【記録トリビア 奪三振編】 甲子園で伝説を残した板東英二、斎藤佑樹、松井裕樹の夏を振り返る
甲子園は数々のドラマを残すと同時に記録も残っていく。今回は記録の面から甲子園を振り返っていきたい。今回は奪三振について迫っていく。
エースとして奪三振も多く取るのと同時に甲子園決勝に導いた板東、斎藤の両投手奪三振1位は板東英二氏の83個。これは今も破られていない偉大な記録である。83奪三振を記録した1958年。いきなり2回戦の秋田商戦では17奪三振を記録。3回戦の八女戦でも15奪三振を記録。そして準々決勝の魚津戦では村椿輝雄投手と熱い投げ合いを演じ、延長18回まで0対0のまま決着がつかず、再試合へ。板東はこの試合で25奪三振の快投。再試合でもマウンドに登った板東は、完投勝利を挙げ、9奪三振を取った。
そして準決勝の作新学院戦でも、14奪三振、1失点完投勝利を挙げ、決勝進出。いよいよ優勝をかけた決勝戦。しかし疲労の影響を隠すことができず、打ち込まれ、0対7で敗戦。だが6試合すべてを完投。63イニングで83奪三振と、驚異的な成績である。卒業後は中日ドラゴンズ入り。11年間プレーし、77勝65敗と一流投手として活躍を見せたが、現役引退後も、解説者、芸能人としてマルチな才能を発揮している。これからも元気な姿を見せてほしい。
甲子園で伝説を残した斎藤佑樹投手(北海道日本ハムファイターズ)
そしてこの奪三振記録に迫ったのは斎藤 佑樹だ。入学時から煌めく才能を秘めながら、2005年夏の西東京大会準決勝で日大三に打ち込まれ、挫折を味わった。その悔しさを乗り越え、2005年秋季東京大会準決勝で日大三を完封勝利し、決勝進出を決めるとその勢いで東京大会優勝を決め、2006年選抜出場を果たす。しかし準々決勝で横浜に敗れ、悔しい負けを味わってきた。この負けをさらに大きくし、2006夏の西東京大会決勝は再び日大三と対戦し、再び日大三を破って甲子園出場を決める。
2006年の夏の甲子園では、まず1回戦の鶴崎工戦で7奪三振の快投を見せると、そして2回戦は中田 翔(北海道日本ハムファイターズ)など強打者を揃えた大阪桐蔭相手に11奪三振、2失点完投勝利を挙げると、3回戦の福井商戦では5回表に1点を失うが、6回裏に4点を取って逆転に成功。斎藤も本塁打を打つなど、投打で活躍。1失点、7奪三振の好投で完投勝利。斎藤はさらに調子を上げていき、準々決勝の日大山形戦では10奪三振を取り、2失点完投勝利で準決勝に勝ち進む。準決勝では鹿児島工戦と対戦。連投が続くが、斎藤はさらに調子を上げていき、散発3安打、13奪三振で初の完封勝利を挙げ決勝に進出する。
迎えた決勝戦。相手は夏3連覇を狙う駒大苫小牧。現在、ニューヨークヤンキースで活躍する田中 将大(インタビュー)は不調ながら140キロ後半の速球と縦に鋭く落ちるスライダーを武器に次々と強豪を破っていた。試合は激戦。9回まで決着がつかず、1対1の再試合に。斎藤は15イニングを投げて16奪三振の快投。そして再試合でも斎藤はマウンドに登る。
立ち上がり当初、連投の疲れを隠せず、130キロ台だったが、尻上りに調子を上げていくと、140キロ台の速球とキレのある変化球で奪三振を積み重ねた。4対3のまま迎えた9回表、斎藤は球速が衰えることなく、常時140キロ台をマークすると、最後の打者となった田中をストレートで空振り三振に打ち取り、見事に甲子園優勝投手となった。甲子園という舞台が斎藤の潜在能力を発揮させた。
斎藤は板東投手を上回る69イニングを投げ、78奪三振。二桁奪三振は計5回と抜群の投球内容であった。決勝戦の24イニングは今でも語り継がれる熱投で、伝説を残した1年であった。
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[page_break:前人未到の奪三振率17.00を記録した松井裕樹!]前人未到の奪三振率17.00を記録した松井裕樹!そして3位は2012年夏の甲子園で68奪三振を記録した松井 裕樹投手だ。神奈川大会では2011年春から4季連続出場を狙う横浜を破る原動力となった松井の武器は145キロを超える速球と縦に鋭く落ちるスライダー。左腕からこのレベルの球速と縦スライダーを同じ腕の振りで投げ込まれたらとても打てるものではない。神奈川の各校の打者が対応に苦しんだように、甲子園でも全国の各打者が苦しむ。
迎えた今治西戦(試合レポート)では145キロの速球と縦スライダーで今治西打線を翻弄。驚異的なペースで奪三振を重ねていき、なんと22奪三振で完封勝利。このド派手なデビューに甲子園が熱狂。一躍、甲子園の主役となった。2回戦の常総学院戦では5失点するが、19奪三振完投勝利。さらに3回戦の浦添商では12奪三振完投勝利で、準々決勝進出する。
驚異的なペースで奪三振を取った松井裕樹選手(桐光学園高時代)
準々決勝では北條 史也、田村 龍弘が引っ張る強打の光星学院と対戦。連投の疲れがあったとはいえ、松井が投げ込む140キロ台の速球、縦スライダーに各打者が苦しむ。しかし北條、田村の2人は違った。7回まで無失点に抑えていた松井だったが、8回表、二死一、三塁のピンチを招き、田村。田村はすり足に近い状態でタイミングを取り、松井の内角ストレートを捉え左前適時打で1点を失うが、さらに北條には、2点二塁打を浴び、3失点。松井は15奪三振を取るが、打線が光星学院を攻略できず、完封負け。松井は準々決勝で甲子園を後にした。だが4試合で36イニングで68奪三振。板東が63イニング、斎藤が69イニングを投げたことを考えれば、驚異的なペースである。もし準決勝、決勝までいけば、2人の記録は抜いていたかもしれない。
しかし奪三振率17.00は野球を見ている方するとアンタッチャブルな記録である。今年の甲子園を見ていてもそんなに三振を奪えるものではないだからだ。疲労が溜まる準決勝以降は、奪三振は増えても、これまでのペースは期待でできず、奪三振率は減っていたかもしれない。準々決勝で終わったからこそ松井が残した奪三振率は、板東同様、なかなか破られない記録になるのではないだろうか。
投手、奪三振が全てではないが、驚異的なペースで三振が取れる投手は、高校レベルで圧倒的な能力を秘めている証拠であり、やはりワクワクする。そんな剛腕投手が出てくるのか、注目をしていきたい。
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