大阪の下町を走る黒塗りの車。車はアパートに横付けし、中高年の男性を乗せる。向かった先は、数キロ離れたごく普通の住宅街にある歯科医院だった。私たちは、医療費の不透明な請求が行なわれているという情報を得て、黒塗りの車の追跡ロケを始めていた。

 治療を終えた男性を乗せ、車は再び住宅街へ。送迎サービスのある歯科医院かと思ったが、そうではないようだ。患者を迎えに行く先が、生活保護受給者が数多く入居しているアパートだったからだ。

 私たちは黒塗りの車から降りた男性を追い、直撃取材へ。

「どうしてわざわざ遠くの歯医者に行くんですか?」

 男性に話を聞くと、今年の春先に支援NPOを名乗る団体に声をかけられ、生活保護を受け始めたという。その際に、歯科医院も斡旋されたと言う。

 なぜ生活保護受給者ばかりを集めるのか? 私たちは歯科医院の事情を知る人物にたどり着いた。その人物は

「生活保護者をターゲットにすれば、取りそこね無く、安定収入になる」

という。

 歯科医院が利用しているのは、医療扶助という国の制度。生活保護受給者には医療費の自己負担が無く、医療機関が治療費等を請求すれば、全額が国・自治体から支払われる仕組みだ。

 さらにこの仕組みが大きな利益をもたらすという。自己負担が無いため、過剰診療を行っても問題になりにくいのだという。この歯科医院では、差し歯で済む治療を入れ歯にしたり、1回で済む治療を10回に分けたりするのだという。こうして行なった過剰診療の収入の一部がリベートとして生活保護受給者を集めた暴力団やそれと結びついている支援団体に渡っていると証言した。

 日本では、入院料や治療費など全ての医療行為の価格を国が全国一律で決めている。2年に1度改訂される診療報酬だ。医療機関は患者の病名、行なった治療や検査を診療報酬明細書「レセプト」に記入して公的な審査機関に提出。審査を通ったものが医療保険を運営する健保組合や市町村などに送られ、お金が医療機関に支払われる。このお金は私たちが支払っている保険料や税金だ。

 次に私たちは、過剰な医療費の請求に入院患者が利用されているケースがあるという情報を得た。病院に長期にわたって入院しているという数人の患者に話を聞くと、生活保護を受けながら入院しているという。入院歴は5〜10年。特に治療もせず、時間をつぶしながら入院をしているという。

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