【現地発】「花の都」を「炎の都」に。ネイマールはPSGの何を変えたのか?
忘れもしない2017年8月5日の土曜日。アミアンを迎えた試合でPSG(パリ・サンジェルマン)の一員として初めてパルク・デ・プランスの芝を踏んだとき、ネイマールはスタンドを熱狂でひっくり返してしまった。バルセロナからやってきた2億2200万ユーロ(約289億円)の男は、“単に”プレゼンテーションで観衆の前に現われただけなのに、である。
このときすでにネイマールはポジティブな波長を発散していた。何か新しい、これまでになかった異例の波長だった。PSGが自分の星を手に掴んでいる空気が確かにたちのぼり、パルク・デ・プランスはまるでマラカナン(リオデジャネイロの巨大スタジアム)の様相を醸し出していた。
このたった1回の週末で、「NEYMAR JR」、「10」と刻まれたユニホームは、文字通り飛ぶように売れた。パリのオフィシャルストアでは1万2000枚以上がレジに持ち込まれ、首都中のショップはどこも在庫切れを起こしてしまったほどだ。
“ネイマール狂騒曲”はそのままピッチ上にも引き継がれた。プレゼンテーションから1週間後、新天地デビュー戦となったブルターニュ地方ギャンガンを舞台にした試合では、PSGが3-0と圧勝。炎と化したブラジルの至宝はいきなり3ゴール全てに絡んで見せた。
試合後、ネイマールのドリブルに手も足も出なかったギャンガンのリュカ・ドゥオーは、ユーモアまじりにこう言った。
「リーグ・アンの他のチームには、せいぜい頑張れ、と言うしかない」
まさにその「他のチーム」はどうなっただろう。そう、彼らもパリの新名手の信じがたい技の数々に、同じように苦しみ抜くことになった。
なかでも8月20日のトゥールーズ戦は圧巻だった。ネイマールは3人の敵DFにがっちり挟み込まれたにもかかわらず、ペナルティーエリア手前で圧力に耐えながらボールを足の間にキープし、締め付けるようなマークを根こそぎ外すと、必死に駆けつけた4人目の相手までヒールで抜き去って、次いで身体を回転させながら左足でシュート。チーム6点目となるゴールを叩き入れた。圧巻のゴールだった。
もちろん、スターが燦々と光り輝けば、ときにチームメイトを陰に追いやることもある。PKを巡るエピソードはその一つ。9月17日のリヨン戦でネイマールがPKを蹴りたがったものの、エディンソン・カバーニが断った一件は、下手すればネイマールのイメージを傷付ける可能性もあった。
ところが、全くそうはならなかった。2人の間で決着をつけたのだ。「PKは交代で順番に蹴る」という申し合わせだった。冷静でプロフェッショナルな解決策だ。
以来、PSGは全てを破壊し続けている。リーグ・アンでもチャンピオンズ・リーグでも、まるで大嵐が通過した後のように、PSGが通過した後には甚大な被害が横たわっているのを誰もが呆然と眺めるしかなかった。
その立役者はやはりネイマールだろう。公式戦13試合で11ゴール・9アシストと文句なしの成績だ。数字に現れていない部分の貢献も見逃せない。カバーニと同じく新加入のキリアン・エムバペも結果を残せているのは、敵のマークがネイマールに集中し、彼らがスペースを得ているからに他ならない。PSGの戦術は昨シーズンから大きく変わっていないが、とりわけ攻撃力は炎のような勢いだ。
また世界中のメディアも燃え上がっている。PSGの試合があるたびに、ネイマール見たさにマスコミからの取材申請が殺到しているのだ。あらゆる国からジャーナリストたちが駆けつけ、ブラジルはもちろん、以前はリーグ・アンにまるで興味がなかったスペインからまで詰めかけるようになった。イングランドからも、東欧からも、アジアや米国からも記者たちがやってくる。
そして火の玉のようなネイマールのプレーを前に、いまや誰も移籍金レコードのことなど話題にしなくなった。それよりも、「これほどのアタッカーを手にしたPSGは、本当にビッグイヤーを獲ってしまうのではないか……」としきりに自問しているのである。
チームをワンランク上のレベルに引き上げ、サポーターとメディアを魅了し、「花の都」を瞬く間に「炎の都」に変えたネイマール。つくづく大した男である。
文:ダミアン・ドゥゴール(レキップ紙)
翻訳:結城麻里
このときすでにネイマールはポジティブな波長を発散していた。何か新しい、これまでになかった異例の波長だった。PSGが自分の星を手に掴んでいる空気が確かにたちのぼり、パルク・デ・プランスはまるでマラカナン(リオデジャネイロの巨大スタジアム)の様相を醸し出していた。
このたった1回の週末で、「NEYMAR JR」、「10」と刻まれたユニホームは、文字通り飛ぶように売れた。パリのオフィシャルストアでは1万2000枚以上がレジに持ち込まれ、首都中のショップはどこも在庫切れを起こしてしまったほどだ。
“ネイマール狂騒曲”はそのままピッチ上にも引き継がれた。プレゼンテーションから1週間後、新天地デビュー戦となったブルターニュ地方ギャンガンを舞台にした試合では、PSGが3-0と圧勝。炎と化したブラジルの至宝はいきなり3ゴール全てに絡んで見せた。
試合後、ネイマールのドリブルに手も足も出なかったギャンガンのリュカ・ドゥオーは、ユーモアまじりにこう言った。
「リーグ・アンの他のチームには、せいぜい頑張れ、と言うしかない」
まさにその「他のチーム」はどうなっただろう。そう、彼らもパリの新名手の信じがたい技の数々に、同じように苦しみ抜くことになった。
なかでも8月20日のトゥールーズ戦は圧巻だった。ネイマールは3人の敵DFにがっちり挟み込まれたにもかかわらず、ペナルティーエリア手前で圧力に耐えながらボールを足の間にキープし、締め付けるようなマークを根こそぎ外すと、必死に駆けつけた4人目の相手までヒールで抜き去って、次いで身体を回転させながら左足でシュート。チーム6点目となるゴールを叩き入れた。圧巻のゴールだった。
もちろん、スターが燦々と光り輝けば、ときにチームメイトを陰に追いやることもある。PKを巡るエピソードはその一つ。9月17日のリヨン戦でネイマールがPKを蹴りたがったものの、エディンソン・カバーニが断った一件は、下手すればネイマールのイメージを傷付ける可能性もあった。
ところが、全くそうはならなかった。2人の間で決着をつけたのだ。「PKは交代で順番に蹴る」という申し合わせだった。冷静でプロフェッショナルな解決策だ。
以来、PSGは全てを破壊し続けている。リーグ・アンでもチャンピオンズ・リーグでも、まるで大嵐が通過した後のように、PSGが通過した後には甚大な被害が横たわっているのを誰もが呆然と眺めるしかなかった。
その立役者はやはりネイマールだろう。公式戦13試合で11ゴール・9アシストと文句なしの成績だ。数字に現れていない部分の貢献も見逃せない。カバーニと同じく新加入のキリアン・エムバペも結果を残せているのは、敵のマークがネイマールに集中し、彼らがスペースを得ているからに他ならない。PSGの戦術は昨シーズンから大きく変わっていないが、とりわけ攻撃力は炎のような勢いだ。
また世界中のメディアも燃え上がっている。PSGの試合があるたびに、ネイマール見たさにマスコミからの取材申請が殺到しているのだ。あらゆる国からジャーナリストたちが駆けつけ、ブラジルはもちろん、以前はリーグ・アンにまるで興味がなかったスペインからまで詰めかけるようになった。イングランドからも、東欧からも、アジアや米国からも記者たちがやってくる。
そして火の玉のようなネイマールのプレーを前に、いまや誰も移籍金レコードのことなど話題にしなくなった。それよりも、「これほどのアタッカーを手にしたPSGは、本当にビッグイヤーを獲ってしまうのではないか……」としきりに自問しているのである。
チームをワンランク上のレベルに引き上げ、サポーターとメディアを魅了し、「花の都」を瞬く間に「炎の都」に変えたネイマール。つくづく大した男である。
文:ダミアン・ドゥゴール(レキップ紙)
翻訳:結城麻里