岡ちゃんのことも、たまには思い出してあげてください!

2010年を絶好調のうちに締めくくったサッカー日本代表。新たに代表を率いるザッケローニ監督は、その手腕への評価もうなぎのぼり。守備がよくなった、攻撃も早い、やはり一流は違うとメディア・評論家からも賛辞の声多数。一時はしゅんとしていた「ワールドカップ3戦全敗族」のみなさんも、「ほれ見たことか」「岡田がいかにクソだったかわかるだろう」「俺の言ったとおり!」と元気を取り戻してきたように思います。

しかし、僕は岡ちゃんの功績を生涯忘れることはないでしょう。

2006年大会での惨敗以降、成績面でも人気面でも落ち込みを見せたサッカー日本代表。たまたま日本にいた老将オシム氏に再建を託すも、オシム氏が病気で倒れるという不測の事態。そんな中で、代表監督に就任した岡ちゃん。オシム氏への期待感が大きかったぶん、就任した時点でガッカリするところから始まった岡田JAPAN。メディア・評論家・ファンは不安と焦りから八つ当たりするがごとく、岡ちゃんを攻撃しました。孤立無援。ワールドカップ本大会期間に新聞に載った、「私はお父さんを信じてる」という娘さんからのメッセージには、悲壮感すら漂っていたものです。

そうなると知っていながら、1本しかない貧乏クジをあえて引いた岡ちゃんという男。

逆風に身を投げ、最後まで走り抜いた傑物は、日本に「自信」をもたらしてくれました。2006年に失った誇りを取り戻してくれました。それは日本人の手で行われてこその仕事。世界の名将に率いられての結果なら、評価は名将の手腕に集まり、名将が去れば再び自信を見失うことになります。「日本はやれる」ということを実感するには、一度日本人の手で結果を出す必要があったと思うのです。自分のチカラでやりとげなくて、どうして自分が信じられるものか。

名将の魔法ではなく、日本の持つ素のチカラだけで勝ち取ったベスト16。この結果は、今後何十年も日本の拠り所となるもの。彷徨い自信を見失ったときも、「2010年にはやれた」「監督は岡田だぞ」「選んだ選手は玉田とか大久保だぞ」と思い出せば再び希望が蘇るはず。今後どれほどの結果が出たとしても、忘れてはいけない、大切に語り継いでいきたい、大きなマイルストーンだ…僕はそう思うのです。名将岡ちゃんを、末永くリスペクトしていきたいものですね。

ということで、リスペクト感がうっすいことでおなじみの村上龍氏が司会をつとめるテレビ東京「カンブリア宮殿」より、14日に放送された「岡田武史」の回をチェックしていきましょう。



◆ぶれない強さ、変わらない信念、それこそが岡ちゃんの才覚!

勝負をわけるのは戦術・システムなどではない。8割は小さな「細部」にこそあると語る岡ちゃん。1回のダッシュでも手を抜かない心がけが、運をつかみ損ねない秘訣だといいます。戦術・システムに関しては評論家諸氏からもあまり評価されない岡ちゃんですが、勝負をわけるディティールについては、徹底的に追求していたのです。


◆個で勝つトレーニング

今回の監督業において、岡ちゃんがアドバイスなどを求めた福島大学の白石豊氏。白石氏との出会いで、岡ちゃんはひとつの大きな気づきがあったといいます。

<岡ちゃんの気づき>

僕が最初に、日本のサッカーは個で勝てないから組織で戦うと言ったら、「どうして個で勝てないんですか?」と言われた。僕にとってはものすごい大きなスイッチだった。個で勝てないことはサッカー界の常識。最初はカチンときた。でも、何で個で勝てないと決めつけたんだろう。

「個で勝てない」から「個でも勝つ」への転換。2006年ジーコが去り際に言い放った、「フィジカルが弱い」という指摘に正面から向き合うかのごとく、岡ちゃんはフィジカル強化のトレーニングを選手に課すようになったとか。「走り勝つ」「球際で勝つ」の2点を目標に、体幹トレーニングなどピッチ外でのメニューを増量。合宿だけでなくクラブでもトレーニングを積むよう、ストレッチ方法のDVDなど細かい指示を海外にまで送りつけたのだとか。

そして、その改革は「走り方」そのものにも及びます。現在日本の陸上界を牽引する福島大学から、川本和久氏に指導をあおぎ、新技術を導入。

<川本氏が教える 走る技術>

●日本人の特性として、ヒザが強い、柔らかいということがある。ヒザを上手に曲げることができるので、日本人は走り出しが強い

●ところが多くの人は、足を後ろに引いて蹴り出すスタートをしている。移動するときに早くするために、自分の体を動かすより、足を後ろにやるほうが速いと思っている

●ヒザを柔らかく曲げて、一歩目から前に踏み出すほうが速い

●後ろの一歩から始めるか、前への一歩から始めるか。当然ボールに向かうときのスタートが違うので、寄りも速いし、ボールにも速く行ける。それだけで50センチから1メートルは違う

パスでスコンスコン抜かれるのではなく、結局球際の競り合い・こぼれ球の争いで負けていたと語る岡ちゃん。その差を埋めるのはシステム論などではなく、もっと地味で細かい部分。この走り方の話などは誰でも実践でき、間違いなく役立つもの。Jリーグの選手たちにも、自分の走り方を今すぐチェックしてもらいたいものです。



◆選手の意識を改革するアプローチ

井上靖の詩「人生」の一節を引用し、世界の名将たちの言葉をノートに書きとめ、禅の修業にものぞみ、流行のドラッカーも含めたあらゆるものからヒントを求めた岡ちゃん。それらを活用して、選手たちの心のありようにまで踏み込んでいったとのこと。ベスト4を目指す高邁な意志を持つよう、選手たちにうながしていったのです。

<岡ちゃんが遠藤保仁さんに言い放った言葉>

岡田:「ヤット、お前その腹でベスト4に行けるのか?」

遠藤:「覚えてますよ。全体ミーティングのときに普通に言われて、確かにそのとおりだなと思いましたし」

指導者:「ヤット、お前そのパーマで表参道に行けるのか?」
指導者:「ヤット、お前そのチョビひげで代官山に行けるのか?」
指導者:「ヤット、お前その……で銀座に行けるのか?」

などの指導もお願いします!


この指導の甲斐あって、遠藤さんの走行距離は劇的に向上。このような変化が選手全体に起き、レベルアップが図られたというのです。

さらに、岡ちゃんはビデオも活用。試合前にはモチベーションを高めるビデオで「日本をかけて(闘おう)」という強いメッセージを発信。トレーニングでは、日本代表のいいプレーを編集したビデオを見せパスサッカーのコンセプトを確認。ビデオの合間にはわざと色々な映像を入れておき、「このドリブルいいね」など独り言を展開することで、選手たちに「コンセプト以外のプレーもOKだよ」と無意識の刷り込みを行ったのだとか。

<岡田監督が語るリスクテイクのススメ>

岡田:「究極のエンジョイとは自分の責任でリスクを冒すこと。監督がココだと言っている、でも俺はココだ。これで成功したときにこんなに楽しいことはない。ギャンブルも自分のなけなしの金で賭けるから、なくなったら大変だ、勝ったら何を買おうかという喜びがある。言われたことをこなすだけじゃ面白くないだろう」

岡田:「でも失敗したら怒るぞと。リスクを冒したら失敗しても褒めようなんて、それはリスクじゃない」

元貴闘力:「まったくそのとおり!」
元琴光喜:「リスクあってこそのギャンブル!」
相撲協会:「バレたら怒るぞ!」

なるほど、こりゃ楽しそうだwwwwwwww




◆ぶれない強さ、信じる気持ち

それでも本大会直前には4連敗と最悪のムード。世間からも解任要求が飛び出すなど、岡ちゃんへの風当たりは強くなっていきました。そんな中でもぶれない強さ、ベスト4という目標を取り下げない信念。どん底の状況にいた岡ちゃんは、アドバイスを仰いでいた福島大・白石氏に、強い信念を示すメールを送っていたといいます。

<大会直前、岡ちゃんが綴った信念のメール>

岡田:「選手を私が信じなければチームになりません。彼らはこんなものでは、こんな程度ではありません。もっとできます。彼らを信じて、チームに輝きを取り戻して見せます」

1998年当時、日本を本大会に導いた岡ちゃんは一躍時の人となりました。しかし、岡ちゃんが感じていたのは「俺自身が人間的に進歩したり何かが変わって、周りの評価が変わるなら受け入れられるけど、俺は何も変わっていない。これは恐ろしいことだ」という違和感。このような客観視の視点があればこそ、順風の中でも自分を見失わず、逆風の中でも自分を信じることができたのかもしれません。

そして番組は、岡ちゃんのこんな言葉で締めくくられました。

<岡ちゃんが最後に語った言葉>

岡田:「自分は自分だし、自分以上でも自分以下でもない。ありのままの自分をしっかり受け止めていたい」

「日本は日本だし、日本以上でも日本以下でもない」…これはまさに今大会で日本人が気づいたことそのものです。あの大会で見た「ありのままの日本」を信じ、ヘンに思い上がったり、いたずらに落ち込んだりせず、これからも日本サッカーを応援していきたいものですね。



岡ちゃんありがとう!余生は地球環境保護などに尽力してください!


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