【小島啓民の目】早実・清宮、九州国際大付・山本に見る時代の流れと日本野球の未来
今夏の甲子園に見られる豪腕投手の減少と打撃力の向上
連日の猛暑によって、テレビでは「記録的な……」という表現が毎日のように使われています。「この先地球はどうなっていくのだろう」と思うほどですね。温暖化の影響は着実に迫っています。これだけ暑いと甲子園で熱戦を繰り広げている高校野球選手も大変です。
2回戦は試合間隔が空いていることもあり、まだ何とかなりますが、決勝に進むにしたがって連戦となっていきます。昔は、投手の疲労だけを心配しておけば良かったのですが、これだけ暑いと野手の疲労も心配しなければなりません。特に防具をつけているキャッチャーは、暑さによる疲労は相当なものだと思います。夏のバッティング練習の際に、捕手(野球界では、バッキャと呼ばれる)をするのが、暑くて一番嫌だったことを思い出します。
これ以上暑くなると高校野球の開催時期も今後は考えないといけなくなりますね。まだ、脱水症状で痙攣する程度で、試合が中断するくらいで済んでいますが、そのうち重症者が出ないとは言い切れません。高温注意報が発令された時には、屋外でのスポーツは禁止するなどの条例が今後できるのかもしれません。
さて、話を高校野球の話に戻しますが、今大会は、8点差を追いついた高岡商と関東第一の対戦をはじめ、序盤に大きくリードされてからジリジリと追い上げるという試合が多く、見応えがあります。それだけ、高いレベルで力が接近しているということになるのでしょう。
反面、今大会は、ずば抜けた豪腕投手が少ないような気がします。どちらかというと緩急を上手く使ったクレバーな投手が多いようです。最近、高校生でも落ちる系(フォークやスプリット)を投げないと抑えられないという傾向にあるのかもしれません。速い球を投げるだけでは、打者に捕まる傾向が強いようです。
それだけバッティングが良くなっているのかなとも見受けられます。打撃陣は、ここ数年の間、年々打ち方が良くなってきているように思います。特に大きくゆったり構える選手が多くなってきました。それから、手先でバットを操作するのではなく、ボディーターンでバットを振る選手が多くなっています。
長距離打者の育成に明るい兆し
早稲田実の清宮幸太郎、加藤雅樹の左打者の3、4番や九州国際大学付属の右の岩崎魁人、山本武白志の3、4番に代表されるようにスケールの大きな選手がクリーンアップを打つ傾向が強くなってきことは喜ばしい限りです。ひと昔前の4番打者は別として、3番打者は、左打者で足が速く、ボールを捉えることが上手い選手が多かったイメージが強かったのですが、今大会を見る限り、クリーンアップの打者は、しっかり振り切るようになってきたと思います。
過去に優勝した智弁和歌山や大阪桐蔭の野球が良い影響を与えたのでしょう。侍ジャパンに携わった一人として、長年の課題である長距離打者の育成に明るい兆しが見え始めたことは嬉しい限りです。
プロ野球でもソフトバンクホークスの柳田選手や日本ハムの中田選手、それから西武ライオンズの森選手に代表されるように日本人打者でも思い切ってバットを振る選手が多くなってきました。一時期のイチロー型の打ち方も減少してきました。これも時代の流れなのでしょうか……。
我々アマチュア指導者が「しっかリ振り切らないと力強い打球が飛ばない」と声をあげても、なかなか現場まで届かなかったのが、それに類似したプロ野球選手が活躍し出すと簡単に浸透していきます。そういった意味では、プロ野球選手の責任は重大です。
話は変わりますが、大昔の我々の時代の高校球児は、特に甲子園の初戦は非常に硬くなっていたものです。しかし、最近の高校生は場慣れしている感じを受けます。予選から良い球場で、多くの観客の中で試合をして慣れているためか本当に緊張しているなという場面が少ないのです。
ただ一方で、追い込まれた瞬間に表情や動作が極端に変わる選手が多くなっているように感じます。ある意味、真面目で責任感が強い表れなのでしょうが、開き直りと気持ちの切り替えが上手くないなのかとも見受けられます。特に投手において、動揺している表情が画面を見てもすぐに分かる選手は多いですね。
早実‐九州国際大付戦にも注目、早稲田大OBの監督対決に
昔はポーカーフェイスが良い投手の条件と言われたものです。マウンド上で表情を変えると打者に心理を読まれることになる。淡々と投げることが、いわゆる好投手と呼ばれる条件だったわけです。
今は、ニコニコ笑いながら楽しそうに投球をする選手が多くなってきました。無表情で淡々と投げるより見ている方からすると楽しさが伝わってきて、それ自体は悪いことではないと思いますが、それだけにいかにピンチの時にその心理状態を続けることができるのかということが課題でしょうね。開き直れと言われても、そう簡単に気持ちを切り替えるのは簡単ではありません。「抑えなければ」と思えば思うほど、慎重になりすぎて、逆効果になる場合もあります。
そういった場面を迎えた際には、「自分が一番下手くそなんだ」と思うこが対処方法の一つです。
抑えるか、打たれれるかは「投げてみないと分からない」ものです。色々考えるよりも、「自分が一番下手くそだから上手くいかなくても仕方ない、自分のベストプレーを心がけよう」とプレーに集中することで、投手であれば腕が振れ良いボールが投げられるようになります。よく「生きた球」と「死んだ球」というような表現が野球界ではなされますが、球に命を吹く込むという解釈でしょうから、リリース時に迷いなき心でボールを放すことができるか否かが重要ということになるのでしょう。
今年の夏の甲子園、残ったチームは、すべて良い打線を抱えています。立ち向かっていく投手には、非常に辛い状況ですが、是非、生きた球で勝負をして欲しいと思います。
それと先日、早実の清宮が本塁打を打ちました。次の九州国際大学付属との試合は、早実・和泉監督、九州国際大付属は楠城監督と早稲田大OBの監督対決となります、父親が著名人の清宮、山本の対決も見どころとなるのでしょう。猛暑続きですが、連日、毎試合、観客が入っているように感じます。日本人は、高校野球が大好きなことを改めて実感しました。
小島啓民●文 text by Hirotami Kojima
1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年〜2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。