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●なぜ「2年縛り」が存在するのか
スマートフォンのSIMロック解除の義務化や、政府からキャリアに向けた更なる通信コストの削減要求といった要因から、いわゆる「2年縛り」がなくなるのでは、と見る向きも多い。ユーザーにとっては自由にキャリアを選択する余地が増える反面、必ずしもメリットばかりではない、という指摘もある。実際のところ、2年縛りがなくなったら、ユーザーの負担はどのように変わるか考えてみたい。

2年縛りがある理由

携帯電話の2年縛りは、一定期間の継続利用を約束する代わりに、ユーザーにとって通常よりお得な割引を提供する契約、という位置付けだ。割引対象は利用料金の場合と、端末料金の場合があり、最近は両者が一体になっているケースも多い。特に端末料金の割引については、日本でiPhoneをはじめとするハイエンドスマートフォンが、世界の平均と比べても異常なほど普及した一因だと言えるだろう。

確かにお得な話ではあるが、なぜこのような制度が始まったのか。それは携帯キャリア同士が顧客の囲い込みを始めたからだ。携帯電話の普及初期は、縛りを設けなくても新規の顧客はいくらでも期待できた。しかし携帯電話のユーザー数が人口を超えるほどになるに従い、新規ユーザーの獲得よりも、既存ユーザーを手放さないことと、ほかのキャリアから顧客を奪うことに重点が置かれるようになる。

特にMNPが開始されると、電話番号を維持したまま他社に移ることができるようになったため、そのままではより設備や条件のいいキャリアに顧客を取られてしまう。そこで、魅力的な端末を安く購入できるようにするなどしてユーザーを引きつけ、さらに一定期間の解約を封じることで安定した収入の確保を、そして解約しにくくすることで長期的な利用につなげようという作戦なわけだ。

月々の利用料金が安くなる代わりに、途中で解約すると違約金を払わねばならず、また契約が24カ月でも、端末代の支払いが終わるのは購入時から25カ月後になる(=24カ月で解約するとまとめて2カ月分支払う)。

契約は自動継続する設定のため、端末代とのズレもあって、解約のタイミングがわかりづらいという問題があり、消費者庁に寄せられる解約関連のクレームは毎年数千件に及ぶと言われている。2年縛りへのクレームが増えるにつれ、総務書も問題の解消に着手。有識者会議が契約の見直しを提言するに至っている。

●なくなったらどうなる?
2年縛りがなくなったら?

ユーザーから見たとき、2年縛りがなくなるメリットは、ユーザーがいつでも自由にキャリアを変更したり、解約する自由が得られることだ。家族バラバラだった契約を一つにまとめる、あるいは他社で魅力的な端末が登場したら乗り換える、といったことが、時期を問わずできることになる。現在はSIMロック解除も義務付けられているため、iPhoneのようなマルチキャリア対応の端末であれば、ロック解除後は端末はそのままで、好きなキャリアを選べる。

一方で、当然ながらデメリットもある。現在の安価な端末代は、いずれも月々サポートなどと呼ばれる24回の割賦契約に基づくものだ。前述のように顧客の囲い込みのための割引だが、これがなくなれば、現在実質0円かそれに近い格安で入手できているiPhoneなどの高級スマートフォンは、いずれも10万円近い端末料金をユーザーが負担することになる。

また、現状でも2年縛りの有無により、月々の利用料金は大きく異なる。たとえばソフトバンクでiPhone 6sを購入した場合、基本料金に「通話し放題プラン(スマートフォン)」「同ライトプラン(スマートフォン)」を選ぶと、2年契約では月々2,916円(ライトプラン:1,836円)だが、2年契約なしでは4,536円(ライトプラン:3,456円)と、1,620円の差がある(2年間では38,880円になる)。これが全てのユーザーに降りかかる可能性もあるわけだ。

●果たして本当になくなるのか
○本当になくなるの?

携帯料金の引き下げは首相直々の発言だけに、方向性としては今より安価なプランは増えるだろう。だが、キャリア各社としても収入減はなんとか避けたいでところであるため、2年縛り解除が有名無実化する可能性は高い。いくら総務省が旗を振ろうと、少なくとも、いきなり全廃という選択肢はないはずだ。

総務省からの2年縛りの見直しが要求された直後の今春には、3社とも2年契約を違約金なしに解約できる更新期間を、現状の1カ月から2カ月に延長。さらにメールなどで更新月を告知するなどの改善案がつぎつぎと報道された。また、2年ではなく1年縛りのプランを用意したり、auの田中社長が決算発表の席上で、最初の2年だけを割引き、あとは好きな時期に解約やMNPできるプランの提案を行うなど、プランそのものの見直しも示唆され、ユーザーに有利な環境作りが進むかのようには見えた。

ところが、このニュースが報道されたときには、3社とも今年の10〜12月の間に更新月を延長するという話だったのだが、12月10日現在の段階でも3社とも、1カ月のままなので、うやむやになっている可能性が高い。1年縛り、あるいは2年目以降を自由契約にする新プランというのも、いまだに登場していない状況だ。

細かいことを言うと、かつてソフトバンクは2010年に、「ホワイトプランN」という、初回契約時のみ更新月が25カ月目、26カ月目の2カ月あるプランを導入したことがあるのだが、2012年には受付を終了し、ふたたび更新月が25カ月目のみの新プラン「ホワイトプランR」(現行のホワイトプラン)に置き換わっている。このときは更新月の表示が乱れて混乱が大きかったことなども原因の一つと考えられるが、キャリアにとって更新月の延長が、あまり望ましくなかったこともあるだろう。

さらに、ドコモとソフトバンクはMNP転入者が端末を割引購入できる代わりに、一定期間内に料金コースを変更した場合、解除料として割引額の返還を求められる「端末購入サポート」(ドコモ)、「のりかえサポート」(ソフトバンク)が、半年から12カ月と伸びており、実質的には以前よりも環境が厳しくなっていると言える。

総務省の旗振りに対し、キャリア側が必死の抵抗を見せ、結局はなし崩し的に骨抜きにされるという展開は、過去にも何度となく繰り返されてきたものだ。2年縛りについてはユーザーにもそれなりのメリットがあるだけに、総務省が計画しているとおりにはなかなか進まないだろう。ただし、MVNOの普及や安価なSIMフリー端末の普及など、ユーザー側の選択肢が増えていることもあり、キャリアの抵抗が必ずしもキャリアの狙い通りにいくとは限らない時代にもなっている。

キャリア自身の利益が確保されるのも重要だが、ユーザーにとって不便な環境を作るのでは本末転倒だし、何よりサービス業として、あってはならないことだろう。段階的にで構わないので、ユーザーの利便性を重視したうえでの決着を望みたい。

(海老原昭)