水爆実験成功を祝う金正恩朝鮮労働党委員長(写真左から2人目)。(朝鮮通信=時事=写真)

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■困窮しても北朝鮮の核開発は止まらない

9月3日、北朝鮮が6回目となる核実験を実施した。これを受けて12日、国連安全保障理事会は、北朝鮮への制裁決議を全会一致で採択。アメリカが望んだ原油輸出の全面禁止や最高指導者・金正恩の資産凍結などは採用されなかったが、原油輸出には制限が設けられ、繊維製品輸入が禁止になった。

最近、北朝鮮の核兵器やミサイル開発が駆け足になっているのは、2008年、財政が黒字に転換してから開発が加速したように、経済発展が背景にある。

そう考えると北朝鮮にとって経済制裁は痛手になりそうなものだが、外務省は「全面的に排撃する」と反発。強気の姿勢を崩していない。

そもそも経済制裁の目的は、核兵器・ミサイル開発をやめさせるか、支障をもたらすことにある。しかし北朝鮮にとって政治的に高い価値があるのなら、経済的にどれだけ損害を受けても、開発を続けるだろう。

1990年代前半、北朝鮮は3年間で財政規模が半分になり、極度に困窮した時代があった。しかしそのような危機的状況でも、ミサイルを開発していたのである。今回の制裁によって経済的なダメージはある程度あるだろう。ただし当時から推測するに、開発をやめさせるほどの影響力があるとは思えない。

制裁決議の効力にも疑問が残る。国連の決定の中で安保理決議だけは守る義務があるが、罰則はないため、決議に従わない国のほうが多い。また東南アジアや中東、アフリカ諸国など、北朝鮮と有効な関係を築く国は多く、国交を持つ国連加盟国は161カ国もある。

昨年末の時点で、北朝鮮に対する制裁措置の実施状況を報告したのは、国連加盟国の約半数だけだった。北朝鮮は決して世界で孤立しているわけではない。たとえ今回の制裁決議でアメリカの草案が通って、激しく強い圧力がかかっていたとしても、北朝鮮が弱気になる理由は見当たらないといえる。

■瀬戸際外交だと誤解したアメリカ

北朝鮮はなぜ核兵器開発に邁進するのだろうか。答えはきわめて明快である。核兵器を持っていれば、敵国と見なしているアメリカが報復を恐れて攻撃しない、と考えているからだ。実際、アメリカがイラクを攻めて北朝鮮を攻めないのは、核を保有しているかどうかの違いもあるだろう。

核兵器は1発持つのも100発持つのも、抑止力としては大きな差がない兵器である。核兵器によって地球を1回滅ぼせる国と、100回滅ぼせる国のどちらが脅威かといえば、両方怖い。そういう意味では、少ない数で抑止力を保持できるわけで、北朝鮮は抑止戦略としては合理的なことをしている。

アメリカへの抑止力が目的というのは、金正日時代からずっと発してきたメッセージでもある。03年1月、NPT(核兵器不拡散条約)を脱退。4月に核兵器開発を始めたとき、すでにアメリカに対する抑止力だと発表していた。

しかし、アメリカは北朝鮮の主張を全然聞いていなかった。なぜ核兵器開発をするのかといえば、危機を演出することで交渉相手から譲歩を引き出す「瀬戸際外交」の一環で、物資や支援を求めていると解釈していたのだ。だから無視すれば開発をやめるだろうと考え、オバマ前政権は対話に応じない「戦略的忍耐」の政策を選んだ。そしてアメリカが無視を決め込む間、北朝鮮は核開発を着々と進めていった。この齟齬が、現在にまで至っている。

それから大統領が変わったが、ツイッターを見るかぎり、トランプは抑止力を理解していないように思える。7月に北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを発射したときも、「きわめて無謀かつ危険な行為」という声明を発表した。そう応じられると、北朝鮮はますます抑止力を見せないといけなくなる。

逆に「これはアメリカに対する脅威だ」という反応であれば、北朝鮮は「わが国の抑止力を認識した」ととらえ、それ以上の積極的な行動に出る必要性が低くなる。なぜなら、アメリカに「北朝鮮には自国の本土を攻撃する能力がある」と認識させることが目標だからだ。

そのトランプも、北朝鮮のグアム攻撃予告に対し、何かしたら報復措置を取ると警告を発した。こうして「やられたらやり返すぞ」と脅すことが、今度は北朝鮮に対して抑止力になっていく。米ソの冷戦が長引いたように、この膠着状態はしばらく続くだろう。

「対話すれば、解決するのではないか」という日本の世論も聞こえてくる。しかしそれは北朝鮮の言い分を聞いていない者の意見である。北朝鮮は日本と韓国とは「核の問題で対話しない」とはっきり宣言している。核兵器を持っていない日本や韓国と核問題で対話する意味はないからである。

公式に攻撃の対象と見なしている日韓米を見ると、対話の機会がどんどん失われていっている。韓国は13年の朴槿恵政権誕生以降、対話はないし、交渉しない「戦略的忍耐」を選んだアメリカは、12年が最後だ。両国とも接触はあっても、政府レベルではない。一方、3国の中で一番対話のコネクションを持っていたのが日本である。しかし内容は拉致問題だけで、核問題は交渉できていなかった。そして16年の核実験を機に、没交渉になった。

こうした近年の動向を理解していれば、対話はできないと考えるのが普通だろう。そもそもアメリカに対して北朝鮮が「やっぱり対話しましょう」と融和の姿勢を示したら、抑止力がなくなるのである。お互い、片手に銃を握ってにらみあう状態で、もう片方の手を使って握手するのは至難の業なのだ。

■核抑止力保有の議論が早急に必要だ

この状況で日本は何をすればいいのか。やれることがあるとするなら、ミサイル防衛システム、日本海の沿岸警備など、防衛政策をしっかり築くこと。そして、日本が北朝鮮に対して核抑止力をどのように持つべきか、どう構築するかを議論しないといけない。

今のところ、核兵器に対抗できるのは核兵器だけというのが現実である。相手が銃を持っているのに刀で立ち向かうのがカッコいいと思うのは、戦争の恐ろしさを知らないだけである。戦争の怖さを理解するほど、戦争を防ぐために核兵器を持とうとする。その点、北朝鮮は戦争の怖さをよく知っている。

といっても、あまり選択肢はない。今、日本はアメリカ本土の核の傘の下にあるが、もし北朝鮮がアメリカに対して核抑止力を持てば、アメリカの核の傘が無意味になる可能性がある。日本が北朝鮮の核攻撃を受けても、報復攻撃を恐れてアメリカは北朝鮮を攻撃できないと判断するかもしれない。

しかし、独自の核武装は日米関係やその他の外交関係が崩壊する可能性があるので、不可能だろう。一方で、ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)という方法もある。アメリカの核兵器を日本に持ち込ませ、ある程度運営の権限を日本に持たせてもらうのである。

■「核を落とされるか。それとも核を持つか」

ニュークリア・シェアリングをアメリカが承認するかはわからないが、議論するなら今のうちにやらないといけない。なぜならば、アメリカと北朝鮮の間で核兵器のパリティ(戦力均衡)ができてしまったら、核のバランスを保とうとして、アメリカは抑止力をこれ以上強めも弱めもしようとしなくなる可能性がある。結果、日本との間でニュークリア・シェアリングが不可能になるだろう。

来年初め、北朝鮮はアメリカ本土に核ミサイルを撃ち込めるようになるとアメリカは予測しているが、もしかするとそれがパリティ成立の期限になるかもしれない。

核保有は今まで先延ばしになってきた問題だ。しかし、決断は早いほうがいい。後になるほど選択肢が減り、「核を落とされるか。それとも核を持つか」のような極端な話になってしまう。

冷戦時代、日本はアメリカの核の傘に入ることで国を守ってきた。その経験から学べば、現実的な選択をすることもできるのではないか。日本国民の命を守りたいのであれば、今、発想の転換が求められている。

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宮本 悟(みやもと・さとる)
聖学院大学教授
1970年生まれ。92年同志社大学法学部卒業。ソウル大学政治学科修士課程修了。神戸大学大学院法学研究科博士後期課程修了。2015年から現職。専攻は朝鮮半島研究、比較政治学、国際政治学など。著書に『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか?』(潮書房光人社)ほか。

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(聖学院大学教授 宮本 悟 構成=鈴木 工(プレジデント編集部) 写真=朝鮮通信=時事)