スマートフォンの急激な普及により、日本の携帯電話回線がパンク寸前になっている。

 スマホ向けのアプリはグーグルマップなど、サービス自体がデータ通信利用を前提としていることが多い。これらは携帯電話キャリア自身が提供しているものではないため、回線への負担などまったく考慮していないのだ。しかも、皮肉なことにそうしたアプリに限って便利で面白く、ユーザー人気が高かったりする。

 また、一部ユーザーがパケット料金定額制をいいことに、つなぎっ放しで大量のデータのやりとりを行なっていることが事態をさらに深刻化させている。そのようなユーザーと同じ基地局圏内にいるほかの利用者には、遅い、途切れるなどデータ通信に支障が出ているのだ。

 こうした状況に、各キャリアの経営陣も、増加を続けるデータ通信量が現在の通信網のキャパシティを超えてしまう事態を危惧している。

「毎年、前年比2倍のペースで通信量が増えている……」(NTTドコモ・辻村清行副社長)

「2013年には、われわれのデータ通信量の飽和点に達してしまう」(KDDI・田中孝司社長)

 もちろん、最悪の結果を招かぬように、各キャリアとも、より容量の大きな通信インフラ整備を進めているのだが、それでも通信量の増加ペースに追いつかれかねないところまできている。

 そんなヤバい状況に歯止めをかけるため、現在のスマホ用パケット料金定額制を廃止し、従量制に移行する案が浮上してきている、と各メディアが報じ始めた。従量制にすることで、ユーザーのデータ通信を抑えさせるのが狙いだという。

 定額制だからこそ、これまでユーザーは料金を気にせず各種アプリを思う存分使えたのだ。それが仮に完全従量制となれば、標準的な利用者でも通信料金だけで月3万〜5万円は優に超えるとされる。このご時世に毎月そんな大金を払えるわけがない。便利さや楽しさを求めてスマホに機種変更したのに、今後は通信料金を気にしながらチマチマ使わなきゃいけないの……!?

 が、どうやらそこまで心配する必要はなさそうだ。携帯電話ライターの佐野正弘氏はこう分析する。

「少なくとも、完全従量料金制への移行はないでしょう。今は各キャリアとも契約者数を増やすことに必死になっていますから、ユーザーからそっぽを向かれかねない料金体系は導入しないはずです」

 ただし、今の形の定額制が見直される可能性はあるのだとか。

「あらかじめ定められたデータ通信量までは定額料金だけど、限度量以上になると、そこからは従量制という料金プランになることは考えられますね」(佐野氏)

 え? じゃあ、やっぱりパケット代に毎月ウン万円払わなきゃいけないってこと?

「いえ、標準的なスマートフォン利用者なら定額料金の範囲で収まるはずですよ。要はヘビーユーザーに対して、使った分は負担させる体系にしようということです」(佐野氏)

 まずはひと安心。しかし、スマホユーザーは今後も増え続けることが確実。携帯回線の混雑はどうクリアしていくのだろう?

「各キャリアとも全国的に公衆無線LAN基地局(Wi-Fiスポット)を急ピッチで増設し、ユーザーのデータ通信をこちらに振り分けようとしています」(佐野氏)

 Wi-Fi経由だと携帯電話回線を使わずにインターネット接続できる。交通機関や飲食店など、多くの公共の場所にWi-Fiスポットを設置することで、回線の混雑を緩和しようというわけだ。なかでもauはスポットを自社スマホユーザーに無料提供し、Wi-Fiを介したネット接続を促そうという戦略を取っている。

 また、各社とも独自に次世代高速通信網を整備し、増大するデータ通信量に対応する二面作戦を展開する構えだ。ドコモは現在データ通信用に提供している「Xi(クロッシイ)」という回線サービスを今冬からスマホ向けにも提供し、さらに新しい周波数帯を獲得して通信容量を増やそうとしている。そして、auはすでに運用を始めている通信サービス「WiMAX」が使えるスマホを徐々に拡充していく構え。また、2013年にはそのバージョンアップ版である「WiMAX2」を導入する予定だ。

 一方、ソフトバンクは次世代通信網整備計画でライバル社に後れを取ってはいるが、現行の携帯電話回線を発展させた「ULTRASPEED」で当面の危機を乗り切ろうとしている。だが、こうした対応をもってしてもパンク回避の根本的な解決策にはまだなっていないのだとか。

「インフラを充実させてデータ通信容量を増やすと、必ずそれを当て込んだ『重い』アプリやサービスが登場してくる。データ通信回線の混雑は半永久的に続くでしょうね(笑)」(佐野氏)

 この“いたちごっこ”に終わりはないってことね……。