野球で起こる急性外傷(デッドボール)の対処法

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 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 春のシーズンも終わりに近づき、これから梅雨の時期を経て夏の大会に向けての準備が始まっていることと思います。ここからは急激な技術的レベルアップというよりは、いろんなことを確認しながらその精度を高めたり、コンディションを整えてケガをしないようにすることが大切になってきます。野球はもともと突発的なケガの少ない競技と言われていますが、投手のボールが身体に当たってしまうデッドボールは頻繁に起こる急性外傷の一つです。今回はデッドボールへの対応についてまとめてみたいと思います。

デッドボールを受けた時は、必ずRICE処置を!

打席に立ったときにデッドボールを受ける機会は少なくない

 デッドボールはピッチャーの投球ミスから起こる突発的なアクシデントです。当たった部位によってはユニフォームをかすめた程度の軽症のものから、立ち上がれないほどの重症のものまであり、特に頭頸部、顔面付近へのデッドボールはすみやかな対応が必要です。

 デッドボールを受けた場合、プレー続行か不可能かをまず判断することになります。当たった直後にさほど痛みがなかったり、動きに支障がなかったりする場合はそのままプレーを続行しランナーとして出塁することになりますが、その後ベースランニングなどができるかどうかを確認しなければなりません。

 特に足部や膝、太ももといった下半身にボールが当たった場合、ランナーとしてプレーしているうちにどんどん痛みが増してくる可能性がありますので、あわてずタイムをとり、患部をゆっくり動かして判断するようにします(場合によっては臨時代走を起用すること)。自力歩行が困難であったり、スムーズに動作が行えない場合は交代し、氷などを使ってRICE処置を行う必要があります。

 よくファーストコーチャーが冷却を患部に吹きかけている場面を見かけますが、これはあくまでもその場での痛みの感覚を一時的に麻痺させるものであり、皮膚表面を冷却しているにすぎません。当たった後に想定される腫れや熱感、炎症などを抑える効果は期待できませんので、プレーを続行した場合も試合後には必ずRICE処置を行って患部を冷やすように心がけましょう。

 またデッドボールによって明らかな変形や激しい痛み、広範囲に及ぶ腫れや熱感が見られる場合は骨折している疑いがありますのでプレーは中止し、患部を冷却しながら動かないように固定をし、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。

デッドボールを受けた部位ごとの対処法

頭頸部や顔面などにボールが当たったときは、すみやかに医療機関を受診するようにしよう

 太もも付近へのデッドボールはそのままプレーすることも多いですが、その後のケアを怠ってしまうとそこからずっと痛みが残り、伸ばすと痛いといった肉離れのような症状を起こすことがあります。打撲時の初期対応はとても大切で、プレーを続行する場合もテーピングやサポーターなどで軽く圧迫し、その後必ず患部を冷やすようにしましょう。

 痛みがある状態で無理にストレッチをしてしまうと筋肉の損傷を広げてしまうことにもなりますので、痛みのある動作は行わないようにします。練習後に患部を固定する場合は少し膝を曲げた状態で、太ももの筋肉をゆるめておくとよいでしょう。

 頭部・頸部付近にボールが当たった場合は意識の確認を行い、必ずいったんプレーから離れるようにします。今、何をしていたのか、今日は何月何日か等、状況の説明がうまくできない場合、ふらつき感が残る、気分が悪い、頭が重い・痛い等の症状がみられる場合は脳震盪を起こしている可能性がありますので、すみやかに脳外科医の診察を受けるようにします。頭部・頸部への激しい打撲があった場合は明らかな症状がみられなくても、向こう24時間は安静にしておくこと、また一人ではなく必ず誰かが状況を確認できる体制をとるようにします。

 顔面付近にボールが当たった場合は出血や変形の有無を確認し、すぐに医療機関(できれば形成外科のある総合病院)を受診するようにしましょう。特に顔面は鼻骨、頬骨(頬の出っ張ったところ)、眼窩(目の下)付近は骨折をしやすい箇所であり、骨折の程度によっては手術が必要な場合もあります(鼻血の出血量が多い場合は鼻骨骨折しているケースが多い)。

 歯にボールが当たって抜けてしまったり、欠けてしまったりした場合などはすみやかに救急対応の可能な歯科医、もしくは口腔外科を受診します。抜け落ちた歯は時間が経つにつれてうまく適合できなくなりますので、30分以内を目安に受診するようにしましょう。歯は乾燥に弱いため、口の中に入れた状態で(誤飲に注意)唾液で保存しながら歯科医へ行くと適合率が高くなると言われています。

 デッドボールは野球選手であれば誰しも経験しやすいケガの一つです。ボールが当たっても選手はプレーを続行したいという気持ちや周囲を心配させたくないという気遣いから、「大丈夫です」と返答することも多いのですが、本人の判断だけではなく指導者や保護者、審判など大人の客観的な視点から適切な対応を行うように心がけてください。また頭頸部・顔面付近などへのデッドボールは重篤なケースになる場合もあるので、すみやかに医療機関を受診するということも覚えておきましょう。

【デッドボールへの対応】●デッドボールは投球ミスによって起こる突発的なアクシデント●冷却スプレーは皮膚表面の冷却、痛みの一時的な緩和をうながすにすぎない●太ももへのデッドボールは激しく動かし続けると肉離れのように痛みが続くことがある●頭部・頸部へのデッドボールは状況を確認し、すみやかに医療機関を受診すること●顔面への打撲の場合は形成外科のある総合病院へ、歯を損傷した場合は救急対応可能な歯科医へ●「大丈夫」という言葉を鵜呑みにせず、腫れや変形、動きの程度など客観的に判断する

(文=西村 典子)

次回コラム公開は6月15日を予定しております。

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