かつての江戸の町は人情味にあふれ、子どもたちにやさしい町でした。では、妊婦さんに対してはどうだったのでしょう。昔は今のような医療がなかったので、元気な子どもを産むためには、神さまにお願いすることがとても大事なことでした。今回は妊婦さんにまつわる、日本の伝統行事をご紹介します。


町中が妊娠さんをお祝いする、日本独特の伝統行事とは？



現在でも定着している、妊娠5ヵ月目の「戌（いぬ）の日の帯祝い」。
「着帯式」とも呼ばれ、妊婦さんは赤ちゃんが無事に成長するように、と安産の祈願をして腹帯を巻きます。
こうしたお祝いは日本独自のもので、その歴史は古く、なんと古事記にも記載があるほどです。

腹帯は別名「岩田帯（いわたおび）」。
岩のような頑丈な赤ちゃんを産むため、とも言われています。
伝統的な岩田帯は七尺五寸三分……およそ2.5ｍのさらし。
紅白の絹のものと、白い木綿の2種類を用意するのが正式です。

紅白のものは、帯祝いの日にだけ巻くお祝い用のもの。
その年の恵方に向かって巻くと良いとされています。
普段巻くのは白い木綿のもの。
そして、これらは出産後、赤ちゃんの産着やオムツに仕立て直して使うのだそうです。

江戸時代、妊婦さんの「帯祝い」はとても大事なイベントでした。
現代のように医療が発達していない当時、5ヵ月の安定期に入ることはとても喜ばしい出来事だったからです。
当日は妊婦さんの家で赤飯を炊き、村や町から多くの人々がお祝いに訪れます。
そして、村長などの偉い人が腹帯をプレゼントするのです。

腹帯を巻く儀式を担当するのは、仲人さんや、たくさんの赤ちゃんを元気に産んできた経験者。
そして、ここで腹帯を巻いた人は「帯親」と呼ばれ、無事に出産するまでのあれこれをお世話したり、アドバイスしたりするのだそう。

腹帯はその独特の巻き方で、冷えから赤ちゃんを守り、お母さんの背骨や腰などの負担を軽減します。
儀式的な意味だけでなく、医学的にも効果がある日本ならではの伝統なのです。
こうして多くの人に見守られ、お祝いされれば、お母さんもきっと安心して元気な赤ちゃんを産めますね。

文／岡本清香

TOKYO FM「シンクロのシティ」にて毎日お送りしているコーナー「トウキョウハナコマチ」。江戸から現代まで、東京の土地の歴史にまつわる数々のエピソードをご紹介しています。今回の読み物は「日本の伝統、『帯祝い』」として、6月29日に放送しました。

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＜番組概要＞
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