享栄vs早稲田実業
良いところを見せ、良い場面も演出した。誰のことか、享栄のエース・早矢仕 飛希(3年)のことである。182センチ90キロと恵まれた体格。この春、享栄は県大会2回戦で負けているが、とても2回戦で負けたとは思えないほどの好投手、好チームだった。
早矢仕はコントロールが優れた投手。ノーワインドアップから始動し、ゆったりと左足を上げていき、そこから下半身主導の体重移動で、ホームに向かっていき、内回りのテークバックを取って、リリースに入る。球もちが良く、130キロ前半(最速134キロ)のストレートが両サイドへ決まっていく。これだけではただコントロールが良い投手だけだが、早矢仕の武器は変化球の速度が速いことにある。
変化球はスライダー、ツーシーム、カーブ、フォーク、チェンジアップの5種類あるが、スライダー、ツーシーム、フォークはいずれも120キロを超える。特にスライダーは120キロ後半を計測しており、ベース手元で鋭く曲がる。速球、変化球を内、外に投げ分けができており、早稲田実業打線を封じる。
リードする捕手・中村奨之介は「春の県大会までコントロールが悪く、制球力向上が課題だったのですが、この1か月半でだいぶ良くなりました」と語るように、別人のような実戦派右腕へ成長した。
対する早稲田実業の先発・伊藤大征(1年)。熊本遠征の時から投げている投手だが、相当筋が良い。右投手としては内田 聖人(現・JX-ENEOS)を彷彿とさせる逸材だ。そこまで上背がある投手ではないのだが、何より良いのは、フォームの土台の良さだ。ワインドアップから始動し、左足をゆったりと上げていき、体重移動・テークバック・リリース・フィニッシュまでの動きが全く無駄がない。上手から常時130キロ〜136キロのストレートを強気に攻める度胸、また120キロ台のスライダーの切れ味も良い。また合間を見てチェンジアップを投げて三振を奪っていたが、まだ投球は素直だが、これでずるがしこさと強気で押すところを覚えつつ、しっかりと体を鍛えていけば、将来的には全国レベルの投手へ成長する可能性は十二分に持っている。
伊藤大征(早稲田実業)そんな伊藤に対し、享栄打線は初回から3番中村の三塁打が飛び出るなど、5回途中まで7安打を浴びせた。2回表にはスクイズ、5回表には中村が適時打を打つなど、2対0と先行。さらに8回表には4番横井優輝(3年)の本塁打、9回表には中村が3安打目となる適時打で5対0と点差を広げた。
享栄は野手のレベルが非常に高い。まず1番馬渕 泰希(3年・165センチ68キロ・右投げ左打ち)は身体能力抜群の中堅手。思い切りが良く、インパクトまで無駄がなく、シャープなスイングで鋭い打球を飛ばす。守備範囲も広い選手。
2番でセカンドを守る外山立悟(3年・172センチ76キロ・右投げ左打ち)は2番打者とは思えないほどポテンシャルの高さを持ったプレイヤー。スクエアスタンスで構え、インサイドアウトで振り抜くバットスイングの速さ、打球速度の速さは、クリーンナップ級。また動きの良い二塁守備も魅力で、さらに俊足なのも見逃せない。
3番の中村は相手打者の狙いを外すリードはもちろん、広角に打ち返す打撃技術、さらに、速球投手、左腕投手問わず、対応できる技術の高さは素晴らしい。
4番横井は178センチ84キロとがっしり体型から鋭い打球を連発するスラッガータイプ。8回の本塁打も打った瞬間、本塁打と分かる当たりであった。
5番普天間大海(3年・三塁手・右投げ右打ち・170センチ81キロ)は、中村もチームの中で、最もポテンシャルが高い選手と評判で、どっしりとした構えから、ゆったりとタイミングを計り、インパクトの際に強く押し込んで鋭い打球を飛ばせる選手で、筋はかなり良い選手だ。
そして6番のベーグ・昇太・ハッサン・アリー(3年・一塁手・右投げ右打ち・175センチ84キロ)は、パキスタン人を父に持つハーフ選手で、今年の享栄をまとめるキャプテン。今年のチームでは一番の飛距離を誇るスラッガーで、この試合でも滞空時間が長いフライを放った。捕手・中村によると、性格的にとても熱く、切り替えもしっかりとできて、面白いことをいって盛り上げることができる最高のキャプテンのようだ。
そんな個性あふれる野手たちが力を発揮し、9回表まで5対0とリード。その裏、清宮 幸太郎に高校通算100号本塁打を打たれるが、早矢仕が後続を抑えて、1失点完投勝利を挙げた。
「本塁打打たれたのは悔しいけど、1失点完投勝利で抑えたことは自信になった」と笑顔を見せた早矢仕。記憶に残る一発を打たれたが、それでも早稲田実業打線を抑えた実力も多くの方々に強い印象を与えたはずだ。
試合中、またベンチ内では選手たちがずっと声を張り上げ、盛り上げる姿があった。
「今年は元気がウリですから、絶対に早実に負けてたまるか!という思いで試合をやっていきました」と語る中村。この負けん気の強さが勝利をもたらしたのだろう。
投打とも充実の内容を残した享栄。夏の愛知大会へ向けて弾みがつく結果となった。
(取材・写真=河嶋 宗一)
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