三浦学苑高等学校(神奈川)

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 神奈川県横須賀市衣笠にある三浦学苑。1949年に高等学校が設立されてから、横須賀市の私学として、名をはせてきた。だが野球部は早期敗退することが多く、なかなか夏のシード権を獲得できない時期が続いた。

 だが今年の春季県大会で4回戦進出を果たし、シード権の座を獲得。4回戦では秋優勝の慶應義塾に1対2の接戦を演じ、神奈川の高校野球ファンに今年の三浦学苑は違う!という姿を見せた。なぜ三浦学苑はこの春、躍進できたのだろうか。

チームスローガン〜拘り〜をつけた意味スローガン「拘り」

 三浦学苑の選手たちが練習する佐原グラウンドの外野フェンスにはある文字が刻まれている。「拘り」これは今年の三浦学苑のチームスローガン。さらに詳しく説明すると、「―拘りー 2017 自分との闘い」このスローガンを名付けたのは、樫平 剛監督だ。 樫平監督は日大藤沢出身で、侍ジャパン入りした経験のある川戸 洋平選手(Honda)と同期だった。その後、日大国際関係学部、日大藤沢のコーチ、三浦学苑と6年間のコーチ生活を経て、2012年春から監督に就任した。樫平監督は毎年スローガンを考えているが、このスローガンを掲げた理由は何だろうか。

「このテーマにしたのは、練習をなんとなく8割でやるのではなく、一個一個のメニュー、物事に対して、こだわりを持つこと。そしてポイントを押さえてやろうということを話をしました」

 樫平監督の話を聞いて、選手たちはどう解釈したのか。主将で、チーム最多の高校通算12本塁打を誇る右のスラッガー・伊保大志はこう語る。 「技術面にこだわりを持つのはそうですけど、野球入る前の私生活からこだわるようになりました。うちは寮がありませんから、自宅の生活が大事となります。練習前、練習後の行動。特に家に帰ってからですね。個人での体重増加、コンディショニング管理までこだわりを持ってやること。そして練習だけきびきびやるのではなく、グラウンドに入った瞬間、切り替えることをチームとして大事にやっていきました」 野球以外の私生活にこだわる姿勢が結果として現れた。まずエースの石井 涼。入学当時は183センチ60キロ弱というガリガリな体型だったが、1日7食〜8食食べる生活で、1年で10キロ増量。そして、今まで力みがちだったが、力を抜いて、リリース時に100パーセントの力を入れるフォームに改良し、安定したピッチングを展開。県大会出場の原動力となった。

 だが、秋の県大会では4回戦で横浜創学館に1対8で敗れてしまった。この敗戦について、伊保は、こう反省する。「勢いあるとしてチームでスタートしたんですけど、それだけでは勝てないとうすうすと感じながらも、コールド負けしてからやはり勢いだけで勝てないと確信しました」

 この冬は、夏勝つために選手は自分に厳しくなり、スイングを数多く振る。そしてノックでもボールを食らいつく姿勢を見せた。伊保は「新チーム時よりはボールの執着心は強くなったと思います」と語る。そして樫平監督も、「筋トレ、振り込みで選手たちの身体は大きくなりましたけど、それ以上に心が強くなった様子が見えました」と選手たちの成長に目を細めた。

集合写真(三浦学苑)自信を付けた湘南学院戦と新たなものが見えた慶応義塾戦

 冬へ向けて実力をつけてきた三浦学苑の選手たちに足りなかったのは「自信」。その自信をつけたのが、春季地区予選の湘南学院戦だ。学校との距離は約4キロほどの近隣校で、横須賀地区とのライバルである。この試合で好投を見せたのがエースの石井だ。石井は自己最速の143キロのストレートを軸に、湘南学院打線を翻弄。「自分が目指す打たせて取る投球ができた」と手応えを実感。石井は湘南学院を4安打に抑え、完封勝利。チームとして初めて湘南学院に勝利したのであった。樫平監督は1つのターニングポイントとなったと語る。

「湘南学院に勝てたことで俺たちは勝てるんだ、やれるんだという自信が芽生え、それが県大会まで持続し、4回戦の慶應義塾戦までつながっていったと思います」そして県大会も順調に勝ち進み、3回戦で追浜を20対9で破り、シード権の座を獲得した。迎えた4回戦の慶應義塾戦。ここでエース・石井がチームに勢い付けるピッチングを見せる。石井は初回、3番の好打者・綿引 達也を三振に奪い、無失点。ここで観客がどっと沸く。樫平監督は異様な雰囲気をベンチで感じ取っていた。

「観客がざわざわしているんですよね。『三浦学苑、ひょっとしてやるんじゃないか?』とそういう空気は選手たちが守備から帰ってきたとき、ベンチを出るのですが、いつもと違う空気を実感しました」

観客が今年の三浦学苑は違うと感じた印象は現実に変わっていく。4回表、先制を許したが、4回裏、主将・伊保の一発で追いつく。この一発でベンチは大盛り上がり。記録員としてベンチ入りしていた山田奈央さんはこのときの様子について興奮気味に振り返ってくれた。

「あの時は本当に大盛り上がりで、みんながハイタッチしあっていて、チームに一体感が生まれていたと思います」エース・石井は強力打線・慶應義塾に対してひるまずに快投。主砲・正木 智也から2三振を奪うピッチングを見せるなど、対等のピッチングを見せていた。しかし9回表に勝ち越し点を許し、試合は1対2で敗れた。地力の差を見せつけながらも、伊保は「悔しい結果でしたけど、今までは見えていなかったものが、慶應義塾と1対2という勝負をやって、まだ遠いですけど、甲子園というものが見えてきたと思います」笑顔で語ってくれた。

全員でランニング(三浦学苑)劣勢な状況で戦えるチームになれるか?

 拘りというスローガンでスタートした今年の三浦学苑。樫平監督は「一体感が出てきて、それがうちの強みとして出てきました」とチーム作りが順調に進んでいることを明かす。

 春季大会は大きな成果を残したが、夏の大会へ向けて課題は見つかるもの。まず1つが、「心のスタミナ」。樫平監督は勝ちたいという気持ちが9回までどれだけ持続できるかが課題だと語る。

「慶應義塾戦は石井が気持ちがこもったピッチングを見せてくれたこと、立ち上がりにしっかりと抑えてくれたことで行けたことで、最後まで我慢することができたと思います。ただそれを9イニング、2時間続けるのは、本当に大変だと、選手も私も実感しました。しかしこの勝ちたいという気持ちを持続できなければ強豪校とは戦えません」

 確かに個人の能力が高い選手が集まったチームが強豪校と当たって、最初は対抗するけれど、最後、突き放されてしまうのは、心のスタミナがないということ。樫平監督はその強さを身に付けるのは難しいと考えているが、今年のチームはそれができるようになっていると実感する。それでも「まだまだですね」と指揮官はもっと高いレベルを求めている。

 樫平監督が夏の大会へ向けて求めているのは劣勢時でも戦えるチームになること。実戦練習ではあえて、不利な状況からスタートさせて、どう戦うのかを踏ん張る毎日だ。

「夏の大会はうちのペースで戦えることはほとんどないでしょう。シード校になりましたが、逆に危機感を感じています。どこも3年生は最後だと思って、やってきますから。楽な試合はないと思っています」覚悟をしている。だからこそ、気持ちの強さが必要なのだ。「それだけでは甲子園に行けるとは限りませんが、しかしそれがないと、まず勝つ土俵に立つことはできない」(樫平監督)戦略としては2番手投手の育成など、あらゆることを想定して、チーム作りを進める三浦学苑。シード校として迎えるこの夏へ向けて、準備を進めている。

 樫平監督はこの夏、全員が輝いてほしいと期待している。「ありきたりですけど、ベンチ入りしている選手、スタンドにいる選手たち全員が主役だと思っています。だからこそ全員が輝ける夏になってほしいと思っています」

そして主将の伊保は夏へ向けての課題をこう語ってくれた。「素質が高い選手が集まる学校には実力ではかなわないとおもうんですけど、そうではなくて、僕たちが意識している一体感。3学年全体が束となって雰囲気がなれば、1つのチャンスでそういう強豪を倒せると思っています。まだまだ一体感が足りないと思うので、夏まで残り1か月を切りましたが、そこを大事にしたいと思います」

 全員が輝ける夏にするために。三浦学苑の試練の日々はこれからも続く。

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