喫煙に対する風当たりが強い昨今だが、今年、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』での喫煙シーンが多すぎると抗議した法人に対し、NHKが「(主人公の)キャラクターを表現する上で欠かせない要素」と回答したことが話題になった。

昭和では珍しくなかった喫煙。大人たちはどこでも当たり前のようにたばこを吸い、また“不良”の象徴としてもしばしば表現されてきた。

今回、伝説の不良高校生漫画『BE-BOP-HIGHSCHOOL(ビー・バップ・ハイスクール)』作者のきうちかずひろ(木内一裕)氏に、今のたばこにまつわる表現の規制をどう思うか、話をきいた。

──いま、高校生がたばこを吸うシーンを描いたら、物議を醸しそうです……。

きうち:現代は受動喫煙による健康問題などが叫ばれて、規制も進んでいますからね。ただ、当時の世相や情景を描こうと思ったら、喫煙シーンは必須。それがなかったら、あの頃の文化も忠実に再現できないでしょう。

──『風立ちぬ』や『いだてん』でも喫煙シーンが描かれました。抗議もありましたが、それに対しては「過剰反応」という反発の声が沢山あがっていました。

きうち:喫煙シーンを不快だと思う人がいても仕方ないし、それに抗議するのもその人の自由な権利だと思います。でも、抗議を受けたからといって、それにすべて従わなければいけないとは思いません。

『いだてん』で描かれた1960年代の東京は、まだ道路の舗装が行き届いておらず、砂埃が舞っている場所もあったでしょう。そんな中でたばこを吸う人たちがたくさんいた……。それもある種、時代の猥雑さやエネルギーの重要なファクターだったと思います。時代の雰囲気を出そうとしている表現に対して、いまオンエアするからといって、クリーンに描き直したら、それは“虚構”になってしまいます。

──きうちさんの過去作品でも、たばこを吸う登場人物は珍しくありません。不良高校生だけでなく、警察やヤクザ、探偵などなど……。

きうち:先日、『BE-BOP-HIGHSCHOOL』とほぼ同じ80年代にシリーズが始まって、大ヒットした映画『ダイ・ハード』を久々に見たら、主人公のブルース・ウィリスがのっけからたばこを吸いまくっていました。ヒーローを描くとき、または少しルールから外れたようなナイスガイを描こうというときに、たばこの煙をくゆらす姿が魅力的に見える時代があったことは確かです。

──そうですね。他にも、セリフがなくとも、たばこがあることでキャラクターの置かれた状況や心情を読み取ることができる、といった演出もありそうです。

きうち:例えばテレビドラマで新聞社が出てくるとします。灰皿に吸い殻が山盛りになっている状態を映すことで、記者が家に帰れず、風呂にも入っていないという忙しい雰囲気を表現することができました。デスクに灯っているライトに濃密な紫煙を漂わせると、ものすごく働いている感じも表現できる。警察という設定でも、取り調べ中の吸い殻が増えていくことで、捜査が難航している様子が見てとれました。

記者が必死になってネタになりそうな情報を集めたり、警察だったら真犯人にたどりつこうといった、ある種の泥臭さや汗臭さみたいな雰囲気とたばこが、“絵”としてマッチしていたんです。今なら、むしろたばこを吸うことに肩身の狭い思いをしているといった状況を描くことで、時代の空気を出すことにはつながりますね。

ただ、実際に煙が流れ出てくるわけではないテレビドラマや映画の喫煙シーンにまで批判が集まるような風潮は、少しギスギスしすぎじゃないかなと思いますし、制作者サイドの僕としても、もう少し寛容な世の中であってほしいと思います。

●きうち・かずひろ/漫画家、映画監督、小説家(木内一裕名義)。1983年連載スタートの漫画家デビュー作『BE-BOP-HIGHSCHOOL』が大ヒット。以降『JOKER』(1996年)、『鉄と鉛』(1997年)、『共犯者』(1999年)などの作品で映画監督も務める。2004年には初となる書き下ろし小説「藁の楯」を発表。2009年に書かれた小説「アウト&アウト」は2018年11月に映画化され、監督も務めた。

(撮影:内海裕之)

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