WF-1000XM3は売り切れるほど魅力が凝縮、ノイキャン実現までの苦労を聞いた
ソニーが7月13日に発売したノイズキャンセリング機能付きの完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM3」は、ノイズキャンセリングの他にも、接続安定性や音声の遅延を改善させる仕組みや、装着性の向上、バッテリー持ちなど、あらゆる面で改善しています。

▲WF-1000XM3

開発時の苦労やこだわりについて、WF-1000XM3の商品企画を担当したソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの大庭寛氏、商品設計を担当した大里祐介氏と大橋篤人氏の計3名にインタビューしました。

高品位なノイズキャンセリング性能と妥協のない音作り

ーーWF-1000XM3のノイズキャンセリング性能はどのような仕組みの上で成り立つのでしょうか?

大里氏:本体の外側にフィードフォワードマイク、内側にフィードバックマイクを搭載しています。フィードフォワードマイクは外側で集音したノイズの逆位相の音でノイズを低減します。フィードバックマイクは、内側に残ったノイズを集音して、その逆位相の音でノイズを低減します。異なる方式を組み合わせることによって様々なノイズに対応することができ、ノイズキャンセルの効果を高めることが可能です。

ーー「高音質ノイズキャンセリングプロセッサー QN1e」を搭載したことで、どのような効果があるのでしょうか?

大里氏:まず、昨年秋に発売されたヘッドバンド型ヘッドホン「WH-1000XM3」に搭載された「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN1」が存在します。QN1eはQN1と共通の技術をベースに完全ワイヤレス型に適した設計をしています。


▲WF-1000XM3の商品設計を担当したソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの大里祐介氏

QN1eでは、高度で負荷のかかる演算処理も行いますが、小さい筐体のWF-1000XM3でも消費電力を抑えられるように設計しました。

また、DAC(Digital to Analog Converter:デジタルデータをアナログの音声信号に変換する装置)とアンプ(Amplifier:増幅回路)を内蔵している点もポイントです。

これはノイズキャンセリング性能だけでなく、音質にも大きく関わる部分で、高いS/N比(Signal-Noise Ratio : 元の音声信号に対するデバイスを通過することによって生じる雑音の比率)を実現することで、例えばクラシックの静かなところはより静かに表現できるなど、楽曲本来の音を忠実に再現することができます。


▲WF-1000XM3の商品企画を担当したソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの大庭寛氏

大庭氏:ノイズキャンセリングをうたう製品は昨今、競合他社も含めて増えつつありますが、ソニー製品の強みは、内部の処理を行うプロセッサーまでも自社で開発している点です。WF-1000XM3は、高い接続性やスタミナ性能はもちろんのこと、優れた静寂性の中で存分に音楽をお楽しみいただける製品です。

ーー音質へのこだわりは他にもありますか?

大橋氏:はい。WF-1000XM3は、DSEE HXという高音質技術を搭載しています。これは、AACやSBCなどの圧縮音源をハイレゾ相当の解像度にアップスケールする技術です。具体的には、圧縮するときに失われる高音域を予測変換で補います。

そして、このハイレゾ相当の音源を活かすために、超高域再生が可能な小型高感度ドライバーを使用しており、ハイレゾ相当の解像度を存分に感じられるような音づくりをしています。

ーー開発時に最も苦労したことはありますか?

大橋氏:完全ワイヤレスヘッドホンの課題として、音の遅延や音切れなどが挙げられます。

前モデルのWF-1000Xでは、Bluetoothに対応するスマートフォンや音楽プレーヤーからの電波を片側に装着したイヤホン本体が受信し、それをもう片側に伝送するリレー方式を採用しています。


▲WF-1000XM3の商品設計を担当したソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの大橋篤人氏

リレー方式には優れた点も沢山あるのですが、頭の反対側に常にデータを送信し続ける方式のため、電波環境の影響を非常に受けやすい特徴を持っています。そのため音途切れしないようにデータを一時的に貯めようとすると、レイテンシの発生、いわゆる動画視聴時の音の遅延が発生するデメリットがあります。

そこで、WF-1000XM3は完全ワイヤレス型向けに開発したBluetoothチップセットを採用。再生機器からのデータを左右同時に伝送する方式に変更したことで、音の遅延や音切れなどの問題を解消しました。


▲WF-1000XM3の内部構造

どんなに音のいい完全ワイヤレスヘッドホンでも聴いてる途中で途切れていては本末転倒ですよね。チップセットの性能だけでなく、電波の出し方・受け方、アンテナの設計、基板の設計、さらにはバッテリーマネージメントや音作りなどのバランスを小さな筐体の中で取る必要があったのが、非常に苦労した点です。

専用アプリのカスタマイズ性も向上し、細かいアップデートも

ーー個人的には低音域が気持ちもう少し欲しかったです。音の味付けは他の製品とは異なりますか?

大里氏:WF-1000XM3では、どんなジャンルの音楽を再生しても低音・中音・高音域それぞれがバランスよく聴こえるようにしています。低域に重きを置いた弊社製品のEXTRA BASS(エクストラベース)シリーズとは、異なります。


▲WF-1000XM3の商品設計を担当したソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの大里祐介氏

また、専用アプリ「Sony | Headphones Connect」で好みの音にカスタムすることがきますので、音の聴こえ方にこだわる方は是非試してみてください。

ーーHeadphones Connect ではどんなことがカスタマイズできますか? もう少し具体的に教えてください。


▲WF-1000XM3の商品企画を担当したソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの大庭寛氏

大庭氏:Headphones Connectには、ノイズキャンセリングや周囲の音の取り込み度合いを自動的に切り替えてくれるアダプティブサウンドコントロールという機能があります。


▲アダプティブサウンドコントロールでは4つのシーンで外音をどの程度取り込むのかを調節できる

スマートフォンに搭載された各種センサーによって「静止している/歩いている/走っている/乗り物に乗っている」といった4つの行動パターンを検出します。

ユーザーの行動パターンに合わせて、あらかじめ各パターンで設定しておいたノイズキャンセリングや外音取り込みの設定に自動で切り替えてくれます。

Headphones Connectのバージョン5.2では、行動検出の精度と速さを向上させていますし、6.0では静止状態に切り替わるまでの時間を設定できるようにするなど、日々改善や進化を進めています。


▲赤く囲った部分が左右それぞれの電池残量

また、初代製品との比較で申し上げますと、WF-1000XM3では、片耳のみでのユースケースが増えることを想定し、左右それぞれの電池残量を確認できるようにしました。

この他にも、ファームウェアアップデートの仕組みを変更したことで、アップデートファイルの転送時に音楽再生が中断してしまう問題を解消しています。

アップデートファイルの転送後は、本体を再起動する必要があるため、音楽再生は中断しますが、音楽視聴を中断しなければならない時間は、飛躍的に短くなりました。

ソニーでは、製品のアップデートとアプリのアップデート、両方を行うことで、ご購入後も使い勝手や付加価値を向上させていきたいと考えています。

ハードとしての使いやすさも重視

ーー操作で欠かせないボタンですが、なぜ物理ボタンからタッチセンサーへと変更されたのでしょうか?

大庭氏:完全ワイヤレス型ヘッドホンは特にですが、筐体の小型化が進むにつれて、物理ボタンも小さくなっていき、ボタンを探したり狙って押したり、よりセンシティブに操作することが必要になってきます。タッチセンサーであれば、筐体が小型であっても、操作部を「面」にできるので、ボタンのような「点」を操作するよりも、より操作しやすいと考えています。

▲WF-1000XM3はタッチ操作が可能

また、WH-1000XM3にも搭載している機能で「クイックアテンション」というものがあります。タッチセンサー部を手のひらで覆うだけで、瞬時に音楽の音量を下げ、同時に周囲の音を取り込み、ヘッドホンを外さずとも周囲の状況を確認できる機能なのですが、これが非常にご好評いただいており、ぜひ完全ワイヤレス型でも実現したいという思いがありました。

クイックアテンションで重要なのは「即時性」ですので、探す手間が発生する物理ボタンよりも、面に触れるだけのタッチセンサーの方が相性が良いわけです。小型化する筐体においても操作性を担保することに加え、こういった便利な機能を実現するために、今回タッチセンサーの採用を決定しました。

充電ケースは片手で開閉できるサイズにし、充電回数を極力減らした

ーー本体色や形へのこだわりはありますか?

大庭氏:シリーズの初代であるMDR-1000Xから、飛行機での移動が多い方をイメージした、シックな黒と落ち着いたベージュ系の2色で展開し、どちらの色も好評を頂いてきました。

▲WF-1000XM3のブラックとプラチナシルバー

更に、WF-1000XM3とWH-1000XM3の世代では、飛行機や出張が多い方はもちろんのこと、より日常で使いやすい形やカラーが大事だと考えました。

カラーリングでは、特にプラチナシルバーと呼んでいるベージュ系の色味をよりニュートラルな方向に微調整しつつ、黒・プラチナシルバーともにノイズキャンセリングの象徴であるマイク部に金属調の装飾を施しています。

▲WF-1000XM3のブラック実機

さらに質感にも拘っており、例えばWF-1000XM3の充電ケースには、グリップ感のあるマットな仕上げを採用することで、機能性と品位を両立させました。

また、充電ケースの角は削ぎ落とし、丸みを帯びた形状に仕上げましたので、男性だけでなく女性でも手に馴染むと思います。

ーーワイヤレス充電には残念ながら非対応です。なぜでしょうか......

大庭氏:はい。Qi規格のワイヤレス充電に対応する他社製品が存在することや、そういったニーズがあることも理解しております。

一方で、日常使用だけでなく、長時間のフライトや出張などで外出する時間が多いようなお客様の使い勝手まで考えると、ワイヤレス充電でこまめに充電するよりも、充電ケーストータルでのバッテリー持続時間を長くした方が、お客様のニーズに答えることができるのではないかと考えました。


▲WF-1000XM3のプラチナシルバーのケース 充電端子はType-Cに対応

バッテリー容量は公表しておりませんが、ノイズキャンセリングがONの状態でも連続再生時間は約6時間としております。これは米国西海岸から東海岸への飛行時間(約6時間)とほぼ同じ時間です。

長時間の移動でも、その高いノイズキャンセリング性能による静寂の中で、音楽を存分に堪能できるようなバッテリー持続時間を目指しました。

加えて、ケースを使うことで約3回分の満充電が可能です。たった10分の充電で90分再生可能なクイック充電にも対応している点もアピールしたい点です。

ーー最後になりますが、本記事を通して読者の皆さんにお伝えしたいことはありますか?

▲WF-1000XM3の商品設計を担当したソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの大里祐介氏(左)と大橋篤人氏(中央)、商品企画を担当した大庭寛氏(右)

大里氏:完全ワイヤレスという便利さをお客様に実感して欲しいのはもちろんのこと、様々なシチュエーションで快適に音楽を聴けるという体験価値そのものの向上を目指した商品です。この小さな筐体に収めるのは苦労しましたが是非、ご体感いただきたいです。

大橋氏:接続安定性やノイズキャンセリング性能、極力シンプルな操作性など、とにかく細かなところまで気をつかって設計し、お客様が"ストレスフリー"に使える製品を目指しました。音楽体験を楽しんでいただければ、と思います。

大庭氏:ノイズキャンセリングの性能が飛躍的に向上していますので、いかに騒がしい環境下でも快適に視聴できるのかを、是非、取扱店やソニーストアでご体感いただき、ただ音楽を聴くだけでなく生活を豊かにするツールとして使っていただけるとありがたいです。