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散歩中の飼い犬を女性が蹴りあげる――。そんな衝撃的なところが撮影された映像が、ツイッターに投稿されて、ネット炎上に発展した。この女性は、テレビ局の取材に対して「しつけだった」と話しているという。

映像は、2月8日に投稿された。白い犬に首輪をつけて、散歩している女性が映っている。女性は突然、犬の横腹あたりを蹴り上げる。犬はその場に倒れ込んで、飼い主を見上げる。そのあと歩きはじめるが、女性は再び犬を蹴りあげる。

現場は、京都市の住宅街で、映像がツイッターに流れて炎上。警察が出動する事態になったという。犬はすでに動物保護団体に保護されているそうだ。女性はFNNなどの取材に対して「しつけだった」と反論したという。

はたして、動物虐待にあたらないのだろうか。鈴木智洋弁護士に聞いた。

●動物虐待にあたる可能性

――動物虐待にあたらないのでしょうか?

動物愛護法では、「愛護動物」をみだりに殺したり、傷つけることが禁止されています。これに違反した場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金となります。犬も「愛護動物」に含まれています。

この法律の「みだりに」という言葉は、「特段、理由や必要性もなく」といった程度の意味だと考えてもらえれば大丈夫です。

今回のケースは、SNSにアップされた動画を見るかぎり、特段、理由も必要性もないのに散歩中の犬を突然複数回にわたって相当の力で蹴っているように見えます。みだりに傷つけたとして、動物愛護法違反と考えてよいのではないでしょうか。

――飼い主が処罰される可能性はあるのでしょうか?

今回のケースは、SNSにアップされた動画を見るかぎり、特段、理由も必要性もないのに相当強い力で複数回にわたって蹴っているように見えますので、その行為の態様は悪いものだとは思います。

しかし、過去に実際起訴されて有罪判決が下されたというケースは、対象となった動物が多数にのぼっていたり、死亡しているようなケースが多く、仮に死亡してなくても相当に重い傷害を負ったようなケースであることが多いです。

今回のケースは、犬がどのようなケガを負ったのか、といった結果についてはわかりませんが、対象の犬が1匹であること、死亡していないこと、蹴った人の飼い犬であること、といった事情からすると、過去の事例との均衡も考慮し、起訴されて有罪判決が下される、というところまですすむ可能性は低いように思います。

●「物」はものでも「命あるもの」

――なぜ、「処罰が軽い」のだろうか?

動物、特に、自分の飼っている動物に対して傷害を負わせたというだけで刑事事件となるというケースは、過去にくらべれば増えてきたものの、今のところ、そこまで多くない状態で留まっていると思います。そのような状態について、処罰が軽いと感じる人もいるかもしれません。このような現状となっているのには、さまざまな理由があると思います。

たとえば、人間が人間を傷つけたら、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)が成立することになりますが、その場合であっても、当事者の関係性、行為やケガの態様などにもよりますが、被害者と示談が成立したような場合には起訴されることなく終わることも多いのです。そのように、人間にケガをさせたようなケースでも起訴されない場合もあることとの均衡も考えられているでしょう。

また、動物が法律的に「物」とされていることや、動物愛護や動物虐待防止という考え方がまだ国民全体に浸透していない、ということも理由として挙げられるかもしれません。

ただし、刑事事件の取扱いの現状がどうであれ、また、動物が法律的には「物」とされているのだとしても、命あるもの、生きているものであることは間違いありません。正当な理由なく、動物を殺したり、傷つけることが許されるものではない、ということは間違いなくいえるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
鈴木 智洋(すずき・ともひろ)弁護士
専門は労働法(使用者側限定)、行政法(行政側限定)、動物法・ペット法。動物法・ペッ
ト法に関しては、ペット法学会に所属する他、国立大学法人岐阜大学応用生物科学部獣医学課程の客員准教授も務めている。
事務所名:後藤・鈴木法律事務所
事務所URL:http://www.gs-legal.jp/index.html