後より必要不可欠になってくると言える。