日本の都会の夜は混沌とした“トリップ体験”だった:フランスの写真家が収めた14のシーン
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ジャン=ヴァンサン・シモネが撮影した日本の写真は、普通の観光客が撮影するような日本の風景とは違う。そこには満開の桜もなければ、霧に包まれた神社も、雪を冠した山の頂もない。その代わりに、めまいがしそうなネオンの光や地下のバー、そして雨に濡れた歩道といった光景が描かれている。
シモネの新しい作品集『In Bloom』には、2015年に休暇を過ごした東京の印象が投影されている。実際の場所を描写しているというよりも、そこを取り巻く独特の空気感が描き出されているのだ。オーラと呼んでもいいかもしれない。
「巨大な生命体に飲み込まれてしまったような感覚でした」と、東京で過ごした初めての体験についてシモネは振り返る。「ストリートではあらゆることが起きるので、まるで怪物の腹の中にいるような感じだったのです」
日本を訪れた多くの人が同じように感じることだろう。だが、その感覚を写真に残すことに力を注ごうとはしないはずだ。東京と大阪を2年続けて訪ねたシモネが撮影に利用したのは、旅行客がよく使うようなスマートフォンのカメラではない。京セラの「CONTAX T2」や、マミヤの「Mamiya 7」「Mamiya RZ67」といったフィルムカメラを使っている。
絵はがきでは見られない日本の“表情”
撮影するのは昼間ではなく夜だ。ほとんどの観光客がAirbnbで見つけた宿で眠りについたあと、シモネは地元の人たちと楽しいひとときを過ごした。地方のカラオケボックスやゲームセンター、いかがわしい雰囲気が漂う野外レイヴ会場──。こうした場所に足を運んだあとは1杯の熱いラーメンをすすり、昔ながらの温泉にちょっと浸かる。こうして体力をとり戻すのだ。
もちろん、有名な場所のショットも何枚か撮った。新宿駅や東京タワーでカメラのシャッターを切らない旅行者などいないだろう。だが、シモネが撮影後に施す複雑な加工処理によって、こうしたシーンは単にInstagramのフィルターを使った程度では決してまねできないような写真に生まれ変わるのだ。
シモネはスキャンしたネガを、プラスティック製の薄いシートをセットしたインクジェット式プロッターでプリントする。すると、インクがあちこちでダマになったり好きなふうに流れたりするので、ベタベタになってしまう。シモネはこのシートを化学物質が含まれた液に浸して、余分なインクを洗い落とす。乾かせば完成版のイメージが浮かび上がる。
こうした写真は、ひと味違った日本の“表情”を捉えている。それは、どんな絵はがきでもうかがい知ることができない光景だろう。