「無料経済」時代に儲ける方法:Wired編集長が語る新著

写真拡大

Chris Kohler

テキサス州オースティン発――近く出版されるワイアード誌の編集長Chris Anderson氏の新著『Free』は、無料らしい。

『SXSW Interactive』会議の最終日17日(米国時間)には、「マック・エバンジェリスト」(Macのマーケティング担当)だったベンチャー投資家Guy Kawasaki氏とAnderson氏が語るというイベントが行なわれた。この席でAnderson氏は、「製品を無料で配布する経済」をテーマにした自分の新著は、1銭も払わずに読めるようになると述べた。だが、出版社のHyperion社に、その仕組みについての詳細は明かさないようにと言われているとも語った。

[無料経済とは、ボランティアや広告費に支えられて、ITサービスが無料になっていくという動向のこと。Chris Andersonの著書には他に『ロングテール:「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(早川書房刊)がある]

Kawasaki氏は、Twitterに書き込まれている観客たちの質問を読みあげた。その1つには、「これはオプラ・ウィンフリーのトーク番組みたいなもので、無料の『Free』が座席の下に置いてあるんじゃないかと期待していた」と書いてあった

これに対してAnderson氏は、「7月6日には、無料の『Free』が……マウスボタンの下にあるだろう」と返答した。

ワイアード・コムの姉妹誌であるワイアード誌の2008年のカバーストーリー「Free(無料)! $0.00がビジネスの未来である理由」の中でAnderson氏が展開した「無料経済論」では、インターネット時代において、商品の無料提供は、マーケティング的仕掛けから、ビジネスのやり方を変える根本的な戦略へと変わってきたと主張している。

「本を無料にできる仮定のシナリオを紹介しよう」と、Anderson氏はSXSWiのイベントの中で述べた。Anderson氏は、コンベンションなどで配布されるような、表紙に企業のロゴが印刷されたスポンサー付きのペーパーバックと、MP3のダウンロードとして配布されるオーディオ・ブックなどを例に挙げながら、ある種の配布方法の場合、かかる費用はゼロに近づいており、そのため消費者への負担もゼロになりつつあると指摘した。

印刷された書籍の場合、コストはゼロではない。Anderson氏は、ある割合の読者は、従来の紙の本にアップグレードしようと考えるだろうと見込んでいる。

「紙はまだまだ重要だ。物質的な本の方が優れた形だと考えるなら、無料サンプルを気に入った人は紙の本を購入すると考えるべきだ」とAnderson氏は述べた。

無料版を手にした人の一部を有料版の利用者に変えることが、無料製品で利益を上げるうえでの鍵だ、とAnderson氏は言う。同氏の考える「儲けの出る割合」は5%だ。

『メイプルストーリー』、『Club Penguin』、『NeoPets』などの子供向けの多人数参加型オンラインゲームはすでに、「有料化へのあらゆる可能性の模索」を始めている、とAnderson氏は語った。「無料ユーザーの5%を有料ユーザーに変えることができればコストを相殺できる。それ以上にできたら大成功だ」

メイプルストーリー』などのアジアのビデオゲームは特に関連がある、とAnderson氏は指摘し、その理由を「中国が無料の未来」だからだと説明した。[メイプルストーリーは、韓国NEXON社が提供するにあるオンラインゲーム。日本ではネクソンジャパンが提供している]

Anderson氏は、新著のまるまる1章を中国に割き、同国の知的所有権保護の欠如が、音楽業界の運営方法をいかに変えたかを例として挙げている。

「海賊行為を行なう者たちはCDの海賊版を作成するが、それによって有名人が生まれる。有名人をうまく使うと金が生み出されうる」とAnderson氏は言う。中国のポップスターは音楽売上で利益を出すのではなく、イベントに出たり、広告などに出演することで利益を出すのだという。

なお、「free」という言葉がマーケティングツールとして優れているのは、英語では「無料」という意味のほかに「自由」という意味もあるからだという。


Chris Anderson氏


会場でメモをとる参加者たち

WIRED NEWS 原文(English)

  • IT企業のレイオフ状況と、「Web2.0型無料経済は消滅」予測2008年10月24日
  • 無料・無制限の強力なクラウド型音楽サービス『Spotify』(動画)2009年3月3日
  • 『YouTube』で巨大音楽ライブラリを作る無料アプリ、15歳が開発2009年3月10日