佐野涼弥(浦和学院)「関東大会優勝を呼び込んだ必殺の縦スライダー」
2年ぶり6度目の関東大会優勝を決めた浦和学院。その原動力となったのが2年生左腕の佐野涼弥だ。1年春からベンチ入りした佐野はこの1年でチームに欠かせない投手へ成長した。今回の関東大会では、4試合に登板。11.1回を投げ、17奪三振、防御率0.00と圧巻のピッチングを見せた。ミスターゼロの称号に相応しい佐野 涼弥の軌跡を振り返る。
対戦した打者の誰も打ちにくいと語る縦スライダー浦和学院の関東大会優勝の軌跡を振り返ると、佐野の快投から始まった。4月27日の聖望学園戦。4対1と3点ビハインドの場面で、6回裏から登板した佐野は、無失点に抑える快投を見せて、チームの逆転勝ちを呼び込んだ。以降も好投を続けた佐野は県大会優勝に貢献。関東大会ではいきなり横浜と対戦。佐野は6回表から登板し、7回表に一死満塁のピンチを招いた。だが強気の攻めで、万波 中正、角田 康生の強打者2人を抑えて、4回無失点のピッチング。準々決勝の前橋育英戦では、5回表、二死一、二塁の場面で登板。前橋育英の好打者・丸山 和郁を投手ゴロに抑え、4.1回を無失点に抑えると、そして準決勝の日大三戦でも2回無失点。リリーフとして待機し、切り札的な活躍を見せてきた。
その佐野を支えるのが縦スライダーだ。この縦スライダーは高校から習得し、先輩投手から握りを教わり、それを自分なりにマスターをしていった。心がけているのはストレートと同じ腕の振りで投げること。力強く腕を振ることによって、落差抜群の縦スライダーが実現。対戦した打者は「曲がりはじめが遅いので、打ちにくい」ともいう。さらに球速は常時120キロ〜125キロ。速度のあるスライダーなので、判別がつきにくいのだ。
縦スライダーの精度が勝ち上がるにつれて冴えわたり、佐野は「自分の生命線の縦スライダーの制球が安定してきたので、自分自身、落ち着いて投げることができましたね」と精神的に落ち着くことができた。そして横浜、前橋育英、日大三と全国レベルを抑える中で、自信を身に付けていった佐野を止められるチームはこの関東大会ではどこにもなかった。
4年ぶりの夏の甲子園へさらなる進化をそして決勝戦。8回表からマウンドに登った佐野は、「自信がある縦スライダーでいきました」と語るように縦スライダーで圧倒。その裏、同点においついて一死満塁で佐野が打席に立った。ベンチを見ると「スクイズ」のサインが出た。スクイズの経験は滅多にないが、佐野はここまで勝負強さを発揮し、見事にスクイズを決めた。
9回表、佐野は3番黒澤昂希に対し、全球縦スライダーで空振り三振。縦スライダーで投げると分かっていても打たれなかった。ここで関東大会で8安打を記録している2年生スラッガー・森下 翔太を迎えた。森下とは3月の練習試合で対戦しており、本塁打を打たれている。そのとき打たれたのはストレート。縦スライダーで抑えることをイメージしていた佐野はストレートを使いながら追い込んでいき、最後は縦スライダーで見逃し三振。リベンジを果たした。5番門馬 大を二ゴロに打ち取り、試合終了。
4試合で、11.1回を投げ、17奪三振、防御率0.00の快投で見事、関東大会優勝に導いたのである。佐野は今大会について「防御率0.00で終わったことは夏へ向けて自信になります」と笑顔で振り返った。そして夏へ向けての課題は「緩急を使える投手になることですね。ここまで縦スライダーばかりでしたので、カーブ、チェンジアップもマスターして、投球の幅を広げたいですし、ストレートももっと磨いていきたいと思っています」さらなるレベルアップを誓った。
近年、浦和学院は左腕投手が甲子園で活躍することが多い。2013年春甲子園優勝投手・小島 和哉(早稲田大)、2015年春選抜ベスト4左腕・江口 奨理(立教大)がいるが、佐野はこの2人に憧れ、レベルアップを努めてきた。
浦和学院は2015年春以来、3季連続で甲子園出場を逃しており、夏は2013年夏が最後となっている。名門としてこれ以上、甲子園から遠ざかることは許されない。
そのキーマンとして、ミスターゼロ・佐野 涼弥が夏になってもどこにも打たれない投手を目指していく。
(文=河嶋 宗一)