認知症かと思いきや白内障!? 日本の眼科医療は世界から20年遅れている
目の寿命は65〜70年! 早めのケアでいつまでも見える目に
■間違いだらけ?の日本の眼科医療
「日本の眼科医療は世界のトップレベルだと思っていませんか? まず、その認識から変えないと正しい目のケアはできません。眼科手術に関しては、日本は、世界トップレベルから20年遅れているといっていいでしょう」
こう注意を促すのは眼科外科医の深作秀春先生だ。世界の最新治療に精通する専門医として、日本の現状を厳しく批判する。
「例えば日本では、緑内障や加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい/※詳しくは記事の最後で解説)という目の病気は完全には元に戻らないといわれていますが、私は多くの患者さんを手術で治してきました。
また網膜剥離の手術も、世界ではすでに行われていない旧式の方法が日本の場合は標準化されています。手術だけでなく、病気の診断でも遅れている。そのため症状が進み、手遅れになることも少なくありません」(深作先生、以下同)
ここに挙げた病気は目の老化で起こる、どれも一般的なものだという。
3月に厚生労働省が発表した統計「完全生命表」によると、日本人の平均寿命は女性が86・99歳、男性は80・75歳。一方、目の寿命は「65〜70年と考えていいでしょう」と深作先生。
「個人差はありますが、目の中にある水晶体は65〜70年が寿命です。これが高齢者になれば老化し、ほとんどが白内障になります」
白内障になると、書類の赤字が見えなくなったり、黒と紺色の区別がつかないなど生活に支障が出てくるという。
「例えば、フランスの画家、クロード・モネ。『睡蓮』という連作が人気ですが、82歳で描いた『睡蓮』は、60歳のときに描いたものと比べると色彩が失われ、何を描いているかわからない部分もある。モネは72歳で白内障と診断されています」
白内障は、世界における失明の原因の第1位。
「正しい予防や治療をしないで視覚を失ったら、本人はもちろん、子どもや孫の負担も大変になります」
■視力低下が高齢者の“元気”を奪う
目の治療を行わなかったために、家族に認知症と誤解されていた高齢者もいるそうだ。
「昨年の夏、89歳の白内障の女性の手術を行いました。女性は何も話さず、こちらが話すことも理解できない様子でした。家族は認知症を疑っていましたが、手術を終えて1週間後、再来院したときに突然、しゃべりだしたのです。それまでは目が見えないことによって情報が遮断されていたため、気分がふさぎ込んでしまっていたようです」
女性はもともと高校野球が大好きで、視力が回復したいまは、甲子園を楽しみにしているという。
「もし手術を行わなければ、視力が回復しないだけでなく、足腰も弱り、やがては寝たきりになってしまうおそれもあったでしょう」
同じく白内障の進行で認知症を疑われていた90代の男性も、白内障の手術により視力が回復。念願だったフランス語の勉強を“もう1度始めたい”と思うまでに回復したそうだ。
「80〜90代になれば、ほとんどの人が白内障で視力が衰えます。そうなると怖くてひとりで外も歩けなくなる。衰えた目が見えるようになるということは、元気になるということ。活動の幅が広がり、生活の質がグンと上がるのです」
80〜90代なんて、まだまだ先の話……。そう思うかもしれないが、
「週刊女性読者やその配偶者世代であれば、老眼をはじめとした“目の老化”が始まっています」
老化を遅らせるには予防とケアが大事。特に、目の老化の曲がり角を迎えたOVER40にとっては、ここからどう対策するかがものをいう。
目はむき出しの臓器! 紫外線、スマホは目の天敵!?
■夏は保護メガネやサングラスは必須
機能が衰え始めて、ようやく目の大切さに気づく人は多い。健康診断で、血圧や血液検査の結果は気になっても、目は気にならないという人もいるのでは?
ところが目は、ほかよりも注意しなければならない理由がある。
「脳は頭蓋骨に、心臓は肋骨に守られていますが、目はむき出しの臓器。あまりにも無防備なのです」
ものが見える仕組みは、目に入ってきた光が網膜で電気信号に変わり、脳に伝達され、脳が過去の情報と照らし合わせて「ものが見える」というメカニズムだ。目が骨や皮膚に守られていると光が入ってこなくなり、機能が果たせない。そのため目は“むき出しの臓器”になっているのだ。
「だから直接の刺激はもちろん、さまざまなダメージを受けやすい。白内障は世界で失明原因の1位といいましたが、欧米に限れば加齢黄斑変性が多く、紫外線と関係性が高いとされています。夏場などは特に強い紫外線から守るようにしましょう。予防効果がある栄養素のサプリメントも大事ですが、まずはしっかりと保護メガネやサングラスで防御を」
日本ではサングラスはファッションアイテムのイメージが強く、使うのに抵抗がある人もいるが、「とんでもない」と深作先生。
「紫外線は白内障、翼状片(よくじょうへん/白目を覆う結膜が黒目に入り込んでくる病気)、瞼裂斑(けんれつはん/白目の上にできる斑点、隆起)などの原因にもなっています。サングラスは目を守るための必需品として考えましょう」
また最近では、身近で使われるようになったスマートフォンやパソコンから出るLED由来のブルーライトが問題になっている。
「“歩きスマホ”をするなど“スマホ中毒”といわれる若い世代には今後、網膜の障害がどんどん増えていくでしょうね」
※詳しくは、本日15時に公開する記事を参考に、紫外線やブルーライトの対策を。
■正しい知識とケア、治療で目を大切に
「20代から始まる目の老化は40代でさらに進み、70〜80代になれば程度の差こそあれ、ほとんどの人が眼病にかかっている状態に。子どもや孫の世代であっても、突発的な外傷による網膜剥離は起こりうる。家族に目配りをしなければならない週女読者にとって目の病気は常に他人事ではないのです」
味覚、嗅覚など人間が認識する情報の中で、視覚は約9割を占めているといわれている。
「つまり人間が受けとる全情報量の9割は目という臓器から入ってくる。せっかく長寿国に生まれたのに、正しいケアや治療を行わないことで苦労や失望を味わっている方が多いのは大変残念なこと。長く“よい目で生きる”ために、まずは正しい情報を得るように心がけてください」
《解説》加齢とともに増える病気
【加齢黄斑変性】患者数推定501万人。先進国で失明原因第1位
その名のとおり、加齢により黄斑部(網膜の中心部分)に異常が現れて、ものが見えにくくなる病気。研究が進んでいるアメリカでは、50歳以上の患者が1400万人いて、毎年20万人ずつ増えている。
「日本では80万〜90万人の患者数とされていますが、人口比から500万人はいると思います」(前出・深作先生、以下同)
欧米では失明原因の第1位で従来は治療が困難な病気とされていたが、最新の硝子体手術では、中期までの患者は根治できる場合も!
【網膜剥離】10代に多いが50代以上は老化から発症
眼球の内側にある網膜がはがれて視力が低下するなど、さまざまな症状を引き起こす。50代以上の場合、加齢により動きやすくなった硝子体線維が網膜を引っ張ることで起こる。手遅れでない限り、最新の手術法で治療が可能。
【白内障】加齢とともに誰にでも起こる病気
目をカメラにたとえるとレンズ部分が水晶体。ピントを合わせる役割で本来は透明だが、加齢とともにタンパク質が変性し濁ると視力低下や視界がかすむなどの症状が現れる。
「治療は手術しか方法はない。濁った水晶体を取り除き、単焦点または多焦点レンズを移植。多焦点レンズは保険診療外だが、遠くも近くも裸眼で見えるようになる。熟練した医師が手術を行わないと十分に視力を出せないので注意」
【緑内障】視力を失う寸前まで自覚症状なし!
視神経繊維が障害されて見える範囲の視野が狭くなっていく病気。最後の最後まで中心部分の視野が残ることが多く、失明の寸前まで緑内障であることに気づかない場合がある。65歳以上の高齢者に多いが、若くてもかかる。眼圧が高い、視神経への血流の悪さ、視神経への機械的な圧迫が原因と考えられている。
「治療は薬によるものが主流でしたが、症状に応じた最新の手術を優秀な医師のもとで行えば、治る可能性が高くなってきました」
【糖尿病性網膜症】糖尿病によって年間3000人以上が失明
糖尿病の合併症として生じる病気。糖尿病で血糖の高い状態が続くと網膜の微小血管が詰まり、裂けて眼底出血を起こす。これを繰り返すと、視力の低下や網膜剥離を起こし、進行すると失明に至るおそれがある。
<教えてくれたひと>
深作秀春医師◎眼科外科医。眼科手術や手術機器の開発に世界的に貢献し、最新眼科手術を日本に紹介。現在も欧米の医師教育に取り組み、海外でも多くの講演を行う。 あらゆる眼科手術を行い、現在までに15万件以上の手術を施す、スーパードクター。