聖光学院(福島)「ランメニュー」による「意識改革」【後編】
2007年から10年連続で夏の福島大会を制し、うち4回が甲子園ベスト8。今や全国区の強豪校に成長した聖光学院。では、彼らはなぜここまで飛躍的に実力を伸ばしてきたのか?今回はその要因の1つ「トレーニング改革」にスポットを当てる。後編では実際のトレーニングを映像も交え解説しながら、選手たちにもたらす「意識改革」に迫っていく。
これが聖光学院の「16種類ランメニュー」だ!横山 博英部長、斎藤 智也監督との会話を終え、いざグラウンドに出ると、待っていたのは3年生の永山 莫大。彼は細谷 裕信トレーナーから伝授されたランメニューの指南役である。
「これからやるランメニューはアップ前に必ずやっていて、肩関節や腕の動きなどを見直すメニューがいろいろありますので、1つずつ紹介していきます!」
その数はなんと16種類。ここからは映像も見ながら参考にしてほしい。
1.ダイナミクス肩関節を軟らかくするためにやっていきます。肩を伸展させて、肩の柔軟性を出していきます。このとき、肩を外転させたり、内転させることを意識してやっています。
2.サイドステップダイナミクスのサイドバージョンです。狙いは肩を回すことで肩関節の柔軟性を出していくことです。
3.モモ上げ(ハードリング)投げる動作、打つ動作の中では足を上げて立ちの姿勢になるときがあります。このメニューは、立ちの姿勢につながっていて、モモ上げをしていきながら、野球の動作につなげることを意識してやっていきます。
4.快調走普段の80パーセントぐらいの力でフォームを意識して走ります。ランメニューの中で、たびたび快調走を入れていきますが、自分のフォームを整えていくのが狙いです。このランメニューの中で一番大事なメニューでここでフォームをしっかりと意識して走ってください。
5.サイドハードル横向きになってモモ上げをしていきますが、このとき、少しずつモモを上げるペースを速めていきます。この動きで意識するのは股関節を動かすこと。モモ上げをしていきながら、股関節の柔軟性を出すためにやっていきます。
6.クロスランジ・サイドランジ体の向きを真っすぐにして、捕球動作を意識して、足を交差させていきます。このメニューは試合前のアップの中では必ず取り入れています。骨盤の向きを変えてやらないと意味がないので、ジョグストレッチを取り入れながらやっています。
7.キャリオカステップ(通称:キャリオカ)横向きに下半身をひねりながらステップしてくものです。これは体幹のねじれを意識していくことが大事です。この動きが野球の何につながるかというと、打つ時のトップを取った時の動作につながることが多く、体のキレが良くなるので、試合前のアップにも取り入れています。
ただこのメニューは上体が突っ込まずにステップしていくのは難しく、1年生ではなかなかできない選手が多いです。月1回、2回はトレーナーさんがフォームを指導をしていただきますが、最初はフォームが全然なっていないと怒られることが多いです。ただこれをしっかりとできるようになれば、動作の切れが良くなるので、ぜひやってください!
8.カウンターキャリオカキャリオカステップの上位版で、非常に難しい動作になります。
9.エフアール走る動作を矯正する目的でやっていきます。
10.片足モモ上げ立ちを意識してやるメニュー。これは往復で行います。地面に足を捉えることを意識してやることが大事なのですが、注意してほしいのは、前かがみになったり、後ろに重心がかかりすぎてもNGです。そのため地面の真下捉えること。そうすると、周りから止まっているように見えます。
足首を90度で上げて保つことを大事にします。NGポイントはつま先から入ったり踵から入ったり足首をロックして足全体で捉える踏み込みが大事で、これが走る動作につながっていきます。
11.伸脚ステップ走る時の重心の前に足がついたり、重心の後ろに足がついてしまうと、走りにくくなってしまうので、注意が必要です。
12.ダブルアーム走る動作の中で、手を体の後ろで使ってしまうと、体の前で手を使わないと良いパフォーマンスになりません、それを矯正するために体の前で使うことが大事です。
13.バウンディング走る動作の中で、手と足を上げるタイミングが合わない選手がいるので。それを合わせるためのメニューです。このメニューのポイントは足全体で地面を捉えるイメージです。このイメージは、走る時も、打撃も、守備を行う時にもつながっていて、たとえば守備をするとき、つま先から捉えてしまうと、上体が突っ込んでしまいますし、踵から入ってしまうと顎が浮いてしまうので、やはり全体で捉えることが大事で、バウンディングはその練習になります。
14.ドリルダッシュ走り方を矯正するのが目的。まず20メートルは今までやってきたバウンディングやモモ上げなどを動きをしてから20メートルダッシュをしていきます。
15.腕振りなし走腕を振らないで、止めて走ります。なぜこのメニューをやるかといえば、肩を大きく振って走ると、腕と足がなかなか前に出ていかないのでそれを防ぐために行います。
16.フリー最後はフリー走。そのまま走る選手もいれば、自分の弱点の欠点を克服するためのランメニューを実施する選手もいます。
永山選手によれば「季節によって違うランメニューもあります」とのこと。この多彩なランメニューが聖光学院の強さを支えている。
選手の意識を大きく変える「ランメニュー」ランメニューに取り組む聖光学院ナイン
かくして息を弾ませながらランメニュー16種類を完走してくれた永山選手。このランメニューを通して、学んだこともあるようだ。
「入学したときはキャリオカとか面白いメニューだと思ったので、楽しくやっていたのですが、しだいに野球の中に生きてくるメニューが多いということに驚きました。
走ることは下半身強化という認識が強いと思うんですけど、走る動作が守備にも、打撃にも生きていることが分かりました。みんなそれを知ってトレーニングに対する意識が高まっていますし、トレーナーさんへの質問も増えてきています」
主将の大平 悠斗(3年・三塁手)もランメニューに取り組んだ効果を実感している。50メートル走のタイムは1年時の6秒5から6秒2へ。さらに昨秋東北大会・利府戦で太平の実感は確信となった。
「延長12回表の決勝点は浅い犠飛だったんですけど、いけると思って思い切って三塁から突っ込めました。ランメニューがすべてではないと思いますが、足が速くなって良かったと実感しています。
僕は体は大きくないですし、長打力もない選手。だから守備と足をウリにしなければならない選手ですので、ランメニューをやり続けてよかったと思っています」
さらに前チームからベンチ入りしている堀田 陸斗、瀬川 航騎、小泉 徹平の新3年生たちも、ランメニューの効果を実感している。
トレーニング改革を結果にし、未開の地「甲子園ベスト4」へランメニューに取り組む聖光学院ナインエースの堀田は入学時の球速は121キロだったが、ランメニューで正しい投球動作を身に付け最速136キロまでスピードアップし、国体を経験し、東北大会ではエースへ。「ランメニューの一本、一本を大事に取り組んでいくうちに、プレーの質が変わっていきました」と語る。
高校通算17本塁打の強打の内野手・瀬川は聖光学院に入学するまでランニングフォームには無頓着だった。が、聖光学院が取り組むランメニューで新たな引出しを備えた。
「打撃もそうですが、僕はショートなので、三遊間の深い位置から踏ん張って送球する動作が、うちのメニューとつながっているところがありますので、本当にやってよかったと実感します。あとは盗塁ができたときもそうですね」と笑顔を見せる。
そして1年生から活躍を見せてきた勝負強さがウリの二塁手・小泉。「ランメニューの難しさといえば、タイミングを合わせる動作が多いこと。そのタイミングが上手く合わないとうまくいかないですし、野球に置き換えても打撃も、守備も、タイミングが合わないと良いパフォーマンスができません。その大事さはここにきてだんだん実感しています」と、ランメニューの質にこだわり、さらなるレベルアップを誓っている。
昨秋は東北大会準決勝で仙台育英に敗れ、あと一歩でセンバツ出場を逃してしまった聖光学院だが、彼らの目はすでに夏に向いている。これまで先輩たちが築き上げてきた夏の福島大会11連覇はもちろんのこと、目指すは歳内 弘明(阪神タイガース)、横山 貴明(東北楽天ゴールデンイーグルス)、園部 聡(オリックス・バファローズ)などプロに進んだ先輩たちも成し遂げていない「甲子園ベスト4」。日々取り組んでいるすべての練習、昨秋の敗戦、これらのすべてを糧にして、彼らは未開の地へ向かって走り出す。
(取材・文=河嶋 宗一)
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