サポーターにはもっとドライな見方も必要 小澤一郎氏にサッカー移籍ビジネスを聞く
Jクラブに足りない情報開示 小澤一郎氏にサッカー移籍ビジネスを聞く(2/4)から読む
――「サッカー選手の正しい売り方」は2月9日に出版されまだ日が浅いですが、どういった反響がありましたか？
小澤 Twitterで見ている限りでは「面白かった」「ためになった」という感想はありましたね。ある程度の手応えはつかんでいます。
――具体的に、どういう層に手にとってほしいと思っておられますか？
小澤 ライトユーザーには、一見して手に取りにくい本かもしれません。移籍ビジネスの話になるので、「そこまでのサッカーファンじゃない」「Jリーグサポーターではない」という人もいると思います。
――小澤さんのTwitter上の発言で、「自分はライト層だと思っている人にこそ手にとってほしい」というものがありました。
小澤 そうですね、自分たちで縛りを設けている気がするので。「自分はサッカーを知らないから」と戦術本や観戦マニュアルに飛びつく人はまだまだ多いと思うのですが、そういう枠を取っ払って、好奇心を持っていろいろなものに飛びつく姿勢が必要だと思います。
私は海外に出てからサッカージャーナリストの活動を始めたのですが、バレンシアに毎年1回来るOLの人たちがいました。2002年の日韓ワールドカップで、アルゼンチン代表のパブロ・アイマールを好きになって、アイマールの所属チームであるバレンシアに来たのがきっかけとか。
彼女たちは「私はサッカーを全然知らないから」と言うのですが、いざ話してみるとすごくよく知っている。自分で気づかないうちに、体系的にサッカーを観てきた、やってきた人よりも深い話ができるようになっているんですね。なので、あまり「自分はこうだ」「この本はこうだから自分には関係ない」と決めつけないでほしいなと。
まあ、金額的にやや高い(税別1,600円)かもしれませんが、その時は図書館やブックオフでも(笑)。新刊だけを買ってほしいとは思わないので、この本を手にとっていただけるならどういう形でもいいかなと思っています。
――小澤さんが観測した範囲で、移籍制度変更後の日本のサッカーファンについてどういう感想をお持ちですか？
小澤 この書籍で稲本潤一(川崎)選手に取材した際、彼が言ってくれているのですが、どうしても日本の場合選手から入ってクラブを好きになる傾向があります。「あの選手がいるから、このクラブを応援しよう」となる。そういう形でのサポートが多いんですが、ヨーロッパだと「クラブがないと、サッカーというスポーツビジネスは成り立たない」という認識が一般に浸透しています。
そういう大前提があるので、クラブありきの考え方になる。どれほど愛されている名選手でも、クラブにデメリットとなる行動を起こした時には「それは違うんじゃないか」という批判が出ます。そういう部分が日本はまだまだですかね。
ある意味選手をしっかりサポートしているとは思うのですが、クラブに育ててもらった選手が「今までありがとう」という言葉だけで出ていこうとしているときに「なんだそれは」と言えない。そういうムード、土壌がない。そこは問題かなと思いますね。
――具体的に、そういったリテラシーを高めていくにはどうすればよいでしょう？
小澤 大前提としてクラブが存続しなければ良いチームは作れない、給料を払えないということがあります。どうすればクラブが繁栄していくのか、強くなるのか。日本人にとってそういう商習慣なりお金の話をするのは苦手な部分かもしれませんが、もう少しドライに議論する必要があるのかなと思います。億単位でお金が動けば夢があると思うし、その辺の話はオープンにしていくべきかなと思います。
ヨーロッパのクラブだと、チームがうまく選手を売却できれば情報を出すけど、選手を抜かれたら出さないとか。バランスは欠けているかもしれませんが、手柄となる情報は積極的にアナウンスしています。見習うべきところは見習うべきかな、と思います。
――サポーターにはクラブの財政事情がわからないから、懐事情とはかけ離れた要求が増える部分も確かにあるのかもしれません。
小澤 どれぐらいお金があるのか、ないのかという情報は大事でしょうね。スペインだとクラブは言わなくてもメディアが勝手に情報をガンガン流しますし、それによってイヤな部分も出てくるんですけど(笑)、日本の場合オブラートに包まれている感じがありますね。
「これだけ経営が苦しい」というのも具体的な数字じゃないとわかりにくい。広島へ取材に行ったとき、「久保竜彦や藤本主税の移籍金でこれだけ立派な人工芝を作りました、施設を作りました」ということを紹介されました。選手の移籍金を施設に還元し、そこからもっと良い選手を生んでいく。そういう話を聞いたときに「これは素晴らしいことだな」と。そういうことは、どんどんアナウンスしてほしいし、私ら（メディア）もすべきだなと思います。
＜4/4へつづく＞
小澤一郎(おざわ・いちろう)
1977年生まれ。京都府出身。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。2004年にスペインに渡り、バレンシアを拠点に活動を始める。スペインでは少年サッカーのコーチも務め、その指導者的視点からの取材活動で様々なメディアに寄稿。2010年3月、5年のスペイン生活を終え帰国。スポーツナビ、footballista、中学サッカー小僧、サッカー批評、サッカークリニックなど数多くの媒体で執筆中。
著書に『スペインサッカーの神髄』(サッカー小僧新書)『FCバルセロナ 史上最強の理由』共著(洋泉社)『モウリーニョVSグアルディオラ』翻訳(ベースボールマガジン社)『サッカー選手の正しい売り方』(カンゼン)。有料メルマガ「小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」」も好評配信中。
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