バルサとの契約が来夏までながら、延長合意に至っていないイニエスタ。すでにユベントスなどが獲得に興味を持っていると伝えられている。(C)Getty Images

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「ノー」
 
 9月上旬、スペイン代表の試合を終えてバルセロナ空港に降り立ったアンドレス・イニエスタは、素っ気ない口調でそう答えると、足早に車に乗り込んですぐさまドアを閉めた。
 
 数日前、バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長が、『ムンド・デポルティボ』紙のインタビューで、現行契約が来夏で切れるイニエスタの進退問題について、「2018年6月までの契約延長に基本合意に至った」と発言。その真意を確かめるために集まっていた我々メディアからの質問に対する答えが、冒頭の「ノー」だった。
 
 バルトメウ会長の発言の詳細はこうだ。生え抜きの天才MFの希望を叶えるとしながらも、いかにも曖昧だった。
 
「イニエスタとはすでに契約延長で基本合意に至っている。今後数週間のうちに正式合意できればと思っている。まだ詰めなければいけない部分はあるが、彼が望むタイミングで、ここで現役を終えてもらいたい。我々の提案は、言うなれば無期限での契約だ。毎シーズン終わるごとにイニエスタの希望に応じて、自動的に1年ずつ延長していく形が理想だろう」
 
 このバルトメウ会長の発言を完全否定したイニエスタの「ノー」は、同じく契約満了まで1年を切っているリオネル・メッシの契約延長の正式サインに目途が立たず、今夏のパリSG移籍を境に好き放題な発言を続けるネイマールを黙らせることができないバルトメウ政権に、新たな火種をもたらす格好となった。
 
 同じムンド・デポルティボ紙のインタビューでバルトメウ会長は、ネイマールの移籍問題について「我々が犯した最大の過失は、ネイマールと彼の父親を信頼しすぎてしまったことだ」と答えていた。
 
 その発言に対して、ネイマールは返す刀で「バルサの会長は冗談みたいな奴だ」と反論。ただ、バルトメウ会長を筆頭としたクラブ幹部は、そんな過去の出来事に関わっている暇はない。メッシの契約延長の正式サイン、現フロントに対する不信任動議に向けた著名活動、さらには難航しているイニエスタの契約延長交渉と、重大な問題が山積しているからだ。
 むろん、今回のイニエスタの「ノー回答」の背景には、バルトメウ会長をはじめとするクラブ幹部への小さくない失望が隠されている。
 
「このクラブの繁栄のために人生を賭けてきた人間に対するリスペクトを失うことはあってはならない。進退という言葉が自分の中で現実味を増している。以前にはなかった感覚だよ」
 
 イニエスタは我が『エル・パイス』紙のインタビュー(8月19日付)で、こう発言していた。しかし、このメッセージを発した後も、経営陣は表面的な態度を取るばかりで、8月下旬に行われた食事会も兼ねた決起集会で選手間で起こったイニエスタに対する「残留コール」も、解決を後押しする効果を果たすことはなかった。
 
 このイニエスタの契約延長交渉について、バルトメウ会長は幹部に一任している。だが、イニエスタ側とスムーズな橋渡し役を果たせる人物が見当たらず、決して楽観視できない状況となっている。交渉のたびに状況は悪化しているのが現状で、それだけイニエスタの落胆の度合いも増している。
 
 詰まるところ、イニエスタは長年の功績に対する相応の評価をクラブに求めているのだが、フロント幹部は中身の伴わない提示をするのみ。この大きな溝が埋まらない限り、契約延長合意は困難な状況だ。
 
 クラブ側はプランの見直しを迫られている。しかし、肝心のバルトメウ会長がイニエスタとギクシャクした関係になっていることが、事の危険性を助長させている。
 
 近年、メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールからなるMSNトリオを戦術的な軸にしてきたバルサにあって、中盤では彼らの守備負担を軽減でき、攻撃でも黒子に徹せるアスリート能力に長けたタイプの選手が重要度を高めていった。