1980年代、炭鉱不況にあえぐイングランド北部の街を舞台に、少年・ビリーがバレエに出会い、名門ロイヤル・バレエ・スクール受験を目指していく中、反対していた父親や周囲の人たちの心を変えていく物語。PHOTO OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR

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 世界中で上演され、1000万人以上が劇場に足を運んだと言われている、メガヒットミュージカル『ビリー・エリオット』。今回、その初となる日本公演が始まるにあたり、ウィルキンソン先生役の柚希礼音が作品の魅力を紹介します!

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■世界が認めた作品のパワー

 2000年に公開された映画『リトル・ダンサー』が、イギリスのウエスト・エンドでミュージカル『ビリー・エリオット』として幕を開けたのが2005年。その後、10年以上のロングラン公演中にもブロードウェイなど世界中で上演され、1000万人以上が劇場に足を運びトニー賞をはじめ80以上の演劇賞を獲得している。

「初めて見たとき、最初から泣けるシーンがいっぱいで、1幕終わりですでに“めちゃくちゃいい作品!”と私、涙をためていました。特に、クリスマスにビリーのお父さんが雪の中を歩いてバレエのウィルキンソン先生のもとに行き“ビリーをなんとかしてやりたい”と懇願するシーンは号泣です」(柚希、以下同)

■5/1346のビリーたち

 踊ることに夢中になり、夢に向かって走るビリー。日本版のビリーは、応募総数1346人の、変声期を迎える前の少年たちが約1年に及ぶレッスンの中でお互いを磨き合った。最終的に選ばれたのは、写真左から加藤航世、木村咲哉、前田晴翔、未来和樹、山城力の5人。

 山城は最終審査で惜しくも不合格だったが、海外のクリエイティブスタッフから「本番までの期間で合格ラインに到達する可能性がある」とされ、ほかの4人と一緒にレッスンを継続。2か月遅れで“繰り上げ”合格となった。

「5人については、本当に尊敬しています。学校に行きながら、いつ予習復習しているんだろうというくらい、前回ダメ出しされたところは直っているし、弱音とか疲れたという言葉を聞いたことがないんです。舞台も客席から見やすいよう、斜めになっているので踊るには難しい環境ですが、挑んでいる彼らの姿がビリーと重なって見えています」

■父と息子の親子愛に涙

 この物語はビリーの成長を描いたものだが、根底にあるのは父親と息子の親子愛。初めはバレエなんて男がやるものじゃない、とビリーの思いを認めなかった父親。しかし、無心に踊る息子の姿を見て、彼のために何とかしてあげようと奔走する。父親の心の移り変わりは、観客の涙を誘います。

「最初は子どもの才能を認めなかった父親が変わっていく過程が感動的。バレエスクール入学の費用を捻出するため、ストライキを破って働こうとしたり、ビリーのために必死に行動します。バレエは本当にお金がかかるし、周りの人の支えがなければできないという現実的な部分も表現しているのが素晴らしいです」

■大人たちも“特別扱い”はなし!

 ビリーはもちろん、すべての出演者がオーディションで選ばれている。ビリーの父親を演じる、俳優として実績のある吉田鋼太郎も36年ぶりのオーディションを受け、益岡徹とWキャストで役を勝ち取っている。

「私も宝塚時代にはオーディションを受けた経験がなかったので、今回はすごく緊張しました。だから、オーディションてどういうことをするんだろう、と思いながら受けたら、歌も踊りも芝居も、舞台でやることすべてをやって。作品を見て本当に感動し、ウィルキンソン先生をぜひやりたいと思っていたから役をいただけてうれしいです」

■驚きのバックアップ陣

 バレエダンサーを目指す少年の成長物語ということで、踊りの指導にも超一流のスタッフが名前を連ねている。

 日本人で初めてローザンヌ国際バレエコンクールでゴールドメダルを受賞した、熊川哲也が主宰する『Kバレエカンパニー』。タップダンスでは、北野武監督の映画『座頭市』で振り付けと出演で注目を浴びた、日本のトップダンサー、HIDEBOH主宰の『Higuchi Dance Studio』。そして体操はオリンピック選手の内村航平などが所属する『コナミスポーツクラブ』。歌はもちろん、ダンスや体操、フライングまである、見どころ満載のミュージカルになっている。

「バレエだけでなく、ジャズダンスやタップ、縄跳びまでビリー役の5人は頑張っています。ウィルキンソン先生は、ダンスはテクニックと本人の中から出てくるものと言ってます。彼らの、心の底から出てくる思い、心の叫びに突き動かされて踊る姿は注目です」

■ストーリーを盛り上げる音楽

 ミュージカルといえば、やっぱり歌! 舞台を盛り上げる音楽を制作したのは、イギリスが生んだポップスター、エルトン・ジョン。’70年にヒットした『僕の歌は君の歌』以降、コンスタントに活動を続け、これまでに全世界で3億枚以上のレコード・CDセールスを樹立。近年では『ライオンキング』や『アイーダ』といった、ディズニーミュージカルの作曲も手がけている。

「どの場面で流れる音楽も素晴らしく、聴いているだけでワクワクしてきます。炭鉱ストライキのメンバーと警官が衝突するシーンと、バレエのシーンを同時に描いている部分は演出も面白くて、オススメの場面です」

■日本語版だから伝わる感動

 初めてとなる日本公演。もちろん、セリフもすべて日本語に翻訳されている。もともと、イングランド北部の訛りでセリフが書かれているので、日本語に翻訳したときにそのニュアンスが出るよう、日本語でも訛らせているという。

「世代でも訛り方を変えていて、おばあちゃん世代の訛りは強く、若者は家族と話しているときにはちょっと訛っているけど、友達同士では標準語に近くなるとか。私の演じるウィルキンソン先生は、普段は標準語ですが、感情的になるとすごく訛るので、言葉で彼女の感情を判断するのも面白いと思います」

<公演情報>
『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』
7月19日〜10月1日(東京・赤坂ACTシアター)、10月15日〜11月4日(梅田芸術劇場)。詳細は公式ページで。http://billyjapan.com