関東一vs東亜学園
大会最終日になって、ようやく梅雨明けが発表されたこの日、夏、春、夏の3季連続の甲子園出場を目指す関東一と、27年ぶり（当時は西東京）の甲子園出場を目指す東亜学園の一戦は、魂と魂がぶつかり合う、まさに死闘になった。
複数の投手を擁する両校であるが、関東一は背番号1の佐藤 奨真、東亜学園は背番号10の藤下 凌也という、ともに左腕投手が先発した。
試合は1回裏関東一が四球で出た1番宮本 瑛己を4番佐藤 佑亮の中前安打で還して1点。3回裏にも、左前安打の宮本を二塁に送り、3番米田 克也の右前安打で還して２−０とした。その後、佐藤佑の左飛を落球し、東亜学園は一死二、三塁のピンチが続いたが、藤下が踏ん張った。
すると4回表東亜学園は、一死後、4番の鈴木 翼がライト線に落ちる二塁打を放ち、6番の二階堂奬斗の右前安打で鈴木が生還し、1点差に迫る。
4回裏にはこの日今大会初先発の7番森川 瑶平の二塁打で関東一がチャンスをつかむが、前の回に失策した北澤が、今度はファンプレーをして切り抜ける。
それでも関東一は5回裏、一死後、3番米田が左前安打、4番佐藤佑にボールが３つ先行したところで、東亜学園は、藤下に代え、球威がある身長186センチと長身の青木 大河を早くも投入した。その後一死満塁のピンチを迎えるが、青木は力でねじ伏せ、東亜学園に流れを持ってくる。
7回表東亜学園は一死後、7番土岐大聖が中前安打、8番平野智也が四球で一、二塁となったところで、関東一は佐藤奬から球威のある竹井 丈人に交代。青木の一ゴロで、二死一、三塁となり、1番小野公平の一ゴロは、一塁手の前でイレギュラーし、内野安打になり、土岐が生還して東亜学園が同点に追いついた。けれども、続く池添輝信が四球で歩き、東亜学園のチャンスが続いたが、3番北澤の左中間への当たりを、途中出場の中堅手・本橋 慶人が好捕した。
同点に追いついてからは、東亜学園がやや押し気味。9回表には、二死二、三塁の場面で、4番鈴木翼は1ボール2ストライクからの4球目、レフトポールに向けて大飛球を放つ。3ラン本塁打か。場内は一瞬騒然となったが、惜しくもファール。命拾いした関東一の竹井は、外角低めのストレートで鈴木 翼を三振に仕留め、ピンチを切り抜ける。
緊迫の試合は、西東京大会の決勝戦に続き延長戦に突入。延長10回表東亜学園は、二階堂の内野安打、平野のライト線への二塁打などで二死二、三塁とし、9番青木への初球は暴投に。二階堂が勝ち越しのホームを踏んだ。さらに青木は、三遊間に難しいゴロ。三塁手の山川 新太が捕球できなかった時、東亜学園がもう1点追加したかに思えた。しかし肩の強い遊撃手の村瀬 佑斗が好カバーし、一塁に矢のような送球で青木はアウト。10回表の東亜学園の得点は1点止まりだった。
その裏の関東一の攻撃は、3番米田から。準々決勝の修徳戦で、2本の本塁打で逆転サヨナラ勝ちした時と、同じ打順である。
その米田が中前安打で出塁すると、続く佐藤佑は左前安打。さらに暴投で関東一は無死二、三塁のチャンスを得る。東亜学園の投手陣の中で青木が、一番球威があるため、東亜学園の上田滋監督としても、ここは青木に託すしかない。
続く本橋の二ゴロで、二塁走者が飛び出し、挟まれてアウト。一死一、三塁となったが、本橋は二盗で、二、三塁。続く村瀬は右前安打を放ち、関東一は同点に追いつく。さらに続く森川は、右中間に鋭い打球。東亜学園の右翼手・土岐がダイブして捕球しようとするが、無情にも打球に届かず、本橋が歓喜のホームイン。関東一が甲子園出場を決めた。
その一方で東亜学園の選手たちは、その場にひれ伏し、立ち上がれない。27年ぶりの甲子園には、あと一歩のところで届かなかった。それでも、春季都大会の準決勝で関東一に対戦した時は0対3で、内容的には完敗であった。あれから選手たちは成長した。そして27年前に甲子園に出場した時も、現在も変わらず東亜学園を指導している上田監督の執念がチーム全体を鼓舞し、多くの人の記憶に残る名勝負を演出した。ベテラン上田監督に、もうひと花咲かせてほしいと思わせる、東亜学園の奮戦であった。
一方の関東一は本当に勝負強い。オコエ 瑠偉（東北楽天ゴールデンイーグルス）がいた昨年のような華やかさはないが、個々の選手の身体能力は高く、傷口を広げない野球をする。そして秋季都大会決勝戦の二松学舎大附戦にしても、今大会の堀越戦、修徳戦、そして決勝戦の東亜学園戦にしても、追い込まれてから、抜群の力を発揮する。
今回のメンバーの多くは、ベスト4に進んだ昨夏の甲子園では、地元に残り、黙々と練習を重ねてきた。彼らにとって、甲子園での成績は、東邦・藤嶋 健人投手に完敗したセンバツの成績のみである。甲子園の借りは甲子園でしか返せない。センバツ以降、彼らが胸に刻んできたこの言葉を、いよいよ形にする時が来た。甲子園での健闘を期待したい。
好試合が多かった、今年の東東京大会。敗れたチームの１、2年生には、来年の夏に向けての戦いは、既に始まっている。
（文＝大島 裕史）
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