紫外線対策と最新治療 市橋正光先生(神戸大学名誉教授 アーツ銀座クリニック院長)
紫外線による光老化も含め、肌にまつわるトラブルとその対処法を長年研究してきたアーツ銀座クリニック院長の市橋正光先生に、基本の紫外線対策や、今、知っておきたいスキンケアと最新研究について塩谷先生が話を聞きました。
塩谷 シミやシワなど光老化の主な原因は紫外線ですが、完全に防いだ方がいいのでしょうか。それとも、体内でビタミンDを合成するために、ある程度は浴びたほうがいいのでしょうか。
市橋 完全に防ぐのは難しいですし、健康な方がごく少量浴びる程度なら問題ないと思っています。
何に対しても少量のストレスは体に良いとされていて、紫外線にも同じことが言えます。ビタミンDの合成だけでなく、皮膚にもともと備わっている自然免疫機能が正常に働くためにも、少しは紫外線を浴びた方がいいのです。
冬でも紫外線対策を
塩谷 具体的にはどのくらいですか。
市橋 紫外線防止策をしていないなら冬は5分以内、夏は3分以内。わずかな時間ですが、ビタミンDの合成には十分です。手のひらや腕を日に当てるだけでもいいんですよ。
日焼け止めは季節に応じて使い分けるのがおすすめです。乾燥する秋から冬の時期は、セラミド入りのような保湿効果のある日焼け止めがいいですね。
地表に届く紫外線にはUV-AとUV-Bがあり、それぞれ肌に悪影響を及ぼします。冬は、UV-Bの量が夏の5分の1程度になるので、SPF20で十分だと思います。一方、UV-Aは夏の半分程度。窓ガラスを通して入ってくるので、室内にいても油断はできません。ですから、PA+++(スリープラス)〜PA++++(フォープラス)のものを使ったほうがいいでしょう。
塩谷 光老化の対策には食事など、体の内側から行うケアも必要ですね。最近は、腸内細菌の研究が進んでいますが、肌との関係はどのくらいわかったのでしょうか。
市橋 腸と皮膚も何かしら関係があると考えられてはいますが、はっきりとしたことはまだわかっていません。
最近以前、明治さんと共同で行った研究で、ミルクセラミドやコラーゲンが入っているヨーグルトを飲むと、紫外線によって損傷した皮膚のDNAの修復機能が高まったという結果が出ました。作用機序はまだ十分には解明されていないのですが、さらなる研究の余地があり、個人的には、腸内細菌も何かしら関係しているのではないかと考えています。
再生医療の発想でシワを改善
塩谷 光老化の専門家として、最近注目されていることを教えてください。
市橋 シワ治療が進化していると感じます。注入治療で使うヒアルロン酸の製剤は改良が進み、安全に使えるようになりました。今後は、やはり再生医療でしょう。PRP(※1)や、まだまだ改良の余地があると思いますが、bFGF(ベーシック・エフ・ジー・エフ※2)などを積極的に治療に取り入れる時代に入ってきたと思います。
塩谷 新しい治療法にはトラブルもつきものですが、どうお考えですか。
市橋 冷静に原因を突き止めて、トラブルが起きにくい使い方を研究し、周知する必要があると思っています。
塩谷 他にはありますか。
市橋 円形脱毛症やアトピー性皮膚炎をはじめとする自己免疫疾患にも興味があります。特に今は有効な治療法がない慢性光線性皮膚炎(CAD/日光に当たった箇所が赤くなり、かゆみを伴う。発症のメカニズムはまだわかっていない)患者さんに牛の初乳に含まれるマクロファージをカプセルで飲んでいただいたところ、数週間で著しい効果がありました。そのほか、数例の難治性アトピー性皮膚炎でも皮疹の改善があり、牛初乳マクロファージが炎症性疾患の治療に役立つのではないかと考え、研究しています。
塩谷 免疫の分野はこれからの発展が期待されますね。今日はありがとうございました。
【用語解説】
※1 PRP(Platelet Rich Plasma)
多血小板血漿。患者自身の血液から採取した血小板を濃縮したものを注入する。血小板には「成長因子」という、細胞を活性化・増殖・成長させる成分が含まれている。美容医療ではシワやたるみ治療などに使われる。
※2 bFGF(basic Fibroblast Growth Factor)
体内で作られるタンパク質の一種で、線維芽細胞増殖因子とも呼ばれる。美容医療ではシワやくぼみの治療に使われる。
プロフィール
市橋正光(いちはし・まさみつ)
医師・専門家が監修「Aging Style」