次世代DVDレコーダー市場の急成長でシェア争いが過熱してきた 写真:J-CASTニュース

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次世代DVDの規格争いに決着がついた。HD DVDを推進した東芝が3月を目処に販売を終了し、同事業からの撤退を明らかにした。ソニーや松下電器などが推すブルーレイディスク(Blu-ray Disc)に軍配が上がったのだ。両規格とも高画質の映像を残せる動画規格として、昨年のボーナス商戦では激しい戦いを繰り広げており、どちらの陣営も一歩もひかない構えだった。それから2ヶ月も経たないうちにあっさりと決着が着いてしまったのだ。

ブルーレイとHD DVDの規格とともに両陣営の争いを振り返り、ブルーレイがHD DVDに勝利した理由をさぐってみよう。

■次世代DVDの種類 ブルーレイディスク vs HD DVD
まずは次世代DVDが誕生したキッカケから振り返ってみよう。

●次世代DVDの幕開け
地上デジタル放送の開局ともに、ハイビジョン放送は全国的に広がり多くの地域で視聴されるようになっている。地域によってはケーブルテレビでもハイビジョン番組を楽しむことができるようになった。そんなハイビジョン番組は高画質な映像を実現するためにアナログ放送と比べ画面が高解像度のた、既存のDVDハードディスクレコーダーでは高解像度のまま録画することができず、リアルタイムで見るしかなかった。(DVD解像度では録画可能)

そこで高画質なハイビジョン番組を録画するために生まれたのが「次世代DVD」と呼ばれる規格だ。ソニーや松下電器が提唱する「ブルーレイディスク」と、東芝の「HD DVD」という2つの規格が生み出され、次世代のスタンダードの座を巡り競争が展開されてきたのだ。

では、ブルーレイディスクとHD DVD、それぞれ特徴を振り返ってみよう。

ブルーレイディスク
参加メーカーは、ソニー、松下電器、シャープなど。
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シャープ「BD-HDW20」
写真:RBB TODAY

●ディスク容量
ブルーレイディスクは、ハイビジョン映像はもちろんだが、さらに先の映像規格を見据えて開発された次世代DVD規格だ。メディアはCDやDVDと同じ12cmのディスク。DVDディアと同じように読み込み専用の「BD-ROM」、1回だけ書き込みができる「BD-R」と、何回でも書き換えができる「BD-RE」の3類が存在する。単層メディアで現行DVDの約5倍となる25Gバイト、2層メディアで単層メディアの2倍となる50Gバイトという膨大なデータを記録できる(表1)。

表1.ブルーレイディスクの種類と記憶容量
種類単層2層
BD-ROM25Gバイト50Gバイト
BD-R25Gバイト50Gバイト
BD-RE25Gバイト50Gバイト


さらに転送レートは54Mbps、72Mbps(BD-RE ver.2.1)、144Mbps(BD-R ver.1.2)を実現しており、ハイビジョン放送の転送レート24Mbps※をはるかにしのぐ規格となっている。
※BSデジタル放送

映像の記録時間は、単層の光ディスク(25Gバイト)の場合、デジタル番組※1なら2時間強の、地上デジタル放送※2なら3時間強で、外ビジョンの映像をメディアに残せる。
※1 1920×1080i、 24Mbps
※2 1440×1080i、16.8Mbps

このように大容量のデーターを記録できるのは、書き込みと読み込みに使用するレーザーとディスクに秘密がある。

ブルーレイディスクを支える技術と優位性
機械が苦手な人でも理解しやすいように、身近なものを例にブルーレイの技術を説明しよう。

鉛筆を使ってノートにメモをとる場合、先のとがった鉛筆で書き込むと、書き留められるメモの量はおのずと増える。またノートの罫線に沿って記録する場合、罫線の間隔が狭いノートのほうがより多くの情報を記録しやすい。この鉛筆にあたるのが半導体レーザーで、ノートにあたるのがディスクだ。

まずレーザーについて説明しよう。CDやDVDでは波長が650ナノメートルの赤色のレーザーを採用しているのに対し、ブルーレイディスクでは波長が405ナノメートルの青紫色レーザーを採用することで、ビームスポットの微小化を実現している。さらに光を絞りこむ能力に優れた高い開口数(NA)のレンズを採用することで、DVDの0.6を上回る0.85まで光の密度を高め、トラックピッチをDVDの半分以下にしているのだ。

光の波長は赤から紫へ向かうほど短くなる。ブルーレイディスクに採用された「青紫色レーザー」は、光の原理から考えると、可視光線の中でも短い光の波長で、これより短い波長を用いると、ディスクの原理そのものを変える必要があるといわれている。つまり、ブルーレイディスクのレーザーは現在の光学技術の最終段階まで到達しているというわけだ。

次にディスクだが、DVDでは0.74マイクロメートルだったトラックピッチをブルーレイディスクでは0.32マイクロメートルに狭めることで、DVDと同じ大きさの12cmのサイズで実質的な記憶容量を増やすことを実現した。

以上のように、ブルーレイディスクでは、短波長の青紫色レーザーを高開口数のレンズで絞り込み、光スポット面積をDVDの約1/5にすることで片面一層でもDVDディスク※に比べて約5倍となる25Gバイトもの大容量化を実現したというわけだ。
※4.7Gバイト


■HD DVD
参加メーカーは、東芝など。
東芝、HD DVD-Rに長時間録画を実現! HD DVD搭載HDレコーダー――MPEG4 AVC記録に対応
東芝「RD-A301」
写真:RBB TODAY

●ディスク容量
HD DVDは、ブルーレイディスクと同様にハイビジョン映像を録画するために開発された次世代DVD規格。メディアは12cmまたは8cmの光ディスクで、読み取り専用の「HD DVD-ROM」、1回だけ書き込みができる「HD DVD-R」、何回でも書き換えができる「HD DVD-RW」、主にパソコン向けで何回でも書き換えができる「HD DVD-RAM」の4種類が存在する。12cmのメディアは片面一層で15Gバイト(片面二層で30Gバイト)、8cmディスクでは片面一層で4.7Gバイト(片面二層で9.4Gバイト)のデータを記録できる(表2)。

表2.HD DVDの種類と記憶容量
種類片面一層片面二層片面三層
HD DVD-ROM15Gバイト30Gバイト51Gバイト
HD DVD-R15Gバイト30Gバイト-
HD DVD-RW15Gバイト30Gバイト-
HD-DVD-RAM20Gバイト--
※片面二層は未策定


映像の記録時間は、片面一層の光ディスク(15Gバイト)の場合、BSデジタル放送※1なら約75分の映像をメディアに残せる。
※1 1920×1080i、 24Mbps

●HD DVDを支える技術とブルーレイディスクとの差
HD DVDもレーザーと光学ディスクを使用する点は、ブルーレイディスクと同じだ。
まずレーザーだが、HD DVDもブルーレイと同様に波長が405ナノメートルの青紫色のレーザーを採用している。CDやDVDよりも波長の短いレーザーを用いることでより高密度な記録ができる点も同じだが、HD DVDの実開口数(NA)は0.65ナノメートルと、ブルーレイディスクの0.85ナノメートルに比べて密度が低い。小数点以下の違いだが、この時点で記録できる容量に差がついてしまったわけだ。

次にディスクだが、HD DVDではDVDで0.74マイクロメートルだったトラックピッチを0.40マイクロメートルにまで狭めることで、DVDと同じ大きさで大容量のデーター記録を実現しているのだが、ブルーレイディスクが0.32マイクロメートルである点を考えると、ハードウェア的な面でディスクもブルーレイに一歩及ばなかったようだ。

コスト面に関してはHD DVDのほうがブルーレイディスクよりも優れていた。ブルーレイディスクは0.1mmの深さに記録層があるのに対して、HD DVDはDVDと同様に0.6mmの深さに記録層がある。これにより、HD DVDはディスクの製造に従来のDVDの製造機器の一部を一部流用できるため製造コストを低く抑えられたのだ。

■勝利の女神はブルーレイに微笑んだ
ブルーレイが最終的に勝利した要因はどこにあるのだろうか。様々な理由があると思われるが、もっとも有力な説は先にマーケットを確保したマーケット戦略と言われている。

●マーケットを確保
ブルーレイ陣営は、特許独占よりも業界標準となることを優先し、ソフト供給元の取り込みで優位を確保した。
直接に勝敗を決定づけたものは、DVDソフトを供給する米ワーナー・ブラザーズと小売世界最大手の米ウォルマート・ストアーズ※がブルーレイディスクの支持を表明したことだが、この2社を陣営に引き入れることに成功したことで、結果的に米映画大手6社のうち4社がブルーレイディスクを支持するに至る。つまり、ハイビジョン対応ソフトの供給において圧倒的な差が生まれる結果となったわけだ。

録画ができるとはいえ、人気映画やドラマなどのセルDVDの提供数は決定的な問題ともいえる。これらにより、東芝は、次世代DVD事業からの撤退を余儀なくされたのだろう。
※全米に4000店以上を展開し、家電の販売動向に大きな影響力を持っている

図1 ブルーレイとHD DVDのシェア
図1 ブルーレイとHD DVDのシェア
(C) MacRumors.com, LLC


※青がブルーレイ、赤がHD DVD

参考:Mac Rumors: HD-DVD vs Blu-Ray Battle Over? Warner Switches to Blu-Ray

●テレビコマーシャルでのイメージ戦略に差か?
2007年 冬のボーナス商戦を前にしたテレビコマーシャルの作り方も次世代DVD競争に大きく影響したと言われている。

ソニーはテレビCMにカリスマロック歌手の矢沢永吉氏を起用し、「せっかくのハイビジョンテレビ ブルーレイじゃないと、もったいない」という彼のメッセージとともに、ハイビジョン映像を楽しむためにはブルーレイレコーダーが必要不可欠であることを視聴者に強くアピールした。

一方、東芝はモデルの長谷川潤さんを起用し、ドレスアップした衣装で「ハイビジョンとるならやっぱりHD DVD」、次にカジュアルな衣装で「これからはふつうのDVDにも」と、HD DVDとDVDの両方を宣伝するかたちをとったのだ。ハイビジョン映像を記録できるHD DVDの高画質さを視聴者に伝えるという点では印象が弱くなってしまったのでは? と言われている。

こうしたイメージ戦略が原因かは不明だが、2007年 冬のボーナス商戦はブルーレイディスク陣営の圧勝に終わっている。

●HD DVDユーザーへの対応が課題
かつて家庭用VTRの規格でVHSとベータマックスとの規格争いが約10年間も続いたことを考えると、東芝の撤退表明は非常に早い決断といえる。

東芝がこれほど早期にHD DVD事業の撤退を決めた理由ひとつには、経営への打撃を最小限にとどめるためとの見解が有力だ。

先のVTR争いで敗れたソニーは、現在もベータマックスのテープの販売と機器修理を継続しており、このことからもHD DVD利用者をこれ以上増やさずに撤退することでサポート負担を軽減することができるからだ。大手家電量販店「エディオン」では、東芝の発表を受けて同グループの販売店でHD DVD製品を購入した顧客を対象にブルーレイ製品への交換を実施することも表明している。

これまでに東芝が販売してきたHD DVDは、パソコンを含めて全世界で100万台に達しており、同社は修理用の部品を8年間は供給するしている。


●ブルーレイ陣営は内乱の時代へ
ブルーレイとHD DVDの次世代プラットフォーム争いが決着が着いた今、新たな火だねが持ち上がっている。ブルーレイ陣営内のシェア争いだ。現在のシェアは、ソニー61.1%、松下23.7%、シャープ10.1%と、ソニーが一歩リードしたかたちだが、HD DVDよいう共通のライバルがいなくなった今、各社間の競争が本格化することは間違いない。
※参考:ブルーレイ陣営“ソニー、松下、シャープ”が「内乱の時代」

次世代DVDの勝者はブルーレイだが、メーカーの勝者争いは、これから開始される。


参考
ブルーレイディスクレコーダーサイト
ソニー ブルーレイディスクレコーダーサイト
HD DVD プロモーションサイト
社団法人デジタル放送推進協会
地上デジタル放送に関する公開情報
総務省
HD DVD 事業の終息についてのお知らせ - 東芝
ついに購入したHD DVD製品をBlu-ray製品に交換する量販店が登場



編集部:関口哲司
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