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最新のファストバック・グランドツアラー

text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

クルマの高性能化が進む中で、スーパーカー並みに速い4輪駆動モデルのエグゼクティブ・モデルは、以前よりも一般化してきた現実がある。そんな中でアウディはかつての存在感を取り戻そうと、新たなクルマを投入した。

新世代のV8エンジンを搭載した、大型で豪華なRSモデルたちを街なかで目にする日も近い。新しいパワートレインとサスペンション技術を備える、このRS7スポーツバックもその中の1台だ。

アウディRS7スポーツバック

相当にアグレッシブなスタイリングに、マイルド・ハイブリッドシステムを搭載。価格も強気なものだが、従来のアウディ通り、アウトバーンを圧倒的スピードで疾走するという特性を備えていることは変わらない。

騒がしくもなく、生々しさもないが、極めて速い。ある程度はドライバーの自由も許されるが、圧倒的な洗練度との引き換えにエキサイティングさは控えめ。従来の4ドア・スーパーサルーンとは一味違うクルマを欲するドライバーのための、最新のファストバック・グランドツアラー。抜群の走行性能や高い安定性、ある程度の紳士感は、しっかり備えている。

第2世代となったRS7スポーツバックには、600psを叩き出すツインターボのV8ガソリンエンジンに、8速AT、トルセンデフによるパーマネント式4輪駆動システムが搭載される。文字の上では先代と大きな違いはない。英国仕様車には、トルクベクタリング機能付きのロッキング・リアデフも標準装備となる。

A7とは一線を画すエクステリアデザイン

エンジンはアウディ・スポーツによる手が加えられ、40psのパワーと電圧48Vによるマイルドハイブリッドシステムを追加。経済性を向上させる気筒休止システムも備わるが、それは先代通り。状況が許せば、7.0〜10.0km/Lくらいの燃費で走行も可能となる。

サスペンションは標準が車高調整機能付きのエアサスペンションとなり、スチールコイルにアダプティブダンパーの組み合わせがオプション。4輪操舵システムが目立った新開発技術で、アクティブレシオのステアリング・システムがフロントに装備される。

アウディRS7スポーツバック

アウディ・ブランドの高性能部門、アウディ・スポーツの仕事には抜かりない。アウディの市場調査によれば、RS7のオーナーは通常のA7との視覚的な違いを重要視しているということで、アピアランスはかなり刺激的になった。

トレッドが広げられたことで、前後のフェンダーパネルは専用品となり、特にアグレッシブさを増したフロントバンパーとグリルが特徴的。随所に金属質なスタイリングが与えられている。

インテリアはA7と大きな違いはないが、非常に充実した装備と、ハイテク感とラグジュアリーさが漂う質感に、文句を並べるオーナーはいないだろう。シートは長距離移動の快適さでも、スポーツ走行のサポート性でも良好。インストゥルメントにはRS専用モードもあり斬新なものだが、通常のバーチャル・コクピットの表示の方が筆者としてはしっくり来る。

個別設定可能なドライビングモードを追加

新しく追加された2種類のドライビングモードは、RS7の走りを特別なものにしてくれる。BMW Mモデルの機能に影響を受けたのか、アウディ・スポーツも個別にサスペンションやステアリングの設定登録が可能なモードを用意されたのだ。

オート、ダイナミック、コンフォート、エフィシェンシーの通常のプリセットの他に、「RS1」と「RS2」として登録が可能。ステアリングホイールに配されたスイッチで簡単に呼び出すことができる。

アウディRS7スポーツバック

複雑さは増すが、ステアリングやトランスミッション、サスペンション、エンジンなどを個別に設定し、組み合わせることが可能。色々触っていると偶然に自分のベストの設定も見つけられるだろうから、1度登録すれば次回からはすぐに設定を決められる。

標準のオートかコンフォートモードでは、エンジンは控えめなひと吠えとともに目覚める。フルスロットルを与えない限り、全域に渡って静かで滑らかにエネルギーを発生してくれる。

ダイナミックモードを選ぶと、少し音量が大きくなり魅力的になるものの、ライバルモデルと比較するとまだ穏やかな方。突出した走行パフォーマンスも発揮できるが、並み居るライバルの中で際立った存在というわけではない。間違いなく、信じられないほどに速いけれど。

アウディらしい点としては、その先がどんな路面であっても、最小限の労力で走破できるところだろう。パワーデリバリーの暴力性自体は控えめで、ハンドリングの安全性と正確性の高さを反映している。だが機敏さも高く、タイトなコーナーでも大柄なクルマの割に扱いやすい。

季節や天候を問わずドライビングを楽しむ

レスポンスで優れた最上位モデルには届かなくても、常にコーナリング時の挙動はコントロールできる範囲に保たれる。ボディコントロールも引き締まったものだが、突っ張るようなフィーリングはない。コイルサスペンションを組み合わせたとしても、充分にしなやかで落ち着いた乗り心地を得ている点も美点。

RS7スポーツバックは、極めて高速での走行を簡単に体験させてくれる。日常的なドライブを、驚くほど機敏なものに変えてくれる。特別な道をスリルを味わいながら駆け抜けるタイプのグランドツアラーではないが、季節や天候を問わず一緒に過ごし、より長い時間楽しさを味わわせてくれるクルマだ。

アウディRS7スポーツバック

従来どおり極めて高速なアウディでありながら洗練性は一層高められ、ある種の控えめさと独自性を兼ね備えた説得力は充分に高い。アウディRS6アバントという突出した個性派もあるものの、それほど広いラゲッジスペースを必要とせず、クーペのようなエキゾチックなスタイリングが好きならば、RS7スポーツバックは格好の選択肢となる。

BMWのMモデルやメルセデスAMGと比べても、アピアランスの存在感や所有する満足感は引けを取らない。むしろ全天候型のグランドツアラーとして、ドライバーに対してのアピール力で及ばなくても、多くのオーナーにとっては十二分に納得できる仕上がりだといえるだろう。

アウディRS7スポーツバックのスペック

価格:9万5000ポンド(1263万円・予想)
全長:5012mm
全幅:1911mm
全高:1419mm
最高速度:280km/h
0-100km/h加速:3.6秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:2065kg
パワートレイン:V型8気筒3993ccツインターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:600ps/6000−6250rpm
最大トルク:81.4kg-m/2050−4500rpm
ギアボックス:8速オートマティック