アギーレジャパンを診断する
サッカージャーナリスト座談会(2)

アギーレ監督は、日本代表のシステムに4−3−3を採用。6試合の親善マッチでも、すべてその布陣でスタートした。そこで今回は、アギーレ監督の目指すサッカーとともに、監督の代名詞でもある4−3−3システムが日本代表に合っているのか、サッカージャーナリストの杉山茂樹氏、浅田真樹氏、中山淳氏に検証してもらった。

■「4−3−3」は日本代表に適しているか

―― 今回は、アギーレジャパンが実践するサッカーについて、お話をうかがいたいと思います。ここまでの6試合を見て、アギーレ監督が目指すサッカーというのは、少なからず見えてきたのでしょうか。

中山:まだ、でしょうね。この6試合で、何かしらの方向性を示して、何かひとつでも形を作っていこうという姿勢は見られなかった。あくまでも、1月のアジアカップに臨むメンバー選考をメインにして、選手個々の(力や特長の)見極めに時間を割いていたと思います。そのため、メンバーはほぼ固まったけれども、具体的なサッカーの中身までは、何も構築できていない。そうすると、ほぼぶっつけ本番に近い状態でアジアカップに挑むことになるので、思わぬところで足もとをすくわれてしまうかもしれませんね。

浅田:アギーレ監督のコンセプトは、基本的にはオーソドックスなものだと思う。まずは守備を重視して、手数をかけずにゴールを狙っていくスタイル。ただ今は、若干そういう要素が垣間見えるぐらいで、アギーレ監督の目指すサッカーはどんなものなのか、そしてそれができているのか、できていないのかっていう話をする段階にはない。アギーレ監督自身、サッカーについて何か問われても、「まだそこまでやっていませんよ」っていう感じじゃないかな。確かに、11月のホンジュラス戦(6−0)で、本田圭佑(ミラン/イタリア)が前線に残って、そこにロングボールを入れて速く攻める、という形は、ザッケローニ監督時代には見られなかった。そういう縦に速く攻める、という狙いが見えた部分もあるけど、現状はその程度でしょ。

杉山:まだ、アギーレ監督が実践していこうとする、スタンダードなものは見せていないよね。メンバーも、はっきりとは決まっていないし。そういう状況にあって、アギーレ監督のサッカーについて、今は評価のしようがない。それは、アジアカップを見て判断していけばいいんじゃないかな。

―― サッカーの方向性やスタイルはまだ見えなくても、アギーレ監督が志向するサッカーのベースには、4−3−3というシステムがあるように感じました。日本代表がそのシステムで戦っていくことについては、どう思われますか。

中山:4−3−3と言っても、いろいろな形があるので一概には言えないんですけど、今のスタイル、要するに中盤の底に位置する選手が上下しながら全体のバランスをとるという形の場合、その前の、2列目の両サイドはかなり重要なポジションになる。求められる仕事が多く、前線にも顔を出して、ボールも奪えなければいけない。運動量が豊富で、オールラウンダーでなければいけない。理想的な選手像を挙げれば、イングランド代表のジェラード(リバプール)や、ランパード(マンチェスター・シティ)ということになるんだけど、これまでそのポジションで起用された選手は、そういうタイプではない。日本全体を見渡しても、適役と言える選手は見当たらない。そういう意味では、4−3−3でいくのは厳しいんじゃないかな、と思いますけど......。アギーレ監督は「4−3−3をベースにして、状況によっては4−4−2、4−2−3−1を併用していく」と言っていますから、最終的にはどのシステムをベースにするのか、今後を見てみたいですね。

浅田:U−21代表の選手に話を聞いても、「4−2−3−1のほうがやりやすい」って言うんだよね。周囲の選手との距離間を含めて、全体のバランスをとりやすいって。察するに、日本の選手はみんな、2ボランチに慣れているというか、中盤の底に"ふたりいる"ことで、安心感を持っている。そこがひとりだと「怖い」みたいな。そう感じてしまうのは、日本ではどうも、中盤の底がひとりだけだと、その両脇のスペースを相手に使われる、という認識が強いから。それで、中盤の底を1枚にしてやることに抵抗感を感じている選手が多いような気がする。だからといって、それで4−3−3をやらない、というのはどうかと思う。どんなシステムだって、きっちりスペースが埋まるものではないからね。中盤の底が1枚であれば、そこには別のメリットがあるわけでしょ。そこを、もっと考えるべきなんじゃないかな。

杉山:そうだね。まずはこの世の中に、なぜ4−3−3が存在するのかってことを考えないといけない。そこには、必ず利点があるわけなんだから。要は、浅田くんが言うように、日本の選手はまだ4−3−3に慣れていないだけ。他のサッカー関係者やメディアも含めてね。だから今は、「4−2−3−1にすべき」という意見が多数派になっている。でも、個人的には4−3−3をやっていけばいいと思っている。だいたい、かつて3−4−1−2が日本でメインだった時代に、僕が4−2−3−1の採用を提唱したら、「そんなの日本では絶対に流行らない」っていう人がたくさんいた。それが今では、4−2−3−1が日本では当たり前になった。そのことを思えば、そのうち4−3−3が日本サッカーの主流になっても不思議ではないよ。

中山:ポイントになるのは、やはり中盤の2列目のポジションに誰を使うか、ですね。

杉山:確かに、そこで遠藤保仁(ガンバ大阪)と香川真司(ドルトムント/ドイツ)を併用するのは、どうかと思う。今回、遠藤を呼んだのは初めてだったから、アギーレ監督が遠藤を使ったのは仕方がない面もあるけど、守備力を考えたら、あのポジションを遠藤に任せるのは厳しい。もちろん、香川にしても、あれだけ相手にボールを奪われているようでは、2列目のあのポジションは厳しいよね。

浅田:でも、まだ試していない選手もいる。特にFC東京のMF米本拓司は、2列目の中盤で試してほしい選手のひとり。守備力はもちろん、攻撃センスも高いからね。米本にとっても、その位置が最も力を発揮できるポジションだと思う。

杉山:川崎フロンターレのMF大島僚太なんかも面白いと思うよ。フロンターレではボランチをやっているけれども、もともとサイドアタッカーをやっていたからね。結構、適任なんじゃないかな。何にしても、攻撃的な4−3−3から、やや守備的な4−1−4−1へと流動的に調整できるメリットもあるし、4−3−3は4−2−3−1にも移行しやすくて、すごく幅があるシステム。そのまま継続していけばいいんじゃないかな。

■深刻な問題となっている「若手選手の人材不足」

―― 中盤の2列目の選手は、これからさらに選考を重ねる必要がありそうですね。ところで、中盤の底の選手はいかがでしょうか。11月の親善試合では、2戦とも長谷部誠選手(フランクフルト/ドイツ)が務めました。

中山:アギーレ監督がもっと選手の特長を理解してきたら、長谷部を中盤の2列目の左右どちらかで起用して、細貝萌(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)や今野泰幸(ガンバ大阪)みたいなボールを奪う能力に長(た)けた選手を中盤の底に配置するんじゃないでしょうか。

杉山:確かに、長谷部は前で使ったほうがいいかもしれないね。年齢を重ねてポジションを下げたけど、もともとは2列目の中盤をこなせる能力があるわけだし。まあ、それはいいとして、僕が監督だったら、中盤の底には内田篤人(シャルケ/ドイツ)を使ってみたい。内田はサイドにいても、全体がよく見えていて、常にバランスをとりながらプレイしている。守備もできるし、ボールさばきも悪くない。何より、落ち着いていて、大舞台になっても慌てないのがいいよね。中盤の真ん中には、そういう選手が適任。内田のよさも、より生かせるんじゃないかな。

中山:僕も、内田はこのポジションができると思います。現状、右サイドからの景色しか見ていないから、まずは準備段階として何試合か左サイドバックをやらせて、左右のプレイバランスをとってもらう。そのあとに中盤のセンターにコンバートすれば、結構面白いんじゃないかな、と思います。

浅田:まさに、ドイツ代表のラーム(バイエルン・ミュンヘン)みたいなイメージだよね。

杉山:中盤の人選も問題だけど、僕がいちばん懸念しているのは、センターバック。アギーレ監督としては、マイボールのときには、センターバックのふたりと中盤の底の選手がバランスをとって、その三角形でボールを回しながら、攻撃を組み立てていきたい意図があると思う。でも、今の日本代表のセンターバックは、パスの能力が決定的に不足している。ふたりとも、キックの精度が悪過ぎる。

浅田:それって、吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)と森重真人(FC東京)のこと? 吉田も、森重も、日本のDFの中では、最もボールコントロールに優れた選手たちですよ。彼らが「ダメ」ということになったら、それこそ、誰もいなくなっちゃう(笑)。

杉山:そうなんだよね、そこが問題なんだよ......。ないものねだりの話になっちゃうから。だけど、もう少しやってくれよって......。

―― ここまでの話を聞いていると、6試合を消化して露呈したいちばんの問題は「日本サッカー界の人材不足」という印象があります。

杉山:それは、大いにあるよ。特に、若い選手がいない。

浅田:今回の6試合でも、19歳、20歳くらいの選手を大量に招集して、それでテストしてみたけど、まだちょっと厳しかった、という話ならまだいい。でも実際は、新戦力として呼ばれた選手のほとんどが、22歳から25歳くらいの選手。世界的に見れば、とても「若手」とは言えない選手ばかりだった。そういう現実を目の当たりにすると、不安が募る。

杉山:次のW杯を考えれば、今の年齢にプラス4歳で考えなくちゃいけない。それでいくと、今20歳くらいの選手が何人かいないと困るわけ。

浅田:そう。武藤嘉紀(FC東京)とか柴崎岳(鹿島アントラーズ)が今20歳で、それでスタメンを狙えるような立ち位置にいるのであればいいけど、彼らもすでに22歳だからね。

―― 確かに、新戦力のように映っている太田宏介選手(FC東京)にしても、もう27歳ですからね。

杉山:4年後には、31歳だよ。そのときには、今より動けなくなっていてもおかしくない。やっぱり、代表のチーム作りはW杯開催年から逆算して考えないと。

浅田:過去には、予選では主力だったカズ(三浦知良/横浜FC)や中村俊輔(横浜F・マリノス)が、W杯本番直前でメンバーから外れたり、先発でなくなったりという例もある。今の代表で絶対的なエースとして君臨している本田だって怪しい。4年後には、32歳になるわけだから。このまま本田に頼ったチーム作りをしていたら、本番前にあたふたするはめになるかもしれない。

中山:そういう意味でも、この前のホンジュラス戦なんか、本田をフル出場させる必要なんてなかった。後半からでも他の選手を試して、本田不在のオプションを常に準備しておくべきでしょ。

杉山:最後の30分でもいいから、本田を下げて他の選手を使うべきだろうね。それで、代わりに出た選手が本田よりダメでも仕方がない。そこは経験だから。誰かを試すことに意義がある。2018年のことを考えれば、本田をこのまま使い続けるほうが、明らかに危険だよ。

―― アギーレ監督は、本田不在という状況を想定していますかね?

杉山:そこは、大丈夫だと思うよ。4年間の代表監督を経験している人は、普通はそういう感覚を持っているはずだから。

浅田:あと、本田のことで気になるのは、相手が違うから一概には言えないことなんだけど、最近は必ず2試合目のほうが、パフォーマンスが落ちているように見えること。日本代表は、本田のパフォーマンスがそのままチームのパフォーマンスに影響するほど、彼への依存度が高いわけだけど、もうそれほどあてにできない選手になってきているのも事実。

杉山:だからこそ、アギーレジャパンは早いこと"本田ジャパン"から脱却する必要がある。もちろん、本田はいていいんだよ。十分な戦力だと思うし。でも、浅田くんが言ったように、彼の出来次第でチームの善し悪しが決まるようでは困る。これから年齢をさらに重ねていくわけだし、あくまでもチームの駒として考えるようにしていかないと。無理をしてでも、誰か別の選手を試して、育てていかないといけない。そうしないと、4年後に希望が持てないよね。

(つづく)

スポルティーバ●構成 text by Sportiva